こきりこ竹
合掌造り集落で有名な富山県五箇山に伝わる郷土芸能、こきりこ。
田植えや稲刈りの間に行われた田楽や田踊りなどから派生した古い踊りと言われています。
少し前の記事で、踊り手の男性が着用する直垂(ひたたれ)の色について触れました。今回は、囃し方が使う楽器の一つ、こきりこ竹についてご紹介します。
こきりこ竹
こきりこはこんな出だしで始まります。
こきりこ竹は、南北時代あたりからみられるようになる大道芸人、法下師(ほうかし)が使っていた楽器です。
コトバンクに、こきりこを打ち鳴らす放下師の図が掲載されていました。
禅の用語で、世俗の執着を捨てて解脱することを放下(ほうげ)と呼びます。そこから派生して、僧形の大道芸人を法下師(ほうかし)と呼ぶようになりました。
こきりこには、放下(ほうげ)と法下師(ほうかし)をかけて、以下の歌詞があります。
朝草刈りは飛騨の言葉で、牛にやるために、朝食前に夜露に濡れた草を刈ることです。また、朝飯前という言葉と同じく、簡単にすます仕事という意味もあります。
草を刈る早朝と、月が輝く夜。
ひよどりの声と、こきりこ竹の音。
日々の仕事と、世俗への執着。
対比表現で、当時の人々の日々の生活が目に浮かぶような景色を見せた後、こきりこの歌詞は、平家の落人への言及へと続きます。
踊りのほうも、深山辺に、までは女性のしなやかな踊り、烏帽子狩衣の部分から、女性と入れ替わりで板ざさらを鳴らしながら直垂姿の男性の踊りが始まります。そしてその間も終始お囃子の一部として、こきりこ竹の音が鳴り響いています。
こきりこ竹の叩き方
こきりこ竹は、2本の竹を両手に1本ずつお箸のように持ち、左右交互に回転させるようにして打ち鳴らします。
この打ち鳴らし方が意外に難しく、皆で練習する時には、ああでもないこうでもない、と賑やかな教えあいが始まります。
4度叩いて一周。叩き方は敵討ち。
一方の竹の端で他方の竹の端を叩く。
叩かれた方の竹は反対側の端でもう一方の竹を叩き返す。
その繰り返しです。
叩かれたら別の端で叩き返す。つまり敵討ちというわけです。
反対側の端で叩き返す、というのが意外に難しく、あれ?今どっちで叩くんだっけ?と慣れるまで結構混乱します。本物のこきりこ竹では両端の区別がつけづらいため、練習するときにはお箸や鉛筆など、両端の違いがわかりやすい棒状のものを使っています。
法下僧が芸として見せていたくらいですから、できるようになると、一発芸として自慢できるかもしれませんね。
こきりこ竹の色
こきりこ竹は、煤竹(すすたけ)が用いられており鈍く光る濃い飴色をしています。
囲炉裏や竈の煙に燻された色なのだそうです。
調べてみたら、日本の伝統色にも煤竹色、というのがありました。
通好みの色。
こきりこ竹の、艶と渋さをあわせ持つ色あいを見ていると、室町の人々が好んで身につけた気持ちが分かる気がします。
今回は随分長くなってしまいました。
古くから伝わる伝統芸能の奥深さ、というところでしょうか。