野口晴哉「治療の書」より 全生
今回も、治療の書から抜粋させていただきます。
今回ご紹介する部分は、個人的には「治療の書」のハイライトだと思っています。
この箇所のみを見ると、生より死のほうに焦点が当てられているようにも思えますが、全編を通じて伝わってくることは、生き切ることの大切さです。
学生時代の話です。
野口氏の治療の技を体得されている恩師がいました。その恩師と話をしているところに、友人が駆け込んできました。両手に小鳥を抱えていました。窓ガラスに激しくぶつかってきたのだそうです。
「先生なら、この子を元気にしてくれると思って連れてきました。」
その時、先生は小鳥を受け取りながらいいました。
「生き物は死亡率100%なのよ。ほら、こんなに震えている。あなたの両手で体温を伝えて安心させてあげなさい。…ほら、震えが止まってきたでしょう?」
彼女は小鳥を連れ帰りました。翌朝冷たくなるまで見守ったそうです。
私はこの恩師に今もお世話になっており、恩師に教えられた野口晴哉氏に惹かれ続けています。
三十年間、治療に身を捧げ、その後、人間本来の力を引き出して健康へと導くべく、治療の道を捨てた野口晴哉氏。この本は、野口氏が治療に携わっていた時に、自らのために記したものだそうです。
人が活き活きと生きることに生涯を捧げた人が、人に読まれることを想定せず、自身のために書いたという文章には、あたたかく、強い力が漲っています。
生を十全に活し得ぬ人 十全なる死を得られざる也。
その最後の一瞬まで 活き活き活かしむ可き也。
参考