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4次元という支持体/ 澤あも愛紅 個展 「円の裏は、四角」 を見て

澤あも愛紅 個展「円の裏は、四角」のレビュー


□「戸」
澤あも愛紅は、4次元をテーマにする作家である。
その日、元商店だというシェアスタジオは、住宅街の道路とガラス戸で隔てられ、ギャラリーと化していた。とはいえ、正面の壁面には、よく見れば、両開きの扉が隠されていて、ギャラリーの装いの壁面は本来、戸であったことを伝える。その白い平面は、壁面であり、戸であり、次の瞬間には、動いているかもしれないということは、偶然にも、今回の展示とテーマが似ていた。

□ 「乗り物と、移動するもの」
作品は全て新作であった。その構造は皆共通していて、四角くカットされたアクリル版がまるで揺らいだかのように絶妙に曲げられていて、表面には油彩が施されている。油彩は、車やバイク、飛行機やキックボードといった乗り物が写真を元に描かれていて、作品によってその一部が部分的に塗られておらず、アクリル板はその裏にあるギャラリーの壁面を覗かせていた。また、作品の一部は、裏に周り込んで鑑賞できるよう意図的に設置されていて、表、裏、表と、覗き込んで見ることができるが、展覧会のヒントはここまでとなり、4次元とはなにかを考えてみても、すぐにはわからないことがわかる。
あらためて、描かれたものを見れば、一見、それがなぜ選び取られたのかわからない瞬間は多いだろう。「雨除けのシートが被せられたワゴン車」に、「積み上げられたタイヤの重なり」、「飛行機の機内食で見たオリーブ」といったものまであり、これは、澤の実験段階のプランではあったが、電車のつり革だけを描いたものまであった。ここで、乗り物というモチーフはあくまでメタファーとして用意された可能性に私たちは気づく。「移動、もしくは運動」のメタファー、あるいは、「本来、主体として動く側であるはずの人間を静止させ、客体の動きを観測させられるため」のメタファーである。

□ 「時間ではないなにかと、例えばとしてのアンフラマンス」
澤によって選び取られ描かれたシーンの考察は続くが、その前に、「4次元」という前提を考えなくてはならない。
私たちは、平面のことを2次元と呼び、立体や物理空間のことを3次元と呼ぶ。4次元は、人間には知覚できないものとされるが、その理論の中で一般的とされるのは、物理空間に時間の概念を加えたものであろう。しかしながら、

〜 ここでの“4次元”とは「時間」に限らず、他の要素/側面を加えた視覚性を多角的に試行する。 〜
(「円の裏は、四角」展 DMより、一部抜粋)

とあり、その答えもまた違うことが指摘される。ここで、ヒントとなるのは、澤のInstagram(@amo_aicou)だろう。筆者が思うに、澤の作品の魅力や、彼女の視点の独自性を見るには、このアカウントは、実に興味深く、面白い。いったいなぜ、それが良いと思うのか、筆者には理屈はわからないが、ただそれを見て良いと思う写真がサムネイル上に並ぶ。澤は、日常的に「4次元」を感じたものを日常の中で見つけてはInstagramを更新し、今回描かれた乗り物のイメージも、その写真の集積から選び取られたものである。
筆者の頭には、アンフラマンス/ infrimance という言葉が過ぎっている。「極薄性」とも訳されるマルセル・デュシャンの造語で、現在でもその真意は謎に包まれた概念だ。彼の死後見つかった約46点のメモからすれば、「(ひとが立ったばかりの)座席のぬくもりはアンフラマンスである」らしく、明確に定義されることはないものの、彼の知覚した具体例のみがただ示される。澤の「4次元」も、おそらくはそういった類いのものなのであろう。明確な定義づけこそ、本人にもできないものの、具体例はそこにあり、私たちは日常それに触れているのだ。

□「円の裏は、四角」
しばらく、澤のInstagramを見つめれば、その魅力を完全に理解し説明することこそできないが、いくつかの共通点は見えてくる。おそらく「偶然的に、同じカタチ(特に円や四角といった単純な図形の輪郭)が、複数個、目の前に現れたとき」。あるいは、同じく「偶然的に、同じ色のものが複数個、目の前に現れたとき」である。澤によって撮られた写真のすべてがこの理論に当てはまるわけではないが、ひとまずはこの理解で正しいと思う。
さて、筆者は、乗り物が、「移動、もしくは運動」のメタファー、あるいは、「本来、主体として動く側であるはずの人間を静止させ、客体の動きを観測させられるため」のメタファーと仮に定義したが、あらためて作品を見てみよう。
鑑賞者は、本展タイトルと、インスタレーションの誘導にしたがい、作品を表、裏、表と覗き込むであろう。当然、裏を見ているときは、人は同時に表を見ることはできない。この行為を繰り返しているうちに、「どうして、目の前のその平面が、その次の瞬間も同じその平面であることを、私は確信していたのだろうか」、ふいにそんなことを思ってしまった。絵を描くための紙やキャンバスを支持体と呼ぶことがある。思えば、澤の作品はその支持体を変化させることが多い。波打ったアクリル板が、描かれた乗り物が、絵具が、筆跡が、それらを透けた壁面が、次の瞬間の動きを予期させる。
これは本人から聞いた話だが、澤にとって、「絵は描くというより、作るに近い感覚」のものらしい。たまに、作品を見ていると、その作品の平面性でも立体性でもないところに、意識がいってしまった状態で、それを眺めてしまうことはないだろうか。2次元とも3次元ともつかないところに私たちの意識が向かうとき、それは3次元を生きる私たちにとって、「4次元」の扉なのかもしれない。


澤 あも愛紅
1993年生まれ。京都市立芸術大学院 美術研究科 修士課程 絵画専攻を2019年に修了。京都を拠点に活動する。主な展示に ignore your perspective 49「紙より薄いが、イメージより厚い。」(Kodama Gallery | Tennoz)、等。
Instagram(@amo_aicou)
https://www.instagram.com/amo_aicou/?hl=ja


artists space TERRAIN(テレイン)
2019年5月にオープン。西原彩香、澤あも愛紅、木村翔馬によるシェアスタジオ。
(〒602-0029 京都市上京区室町頭町上立売上がる室町頭町293番地1)
Instagram https://www.instagram.com/terrain.ask
Twitter https://mobile.twitter.com/terrain_1
mail terrain.ask@gmail.com


澤あも愛紅 個展「円の裏は、四角」
August 21(fri)-23(sun), 28(fri)-30(sun)

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