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池袋東口のアイツらについて行ってみた
本稿を売れない芸人たちと、池袋に出没する埼玉県民と、売れないお笑い芸人の追っかけしている女たちに捧ぐ――。
池袋東口を出て、ゲームセンターとかが一杯ある繁華街(サンシャイン通り?)に、いつも水色のハッピを着たヤツらがいるのをご存じだろうか。ヤツらは100円均一で買ったであろうホワイトボードに「お笑いライブ 500円」とか書いて立っている。
筆者は最近よく仕事の関係で池袋によくいる。クライアントに会ったり、喫茶店で制作活動なんかをしている。池袋東口のルノアールは、店員さんが無愛想でおなじみだ。初めて行ったときに「たばこ吸えますか?」と聞いたら、
「当店では紙巻きたばこはご遠慮いただいていますが、加熱式たばこであれば専用の席のご用意があります。喫煙席にされますか?禁煙席にされますか?喫煙席でしたら、奥のお席のお好きなところにおかけ下さい」
とめんどくさそうに一息で言われた。筆者は、この女性がきっとこれを一息で言えるかで一日の運勢を占っているに違いないと思った。池袋にはたくさんの訳の分からない人たちがいる。
さて、東京はいろいろな施設や店があるけれどヒマツブシに向かない土地柄である。例えば、筆者が今まで暮らした街で言えば、何のために開けているのか分からない客が誰もいない喫茶店とか、熱心にシーンの詳細をメモに書き込んでいる初老の男性が1人だけ毎日いるポルノ映画館とか、ホームレスが住民届を出しているのではないかというくらい定住している公園などがあった。
東京は何か目的を持たずして街を歩くことは許されない。どの街にも、どの店に行くにも理由がいる。筆者の仕事は24時間パソコンがあればどこでも出来るので、結構時間に余裕がある。だから、だらだらしたいときとか、ヒマを潰したいときがある。今までなら、パチンコ屋に行っていたのだけれど、小遣い制にされてから締めつけが苦しくなった。
かくして、筆者は汚い格好をしてハッピを着て呼び込みをしているアイツらに狙いを定めた。「きっと、アイツらなら500円でヒマを潰してくれるだろう」。意を決して、「すみません。1公演どのくらいですか」と聞くと
「え~ぇとぉ…1時間くらいですかねぇ…」(目が合わない)
筆者は確信した。このオドオド具合は悪いことをしているやつのそれだ。きっとオレオレ詐欺とぼったくりバーを合わせて2で割ったような悪行に手を染めているに違いないと感じた。
筆者はやたらと暗い表情のモジャモジャ頭についていき、会場にたどりついた。ここに。
カウンターで500円を支払って、席に着いた。
えっ!?
筆者は絶対に「お通し500円」的なノリだと思っていた。劇場に入ったら多分1ドリンク(800円)とか、カンパにご協力(強制)とかでいろいろお金がかかると思ったら、本当に500円だった。筆者のお昼ご飯代はしっかりと確保されてしまった。しかも小劇場なのにトイレがめちゃくちゃキレイだった。ただ、ウォシュレットは無かった。「詰まりやすいので分割して流して下さい」というはり紙と共にポッコンが置かれていた。
会場にはたくさんの椅子が並べられていたが、席を空けるように指示された。筆者の隣にはとても綺麗なお姉さんが座った。筆者はそれにも驚いたが、周りを見渡すと女性客が多かった。若く、オシャレで、かわいらしかった。筆者はよく、バンギャという人たちと交流している時期があったが、それに似ている感じがした。総じて、バンギャは黒と赤の服を着ていたが、ラスタ池袋に訪れた連中はパンツスタイルだったのが印象的だった。会場にはなぜかバンプオブチキンの曲が大音量で流れていた。筆者は「アルエ」を聞きながら高校の文化祭を思い出していた。軽音楽部のあまり格好良くないボーカルの先輩がアルエを歌って女子にピースしたら女子がキャーと嬌声を上げたことが思い出された。人は、人では無く状況に恋をする。
昼寄せが始まると恐ろしいペースで芸人が入れ替わり立ち替わりステージに現れた。で、総じてあまり面白くなかった。しかし、筆者は笑った。別に嫌な感情で笑ったのではなく、心の底から笑った。「これが現場か…」と心の中で思いながら、缶ビールをぐいっと飲んだ。
印象に残った芸人は「学歴たかお」(https://twitter.com/jbjbeuxdrflo7at)
膝小僧おしおきストしんぺー」(https://twitter.com/q0j9a5h10m5i2d1)
の2人である。ネタバレになるので、詳述は避けるが、こんな感じ。
「学歴たかお」は珍妙な服装でステージに上がる。そこで大きな声で「俺を下に見てんのか!」と怒り出す。そこから、ちょっぴり卑屈な自慢を語る。というもの。その見た目の普通さと言っている内容の平凡さはさることながら、声が大きいので面白かった。ちなみに学歴たかおは早稲田大学教育学部(中退)らしい。ということは、高卒なので「学歴」だけで言えばそんなに高くない。また、東大卒とか京大卒とかが比較的経歴を押して芸能界で活躍しているのに、なぜ落ち研も有名な早大で「学歴たかお」と名乗りだしたのかは分からない。疑問が疑問を呼び、とにかく笑いが止まらなかった。
膝小僧お仕置きストしんぺーは、とにかく元気。ステージを所狭しと、膝をしばきながら暴れ回る。字面で見ると何のことか分からないであろうが、とにかく膝をシバくのだ。いつ見ても面白い。朝食前でも、遠泳後でも、仕事で嫌なことがあっても、彼がヒザをシバけばきっと面白い。そう確信めいたものを感じさせるほどに面白かった。
しかも、猛烈にビックリしたのが、「ヒッキー北風」と「ゆにば~す」が登場したことだ。500円で、池袋で、雑居ビルで見るこの2組(3人)はバカみたいに面白かった。筆者は仕事中であることを忘れて笑った。当然、その日は仕事にならずに筆者は多くの残業を抱えてしまった。
結論、池袋にいるアイツラの話は一度聞いた方が良い。そこには、地獄とも見まがうような、笑いとシリアスの人間模様があった。筆者も嫌なことがあったら、ヒザをシバこうと思う。なお、膝小僧お仕置きストしんぺーがヒザをしばきすぎて、肘をケガしていたのはここだけの話だ。