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セクシー妻と記念日

 「記念日を祝いたい!」 

 妻が風呂上がり、セクシーバデーをたゆませながら叫んだ。

 ご存じの通り、筆者の妻も、泣きバナナ(※筆者の愛娘。最近歯が大きくなった)もとてもキュートだ。筆者もそれにふさわしく家長として役目を立派に果たしている。朝起きて「仕事に行きたくない」と30分ほどゴネ、ベランダでタバコをふかしながらオエッと嘔吐き、嫌々ながら自転車に乗って、満員の地下鉄でアルコ&ピースの違法アップロードされたラジオを聞いて、伏し目がちに超高層ビルに飲み込まれていく。これぞ家族のために働くお父さんの姿である。

 拙著「私の妻は元風俗嬢」でも触れる予定だが、我が家は見切り発車もいいところで走り出した。結婚式も挙げてなければ、指輪すら買っていない。当然、新婚旅行にも行っていないし、披露宴の二次会で同級生が酔いすぎて昔の恥ずかしい話を披露したりもしていない。でも、社会不適合者である筆者と妻にとっては毎日が必死で、楽しかった。記念日は大切にしていたつもりだが、妻はおしゃれなレストランで少々のサプライズを交えながらお祝いをしたかったようだ。突然の申し出に筆者はスウェットにマスクというダメ人間スタイルで泣きバナナをあやしながら「おぉ…」と返事した。

 筆者と妻は今から3年ほど前に出会っている。お互いにボロボロの状態で出会った。2人とも金勘定は全く出来ず、仕事も上手くいかず、人生に嫌気がさしていた。これ以上無いくらいに傷つき、立ち上がることができなくなった頃、筆者のワンルームで生活をスタートさせた。筆者と妻はいつ付き合いだしたとか、どこに旅行に行ったとかそういう思い出がまったくないのだ。そんなことよりも、部屋を清潔に保ち、家電をそろえ、スーツを新調し、少しでも安く食材を買えるスーパーを探さなくてはならなかった。

 妻は若い。筆者の3つほど年下であるから、大学に行っていれば、学生を卒業する頃合いからずっと一緒にいることになる。その短い時間に、彼女は風俗嬢から会社員になり、妻になり、母になった。まったく、その成長ぶりには驚かされるばかりである。そんな妻が「記念日を祝いたい」と言い出した。それは必死に駆け抜けてきた3年間が終わったことを意味していた。やっと我が家にも節目で何かを祝う余裕が出てきたのだ。長かったような、短かったような。借金の返済や妻の入れ墨など、破天荒の香りはかすかに残るものの、過去の清算ばかりでなく少しずつ前に進むべき時がきたのかもしれない。

 とはいえ、記念日とは何だろう。直近のそれらしきモノといえば、筆者の誕生日である。筆者は物欲が極端に無い。これはギャンブル依存症の人の特徴である。金はギャンブルをするためのものなので、依存症の人はモノを欲さない傾向にある。筆者が欲しいモノといえば焼酎の水割りくらいである。却下。次には泣きバナナの誕生日が来る。しかし、泣きバナナは泣いてばかりいるのでお祝いのしようがない。泣いてばかりいるので今年度はサンタクロースさんも来ない予定である。次は妻の誕生日である。これは毎年お祝いしているので新しいお祝いにカウントすることはできない。ちなみに、妻は被害者感情に煽られるあまり、お祝いされたことを完全に忘れている。

 そうすると、次はハロウィーンである。しかし、筆者には今年は仮装をして渋谷のセンター街に繰り出し、軽トラックをひっくり返さなくてはならないという仕事がある。SNSを始めた手前、これはもはや義務と言って差し支えない。それに加えて、フリーハグという紙を持って立ちすくまなければならない。浮かれて仮装して現れた茨城県民や千葉県民をナンパしなければならない。とてもじゃないがお祝いすることはできない。忙しすぎる。クリスマスも同様である。すると、結局来年3月の結婚記念日まで持ち越しということになる。

 しかし、それではあんまりではないかと思ったので、今日を記念日にしようと思う。あなたがナイスバデーをたゆませたから、今日という日は「ナイスバデー記念日」。本日、世間では祝日だというのに「護憲派」「改憲派」に分かれてにらみ合ったという。なので、来年以降はナイスバデー記念日に改めたいと思う。護憲派も改憲派も、老いも若きも男女問わず、ナイスバデーは大好きである。この日のためにナイスバデーにするもの、筆者のように大切な人のナイスバデーに感謝するもの、ナイスバデーをただただ愛するもの。全ての人類がナイスバデーに感謝する日である。筆者も最近は胸の大きなひとを見ると「ありがたいなぁ」と思っていたところであった。今から100年後のwikipediaには「noteという当時流行していたイキったSNSのイカレ野郎の妻がナイスバデーであったことから名付けられた」と記載されるに違いない。

 この妙案を妻にしたら「ふざけんな」と却下された。女心と秋の空とはよく言ったものである。今夜は泣きバナナを抱いてゆっくり眠ろうと思う。さらばナイスバデー記念日


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