アベンジャーズジョーカー

2019年、政治を語って勝ったアメコミ

・日本では政治への無関心が叫ばれて久しい。2019年の参議院選挙では投票率は過半数を割った。しかし、そんな日本を横目に世界は政治に夢中だ。
 
・2019年、世界を賑わせた映画といえば『アベンジャーズ』と『ジョーカー』だった。マーベルとDCコミックスが送るどちらもアメリカを代表するアメリカンコミック。
 
・日本だと一方は『ドラゴンボール』か『ワンピース』。一方は「バイキンマン」を主人公にした実写映画のようなものだろうか。そんな二つの映画が題材に選んだのは、まさしく政治だった。

"正義"が行った「歴史修正」『アベンジャーズ/エンドゲーム』

・映画史上、最大の興業収入を得た『アベンジャーズ/エンドゲーム』。11年21作の集大成となったTHE ヒーロー映画だが、勧善懲悪のような単純なものではない。なぜなら一度はヒーローたちが完膚なきまでに敗れているからである。

・『エンドゲーム』の前作『インフィニティウォー』では最大の敵、サノスが勝利を収めた。サノスにはサノスなりの"正義"がある。「世界の均衡を保つために全宇宙の生物を半数にする」。そうでなければ宇宙の格差や食料問題、環境問題を解決することはできないという。

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・サノスは自らの"正義"を「慈悲」と呼び、アベンジャーズは「虐殺」と呼んだ。結局サノスの"正義"が勝ち、全宇宙の生物は半数にされた。もちろんヒーローたちも半分が消えた。

・残されたヒーローたちが行使した"正義"は結果、科学の進歩を利用した「歴史修正」だった。5年後を描く『エンドゲーム』で残されたアベンジャーズはタイムトラベルを行い歴史を塗り替える。そして、勝利を得る。

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・しかし、シリーズ次作の『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』では早くも「歴史修正」の負の側面が露呈していたし、それによって生まれたフェイクニュースとの戦いがテーマだった。

・『アベンジャーズ』シリーズは現状2022年まで様々な展開を見せることが決定している。そこで『エンドゲーム』で行ってしまった「歴史修正」は物語の大きな軸になっていくだろう。そして、それは現代の特徴的な政治問題を扱っている。

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"物語"を持たないマイノリティ『ジョーカー』

・アメコミ初の金獅子賞。アカデミー作品賞の筆頭にも挙げられている。さらにはR指定ながら商業的にも大ヒット。国内でもちょっとした社会現象に。 『ジョーカー』は確実に2019年の主役映画のひとつだ。

・主人公のアーサーは一見どこにでもいるマジョリティだ。男性であり、中年であり、白人であり、母親ひとりだが家族も居る。低賃金だが職もある。さらにコメディアンになりたいという夢も。

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・しかし社会は彼に冷たい。一見どこにでもいるマジョリティであるが故に彼は相手にされない。さらに彼は情動調節障害(PBA)という見えづらい疾患を抱えていて、本人の意に沿わずところ構わず笑ってしまう。負の歯車はまわり彼はどんどん社会から疎外されていく。

・映画鑑賞者はアーサーの"物語"を知っているが、映画の舞台となる社会はアーサーの"物語"を知らない。アーサーはいわゆる「キモくて金のないおっさん」と位置付けられるかも知れない。今、こうした「"物語"を持たないマイノリティ」をどう救うかは、世界的な政治課題でもある。

・いまほどマイノリティに"物語"が求められている時代はない。難民にせよ、LGBTにせよ、フェミニズムにせよ、障害にせよ、それぞれ歴史があり強力な"物語"がある。"物語"はいま社会的に大きな武器なのだ。

・"物語"は「共感」に直結する。「共感」は場合によって「自分ごと」に繋がる。SNSの勃興によってこの流れはより強化されている。

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・『ジョーカー』は「"物語"を持たないマイノリティの逆襲」を描いた映画だった。アーサーが「ジョーカー」へと変身したのは、自らが「"物語"を持たないマイノリティ」だと知った瞬間だった。そして、「暴力」へ走っていく。

・大前提として「テロリズム」はいかなる場合でも非難されるべきだ。だから「ジョーカー」も無条件で非難されるべきだ。しかし根深い問題は、アーサーは社会が狂っていると知りながら、自分自身が狂ってしまった。そして、ラストではその狂った社会のカリスマとして崇められ踊らされた。つまり、狂った社会がある意味「テロリスト」の誕生を待望していた点である。

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・とあるニュース番組で女子高生が「ジョーカー」に共感しているコメントが気になった。私のことを代弁してくれている、らしい。たまたま通勤電車で隣だった人や、たまたま店で接客をしてくれた人、たまたま道端ですれ違った人。「"物語"を持たないマイノリティ」は僕たちのすぐ隣に居る。


政治は本当に面白くないのか?

・「政治関連のネタは面白くないからコンテンツとして成立しない」とよく言われる。嘘だ。この文章の冒頭、政治を選挙の投票率で語った。だから面白くないのだ。残念ながら政治を選挙で、デモで、スキャンダルで、安倍首相で語っても、ただ遠い存在でしかない。

・「音楽に政治を持ち込むな」という議論があった。理由は単純だ。上記のような「政治は面白くない」という固定概念が定着しているからだ。

・「政治に関心を持とう」、「選挙に参加しよう」、「若者の政治離れ」はどうでもいい。まずは「政治は面白い」ことを証明するべきだ。2019年、奇しくも2つのアメコミ映画がそのことを証明してくれた。そして、勝ったことから多くを学びたい。

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