うるさすぎる“くしゃみ”を考える

たまに、くしゃみがものすごくうるさい人がいる。そんなに叫ぶ必要があるのかと思うほど。そのほとんどは40代後半〜70代の男性、といった印象。彼らは、職場や電車内、ショッピングモール、道端で、私の日常の中に突如として現れるけれど、なぜそんなにもいちいちうるさくするんだろうか。そのでかいくしゃみのおかげでこっちの鼓膜が限界まで振動して脳まで揺れているというのに、お前のは一体どうなってんだよ、と気になったので考えてみた。

どうして「40代後半〜70代」の印象が強いのか

偏見だけれど、聞いたこちらが「さすがに限度があるだろ」と感じる音量レベルに到達している人には、おそらく羞恥心が無い。だから40代後半くらいの年頃になるとポツポツと現れ始める。そして年齢が上がるにつれて、その人口は増えていく。ただ、80代を過ぎるころからグンと数が減っていって、また稀な存在になってくるように思う。これは、きっと身体に響くからだ。くしゃみには想像以上の威力がある。突発的に勢いよく発声すれば、ぎっくり腰や何かの問題を引き起こしかねない。なにも命懸けで大きなくしゃみをする価値はない。

「40代後半〜70代」を想定する

40代後半から50代の男性となると、会社である程度の責任あるポジションについている世代だろう。こういう人たちは自分の仕事内容や職場環境だけでなく、家庭や社会からも多大なストレスをかけられている可能性が高い。60代から70代にかけての世代では、会社を定年退職して一気に社会との関わりが減ってしまった人が多いだろう。会社や社会とは勝手が違うので家庭の中での過ごし方がわからず、かと言って外で新しいコミュニティに入っていくのも難しい。となると、自分でも気づかぬうちにどんどんフラストレーションが溜まっていくのではないだろうか。
つまり、いつもイライラしている状態なのだと思う。

仮説を立ててみる

ところで、大きな声を出すのは気分を良くする一つの方法だ。大きな声で叫んだり、歌ったりするとスッキリする。手軽でそれなりに有効っぽいストレス解消法として知られている。マンションでも大声が出せるようなストレス解消グッズが売られているくらいに。

ここで、羞恥心が思春期のそれと比べてかなり減少している人間たちが、日々の多大なストレスと戦って生きていると仮定する。彼らは社会人として恥ずかしくない態度で生きるという術には長けていても、自分にとって有効なストレス解消方法をほとんど心得ていない。こうなると、自分の身体で唯一、危機感を抱いている脳が、ストレスを解消しなければと指令を出す。だが当の本人の知識のストックの中には、ストレス解消法に関する情報がない。その間もストレスは溜まり続ける。この緊張状態で、あるとき、大きな声でくしゃみをしてみたとする。すると、なんだか少しスッキリする。これを何度か繰り返す。すると、身体は大きな声でくしゃみをすると気持ちがいいことを学ぶ。これは良いストレス解消法を見つけた。脳は喜ぶ。とくに有効ではないにしても、何もしないよりはずっとマシだ。どんどんやれ。こうして次第にくしゃみの音量が増していく。彼には羞恥心はほとんどない。周りの目は気にならない。妻の声も届かない。娘からは関心もない。くしゃみの音量が上がっていくのを止めるものは、もはや何もない。

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