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「桃の園」炎上に感じた創作への敬意と広がりすぎた「戦隊」の定義
今回は、先日Xで大きく話題になった戦隊モチーフのマンガ「桃の園」について少し私自身の気持ちを書いていきます。
まず結論から言うと、「かなり怒っている、というか呆れている」という気持ちです。
ただその怒りは「桃の園」の作者に対してではなく、どちらかというとそれを指摘する側。いわゆるオタク側です。
というわけで何があったのか、なぜ問題になっているのか。
そしてなぜ私がそんな気持ちになったのかなどを書いていきます。
桃の園とは
そもそも「桃の園」とはなにか、という点からまずはお話しましょう。
「桃の園」とは
2024/8/6 より「comipo」にて連載がスタートしたマンガで、元うしろシティというかつてコンビで芸人をされていた阿諏訪泰義(あすわ たいぎ)さんが原案でころころ大五郎 先生が作者として書かれているヒーロー学園バトルマンガです。
あらすじ
【読み切り版】
その町には主人公がいた。 ヒーローに憧れる少女花岡さくら。レッド、ブルー、イエロー、グリーン、ピンク……その中での唯一の女性枠、『ピンク』の後継者となるためヒーロー育成学校に入学する。しかし学校には手ごわいライバルが…!女の子だって戦える痛快学園アクション!
【本連載版】
ヒーロー『ゴクレンジャー』に憧れる少女・花岡さくらは 『ピンク』の育成学校『桃の園』へ入学する。
幼い頃に怪人から守ってくれた『レッド』のように、 率先して人を助けられるヒーローになりたいさくらだったが、 そこには大きな壁があった。
女は『ピンク』にしかなれず、ピンクに許されるのは戦闘のサポートだけだったのだ。
これは、夢見る少女・花岡さくらが『レッド』を超える『ピンク』を目指す、反抗の物語
というマンガです。
なにがあったのか
あらすじを見ても分かる通り、
「女は『ピンク』にしかなれず、ピンクに許されるのは戦闘のサポートだけだったのだ。」 この部分が大きな波乱を呼びました。
事実としてスーパー戦隊シリーズにおいては、女性リーダーも存在しており、イレギュラーな形ではあれど女性レッドも存在している状態です。
逆もまたしかりで、男性ピンクもドンブラザーズで雉野つよしというとんでもないキャラクターが生まれています。
つまり現実での戦隊は「女はピンクにしかなれないこともないし、戦闘のサポートのみが許される」なんてことはありません。
この点が「解像度低い」「戦隊をなめている」「ちゃんと下調べをしろ」という状況になっています。
実際はどうなのか
というわけで実際に私もこのマンガの第一話を読んでみました。
まず結論として言えるのは、「ピンクに許されるのは戦闘のサポートだけだったのだ。」では全くありません。
ゴリゴリ前線に出てるし、なんだったら怪人の撃破一歩寸前までのダメージを平気で与えています。
戦隊でいうならもうあとは必殺バズーカを打つ直前の段階までのダメージは平気でピンクが与えています。
これを広義でのサポートと言ってる可能性があります。
また、このピンクの学校では戦闘訓練も普通に行われています。なので全く戦わないどころか、むしろ戦闘にはちゃんと向き合っている点かと思います。
ただ表現的にまずいとは正直めちゃくちゃ思っていて、これからこの一文だけで誤解を招くのもやむなしかなと。
たとえば「ピンクには必殺技は許されない」とか「ピンクにはトドメをさすのは許されない」とかだったら、まだだいぶマシだったと思います。
一方で作中にはこうも書かれています。
「弱らせたあとは攻撃をやめ、身を引く。トドメをさすのはレッド」
つまり、男性がトドメをさす。ほかのブルーだったりグリーンだったりがトドメをさす。のではなく、「レッド」がトドメをさす。と書かれているわけです。
なので実際には、「レッド」と「ピンク」の問題ではなく「レッド」と「その他の色」の問題である部分も多分にあります。
鶴姫の鶴の一声
さて、この問題が大きな波紋を呼んでいる一方でスーパー戦隊シリーズの出演者の方からも言及がありました。
それが先日記念作品をTTFCで公開した「カクレンジャー」の鶴姫役でもおなじみ、広瀬さんです。
女性リーダー話よく見かけるなと思ったらなるほど!
— 広瀬仁美 (@0927Satoku) August 8, 2024
えー!めっちゃ面白そうじゃん!私はこのさくらちゃんがどう強くなっていくのかみたいな!
男でも女でも色でもない。本物のヒーローってなんだろう。優しさって大切よ?
大丈夫女性リーダーは実在する!そして設定は設定!ここからの成長楽しみ! https://t.co/iwxmd6ERpM
と発言されており、事実として女性リーダー役を演じて鶴姫さんの文字通り鶴の一声で「あんたほどの人がそういうなら」という声もチラホラ出ています。
大切なのは、この「設定は設定」という部分です。
実際に役者として演じてこられた方だからこそ、また歴史を紡いできた方だからこそ「設定」という部分に関して思うところがあるんじゃないかなと思います。
この点に関しては、後でしっかり掘り下げていきます。
広がりすぎた「戦隊」とオタクのズレ
さて、今回の問題でよく目にしたのは「パブリックイメージ」という言葉です。
つまり大衆がどういうふうに見ているのか。
今回でいうと、戦隊はまだこんなふうに見られているんだな.. ということを感じている方も目にしました。
実際に今回の反響というか騒動の中で、作者の方がこんなポストをされています。
『桃の園』想像以上の反響ありがとうございます…!!
— ころころ大五郎 (@korokorokoroko) August 6, 2024
全員女子の戦隊ものも知っている私がこの時代にこの作品を描いている理由、早くお伝えしたくてドキドキしております。
とりあえず私がプロットから作っていますので、戦隊ファンの皆様、私以外の方を批判する行為はお控えくださいね。
ここで違和感を覚えた方もいると思いますし、このポストが火に油を注ぐキッカケになりました。
「全員女子の戦隊モノ」という部分です。
まず大前提として、
2024年8月現在「全員女子のスーパー戦隊シリーズ」は存在しません。
可能性として考えられるのは、
たとえば映画「女子ーズ」や
「ファントミラージュ」のようなガールズ戦士系のシリーズかなと思います。
なので、作者の方の言っている「戦隊」とオタクが考えている「戦隊」にはズレがあるといえるのではないでしょうか。
スーパー戦隊のパロディをしている作品を書いている上で、この点に関してはいただけない。
と思う一方で、「戦隊」という概念自体は大きな変貌を遂げているようにも思います。
というのも、
特撮作品にさほど興味がない人にとっては「仮面ライダー」だって「戦隊」だからです。
特に近年は多人数ライダーが出ていることもあって、実際に私自身も「今の戦隊ってなんかごついなぁ」と言われたことがあります。
また、昔とは大きく異なっている特撮の現状として「チームアップが当たり前」になりつつあるのも特徴だと思います。
たとえば「アベンジャーズ」
あれも概念的にいえば仮面ライダーの方が近いタイプのヒーローがチームアップをする作品だと言えると思いますが、アベンジャーズ自体を「なんか戦隊ものみたいだね」という層も一定数います。
つまり
世間一般における「戦隊」は「スーパー戦隊」を指すのではなく、
「特殊な格好をした人たちがチームアップをすること」を指すにかなり近づいてるのだと思います。
それこそマーベル作品でいうと、「マーベルズ」もそれぞれ異なる概念や作品の女性ヒーローではあるものの「チームアップをしているから戦隊モノ」という認知になってもおかしくないと思いますし、ぶっちゃけ説明する際もその方が早いというのはそれはそうだと思います。
なので、
今回の作者の方がいう「戦隊モノ」こそ「世間一般が考える戦隊のイメージ」
つまり「チームアップをしているヒーローたち」だと言えるんじゃないかなと思っていて、そこがオタクの認知と世間の認知のズレかなと思います。
一つ言えるのは、作者の方自体はスーパー戦隊シリーズについてはさほど詳しくないとは言えます。
それはそれとして、
この世界の戦隊を作るときにスーパー戦隊という概念についてそこまで大きな解像度が必要とも言い切れませんし、マンガには編集がつくと思いますのでその方がサポートすればぶっちゃけクリアできる問題ですので、作者の方の解像度が低いことに関しては大きな問題とは言えないと思います。
大賞をいただいた桃の園をcomipoさんに監修していただき連載にいたりました。
— ころころ大五郎 (@korokorokoroko) August 1, 2024
阿諏訪さん川北さん紺野さん上田さんの掘り下げがなかったら描けませんでした。阿諏訪さんのおかげでご飯が食べれます!ありがとうございました!!!
創作への敬意
今回の問題として挙げられた点、そして作者の解像度が低いというのは事実であることをここまで言ってきました。
じゃあ私がなぜこの問題に対してちょっと違うんじゃない?と思っているかというと、
「じゃあ、そうじゃなかった時。
あるいはそれ自体がフックになっていたときどうするの?」
という点です。
たとえば
「女は『ピンク』にしかなれず、ピンクに許されるのは戦闘のサポートだけだったのだ。」が「この地球」のルールだとして、
別の地球に行くようなお話があったときに事実に愕然して反逆するというストーリーだった場合、この設定自体に意味があったということになります。
それでもなおあなたは敬意が足らない、とか言えますか?というお話です。
たとえば、
今回の「桃の園」が「東映」から同じ設定でリリースされていた場合
おそらく「なにか意味があるんじゃないか」とむしろ思うんじゃないでしょうか。
それはスーパー戦隊シリーズをずっと作っていて、
かつ 自分たちがちゃんとした作品をリリースしているからこそ
「ピンクにしかなれないとか、そういう設定にも意味がある」と思うんだと思います。
また「トドメをさすのはレッド」という設定自体もたとえば「レッド」だけがトドメをさせる能力を持っていたり、トドメをさせる代わりに命を削っているとかそういう設定があったりする「かもしれません」
また作中にも「生きて回収する」というワードがあるように、「トドメをさす」こと自体に意味があるの「かもしれません」
大切なのはこれはまだ「第一話」であり、行動の意味も、理由も、展開も、作者の意図も完全ではないということであり、
今露悪的に書かれている部分自体が「そういう設定」である可能性は大いにあるということです。
『桃の園』2話を更新していただいております。
— ころころ大五郎 (@korokorokoroko) August 13, 2024
3話まで毎週更新、4話から隔週更新となります。 pic.twitter.com/TdKgk04abM
そして、
「そういう設定」だった場合 作者側は時が来るまでその設定を表に出すことは出来ません。
なぜなら今それをいうと、後のどんでん返しが出来ないからです。
つまり今この段階で今回の問題を過度に叩くのは、創作者サイドからしたらめっちゃやりにくいと思いますし、じゃあ早めに出さないといけないか..みたいな判断をせざるを得ないかもしれません。
なので現段階でこの作品が露悪的だとも言い切れないし、
別にプロモーションでも「革新的だ!」とか「こんな戦隊みたことない!」とかも書かれているわけでもないのに、「なんか意識高い系作品ぶってるけど解像度低くて草」みたいなことを言われるのも割と不愉快だなぁと思います。
終わってから同じテーマで突っ走ったのなら、
まぁそれはやむなしだと思いますが 現段階で過度に叩くのはあまりにも違うと思いますし、創作や伏線ばりなんて絶対できねぇなだったり、
今後こういう作品を出したとしても明確に伏線を貼っとかないとわかってもらえないことになると思います。
作者の人そんなこと考えてないと思うよ、は作者にしかわかりません。
だからこそ、
戦隊へのリスペクトを説くなら創作へのリスペクトもするべきかなと思います。
ED
というわけで長々と言ってきましたが、
私個人としては少なくとも
現段階では「そういう設定なんやろ」としか思っていませんし、これが過度に戦隊を貶めているとか露悪的に書いているとも思っていません。
終わってから大して変わってなかったらさすがに解像度低いなぁと思いますが、現段階ではなにも言えないはずなのになぜそんなに真っ赤にする必要があるんだろうかという感じですし、第一話だけを見て何を知った気になれるんだろう。というのが本音です。
あくまでも個人的な意見です。
ここまで見ていただきありがとうございました。
それでは。