統合失調症のボクにチャンスが舞い降りた話
「それ」は突然そうなったのか、それとも蓄積されたストレスから、そうなったのかわからないがボクは気づくと発狂していた。
「うあああああああああああああああ」
ボクは叫んでいた。この世界が恐ろしかった。生きていることが怖かった。1秒ごとに何が起こるかわからない不気味さに包まれていた。とても言葉にできない。言い表せない奇妙な体験をしていた。
ボクは裸足で、寒い寒い冬の夜に、外を駆け抜けていた。全ての世界から命を狙われている。全てがボクの存在を消し去ろうとしている。滑稽な妄想だが、当時は確かな実感を伴った妄想だった。
今思えば、ボクが中学生の頃、とあるいじめが原因で、周りの生徒皆んなから、「悪口を言われているんじゃないか?」という妄想があり、学生生活のほとんどが不登校になってしまっていた時があったけれど、きっと症状は中学生の頃から始まっていたんだ。
ボクはそのあともずっと走り回った後、周りの人達に散々迷惑をかけて、なんとかそのあと精神科で「統合失調症」と告げられ、父の田舎のJ県に引っ越すことになった。
ボクは引っ越した家でも孤独だった。誰も話し相手がいない。いつも寂しかった。苦しかった。そんな中、そばにいてくれたのは、田舎の家で飼っていた1匹の犬だった。名前はチャンスという雌の雑種だった。ボクが外に勝手に飛び出して走り回っていた時も、嬉しそうについてきた。そんな無邪気なチャンスの姿を見るたびに、ボクも嬉しい気持ちになった。
でも、ボクはこの毎日から逃れたいといつも思っていた。いつも何もすることがない。横になれば悪夢を見る日々、何がそんなに苦しかったのかわからないけれど、ただ虚しかった。何もない空間そのものがつらかったのかも知れない。しばらくしてボクは何も感じないような感覚に陥っていた。涙ももう流れなくなっていた。
そんな毎日が続いて、ボクはとうとう耐えきれず真夜中に家を飛び出して、永遠にこの人生から別れを告げようと山奥の雪の中に飛び込んだ。そして、その何分か後に、チャンスの声が聞こえ始めた。「ワン!ワン!わんわん!」
祈るように大きな声ではっきりと正確に吠えていた。助けにきたことをちゃんと知らせられるように、力強く吠えていた。
ボクは震える体を起こして、チャンスの元に駆け寄っていった。そこには父の車があった。どうやらチャンスが父にボクのことを知らせてくれたみたいだ。本当に賢いワンちゃんだなと思った。優しいワンちゃんだなと思った。ボクよりもずっと立派な生き物だと思った。
ボクには話し相手がずっと居なかったけれど、
その日からチャンスという友達ができた。
そして今この瞬間まで生きることができた。チャンスというワンちゃんがボクに生きるチャンスをくれました。
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