犬に命を救ってもらった話
「ワン!ワン!ワン!」
3回ほど犬の鳴く声が聞こえた。その犬は一台の車を引き連れていた。
僕は、雪山で倒れていた。いや、ここで息を絶えようと思っていた。何故そうしようと思ったのだろう。それほど苦しめられていた。辛かったからそうしたんだ…。それは一体なんだったんだろう。
少し話は戻って…。
「うわああああああああああ!!!!」
色々な妄想が飛び交って、友達がいる家の目の前にいる警察官が地獄の案内人に思えた。とにかく恐ろしかった。そのあと、色んな人に迷惑をかけて、病院に連れて行かれて、僕のこの症状は統合失調症だと医者は両親に告げた。
この症状は中学生の時のいじめが原因の発端となったかもしれない。その時から被害妄想があっていつもビクビクしていた。
そんな中、治療に適した環境が良いと父の田舎のK県に引っ越すことにした僕はその家に住んでいる。おじいちゃんとおばぁちゃんと1匹のワンちゃん、チャンスという犬と運命の出会いをすることになった。
「チャンスはお利口、ばぁちゃん大好き」といつも家でチャンスにおばぁちゃんは言っていた。
「チャンスっていうだー」
そう1匹の犬、チャンスを紹介された時、チャンスは少し興奮して足をバタバタさせていた。その時、僕は元気なワンちゃんだなぁとしか思わなかった。
本当にお利口なワンちゃんだということを僕はすぐに知った。
病気の症状なのか落ち着いてられなかった僕は何もない環境そのものが辛かったのかもしれないけれど、ただその場にいることが辛かった。途方もなくすぎる時間。
その間もなにできないことが苦しかった。休んでいるけれど、心が休まらなかった。そんな中夜中も眠れなくなってしまい、とうとう夜中の深夜3時あたりに家を飛び出した。現実逃避をしたかったのかもしれない。
そしたら、家で寝ているチャンスもついてきてしまった。僕は少し嬉しかった。
その時フランダースの犬のラストの一場面が思い浮かんでいた。一緒に寒さの中で凍えて天国から天使が迎えにくる場面だ。それも悪くはないかなと今となってはおかしな話だけど思ってしまった。
そして、季節は冬、外は雪山であたり一面は自然の田舎、雪が降り積もる中で、僕はガードレールの下をくぐり、転げ落ちていった。
何分かたった。僕はこのまま凍ってしまったら良いなと思っていた。そうであってほしかった。これ以上生き地獄はゴメンだ…。
「ワン!ワン!ワン!」
犬の声が聞こえた。チャンスの声だとすぐに気がついた。きちんとここまで来たことを告げるように力強く吠えていた。
「シャワーを浴びたい」
ただ、寒いままこの世からいなくなりたくないとおもった。それまでこの世からいなくなりたいと思っていたのに、チャンスの声が聞こえた時に現金なもので生きたいと思った。
チャンスは父の車を呼んでくれていたようだ。一台の見慣れた車が崖の上にあった。そして僕は転げ落ちていった崖を登った。
なんでこんなに苦しかったんだろう。なんでこんなに辛かったんだろう。それはきっと本当に助けてくれる存在がいなかったからだ。
このワンちゃんは、チャンスは僕を助けようとしてくれた。必死になって生きることを選ばせようとしている。
崖の上を登って父の車に立ったあと、僕はチャンスを見た。車の前でソワソワしていた。そして父の車に乗り命が助かった。
そして10年後
僕は今、障害者として生きている。就労移行支援という就労施設に通い、就活の準備をしている。社会復帰も目の前というところまで回復していた。チャンスは今はもういない。11歳頃に寿命で亡くなってしまった。ただ、僕の中で永遠に本当の友達と出会える犬に出会えた。
それで十分なのかもしれない。今僕はなんてことはない平凡な生活をしている。そしてそれが一番幸せなのだと思える。
それはチャンス。君が教えてくれたこと。
おしまい。
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