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声が聞こえるか?
これは、ただの凡庸などこにでもある話で、それでいて腐っていてどこにでもあるわけがない素敵な物語で、奇跡のような偶然の話だ。
「とっくに自分の人生には決着がついてるんですよ。」
そう答えた彼の顔にはどこか清々しさがある。なぜなら、本当に人生半ばにして決着がついたからだ。今ドラマの最高潮を迎え終わった後だからだ。彼にとってはこれ以上の人生の体験はできないだろうな。後の人生は彼に取ってはもう余生みたいなもんだ。
もうけりがついたから。
ある時彼は犬に命を救われた。
ある田舎の雪山で身を投げ出して、世に言うこの国で年に3万人が亡くなっているであろう行為の真っ最中ってわけだ。
そんな中「ワン!ワン!ワン!」と3回ほど大きな声で吠えていたワンちゃんの声が彼には忘れられないほどの声として耳にこびりついていた。そのワンちゃんは亡くなった。去年の夏頃に顔にだいぶ出来物があったと言う。
彼は何か心強さを感じた。そのワンちゃんがどこかで見守っている気がしたからだ。
その後彼の人生は紆余曲折を描き、なかなかに波瀾万丈だったわけだが、今まさにその何かよくわからない人生の事実と真実を掴んだ。
わからない。それが答えだ。
その曖昧さが彼にとって心地の良いものだった。彼にはもう怖いものなどなかった。年間3万人が亡くなるこの国でそれよりも怖いことがあることを知ったからだ。それは人の曖昧さであった。何も気づかず、気づかれず無くなっていくことの永遠の怖さ。永遠は怖いものだって知った。
ここまであった出来事は彼にとって大切な物語だが、誰かにとってはとても物足りない。笑われるだけの話かもしれないのだが、ある人にとってはただただ、可哀想な話かもしれない。そして、ある人にとってはいい話で終わる話かもしれない。それか、大多数の人に取っては気づかれず無くなっていく話なのだろう。
そうだ。奇跡でもなんでない。ただの物語だ。
それでもなんでこんなに暖かく心に残っていて、満たされているのだろう。
これは彼にしか、ボクにしかわからない物語だ。そうだ。それでいいんだよ。
「人生に決着がついたよ」
そう言って彼はこころの中で街中を歩きながら笑った。
「チャンス、ありがとう」
彼は恥ずかしかりながら少しだけ本当に笑った。