騒音 4


あれから3日間程

なんとなく洗濯機を回すのをやめていた


でも今日は回したい。リビングにほったらかしになってたからそのままクローゼットにしまうには気が引ける。


時刻は午前1時だった。

どうしよう。

でもあの貼り紙はウチの事じゃないかもしれないし。

例えばウチだとしたら今度は本格的に管理人から

声をかけられるだろう。


そしたらやめればいい。


どんな理由があってもやめればいい。



今日は回そう。と決意した。


ドアを閉めスタートボタンを押す。

シャワーを浴び、ベッドへ入る。



少しするとドガっと揺れる音がした。


半分眠りに入っていたようで何の音かと考えた


乾燥が始まったか。

答えが出たのでまた眠りに入ろうとしたが

頭の隅にクレームという言葉が浮かんだ


なんかめんどくさいな。とめとこうかな。


身体をおこすのも洗面所に行くのもかったるいけど。。


ふぅ。ベッドに座る姿勢をとると

ガチャっと音がした。

玄関をあける音?

プッシュブルハンドル式なので開けると割と

大きな音がする。

隣の人が帰ってきたのかな。




あれ…


わたし鍵かけたっけ。


音が近かったような気がするな。


鼓動が少しずつ早くなる。


洗濯機止めればよかった。


見にくることないじゃない。

現行犯じゃなにも言い訳ができない。


耳を澄ませて向こうの様子を伺う。



鼓動が全身に伝わるほど大きくなる




ピーっ



洗濯機を停止させる音がした


ゴロゴロと音を立てていた中身が徐々に低速になり

ようやくとまる


カチャンっとドアロックが解除された。


廊下から洗面所をみると男が1人立っていた。


隣に住む彼等ではなくたまにエントランスですれ違う短髪で背の低い男だった。

おそらく下の階に住む男なのだろう。


地響きのような低い声でなにやら言っている

『…だよ』


少しずつ大きくなる。

『…いつもいつもうるせんだよ』

『ふざけんなよ。』

『こっちは毎日寝不足なんだよ』

『うるせーうるせぇ』

怒りが伝わってくる。


私は洗面所に行き謝る事にした。

彼が一向に動く気がなさそうだったからだ。


『あの…すみません。本当にごめんなさい。』

男がこちらを見た。睨んでいる。


『お前よぉ、毎日こんな時間に洗濯機回しやがってよぉふざけんなよ?』

罵声が続く


毎日窓から私が帰ってくるのを見ていたそうだ。

私が帰ってくると必ず音がするからと。


謝ろう。許してもらえるまでたくさん謝ろう。


『すみません。今後はもうしばらくは…』


話しながら彼の背後を通り、洗濯機の前にしゃがむ


目だけで私を追っていた男の怒りが爆発する


『しばらくはじゃねーんだよ!!!』


どんっと肩を蹴られた私は風呂場のほうに倒れた。

左手を取っ手にかけたまま蹴られたので

その拍子で洗濯機のドアが勢いよく開く。


半乾きのままの中身がすこしはみ出た




『きゃあぁ』

私の悲鳴と同時に男からも声が漏れていた


『おい…なんだよこれ…』

男が疑問を投げてくる



『すこし時間を置いちゃったから、、』


腐敗が始まっちゃってたみたいで。と続けたかった。


男は腰を抜かして地面で震え出している


半乾きでさらに匂いがきつくなっている。


『なんだよってこれは』男はしつこく聞いてくる


『はぁ?右手ですけど』



洗濯機に戻し乾燥をスタートさせようと思ったが、少し躊躇した。隣のカップルが頭に浮かんだからだ。

このマンションじゃ夜中には回せない。

おとが響くのは住まなきゃ気付けない。


寝室の大きなクローゼットが気に入ったのに。



はっと思い浮かびガタガタ震える男のフードを引っ張り寝室まで引きづる


男は足をジタバタさせていた。


クローゼットを開くと綺麗に並べられた

私の作品が並んでいる。


男は見た瞬間は止まっていたが頭が理解すると

そのまま床で嘔吐した。


最悪。


でももっと教えてあげる。



『これはね、今までずっと電車とか道とか

そういうところで私に触ってきた手たちなの』


『私を触った手を私が持ってれば奴らの記憶から

私がいなくなるでしょ?』


『触って喜んだ感触や感想が根絶されるでしょう?』


『自分がした事が悪いんだから、

やられて当たり前でしょ?』


『わかる?』


こんなにたくさんあるのよ。

凄いでしょ。

通勤電車でも。夜中の帰り道でも。



男は這いつくばりながら廊下に行き

逃げるようにドアから出て行った。




ウチよりも先に下の階の引っ越しが終わったようだった











いいなと思ったら応援しよう!