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じゃがの大冒険 20

第20章:謎のバーでの再会と新たな使命

灼熱の太陽が照りつける荒野を、じゃが、ナッツ、ホップの三匹は黙々と歩き続けていました。乾いた大地がひび割れ、風に舞う砂埃が彼らの足跡を消していきます。互いの足音を聞き、息遣いを感じながら、彼らは無言のうちに励まし合っています。

「ねえ、みんな」とホップが喉の渇きを押し殺しながら声を上げました。「あそこに何か見えない?」

じゃがとナッツが目を凝らすと、地平線上にぼんやりと一つの影が見えました。近づくにつれ、それが一軒の建物だとわかります。

「バーみたいだね」とナッツが言います。風雨に打たれた木の壁、揺れる看板、そして薄暗い窓。看板には「BAR ......」と書かれていますが、長い年月のせいか後ろの文字は読み取れません。

「でも、こんな何もない所になんでバーが?」とじゃがが首をかしげます。

三匹は顔を見合わせ、少し躊躇しながらもドアに手をかけました。開けると、かすかな灯りと香りのよい煙草の匂いが三匹を包み込みます。目が慣れるまでしばらくかかりましたが、やがて意外な光景が目に飛び込んできました。

バーの中は静かで、数匹のハムスターたちがくつろいでいました。カウンターには一匹、窓際のテーブルに二匹、そしてソファには三匹のハムスターが座っています。彼らは皆、じっとじゃがたちを見つめていました。

「へぇ、お客さんはいないみたいだね」とじゃががつぶやきました。
「でも、なんだかすごく居心地の良さそうな場所ね」とホップが耳をピンと立てて答えます。
ナッツは尻尾を軽く揺らしながら、「みんな、僕たちのことをじっと見てるよ」と付け加えました。

静寂が流れる中、カウンターに座っていたハムスターが立ち上がり、声をかけてきました。

「おや、ついに来たんだね」

その声の主は、とっとこハム娘と名乗る女性でした。窓際から、くべしという名のハムスターも近づいてきます。

「このバーに誰かが訪れるのを、ずっと待っていたんだ」とくべしが言いました。

じゃがたちは少し戸惑いながらも、喉の渇きを潤すためにカウンターに近づきました。バーテンダーらしき姿のハムスターが、無言で三匹にグラスを差し出します。

「君たち、どうやってここを見つけたの?」とっとこハム娘が尋ねました。

じゃがは少し考え込んでから答えます。「実は、ハーモニアさんという方に教えてもらったんです。この場所に来るように言われて...」

ホップが付け加えます。「そう、遺跡で出会った方なの。でも、正確な場所は分からなくて、ずっと探していたのよ」

ナッツも頷きながら言います。「荒野をさまよっていたら、突然このバーが見えてきたんだ。まるで魔法みたいだった」

バーにいたハムスターたちは、驚きと興味が混ざった表情を浮かべます。

「ハーモニア?」くべしが目を丸くして言いました。「彼女の名前を聞くのは久しぶりだ」

とっとこハム娘が静かに頷きます。「ハーモニアさんが君たちをここに導いたのね。これは偶然じゃない。きっと重要な意味があるはずよ」

ソファから立ち上がったハムリンが近づいてきます。「このバーは、ただの場所じゃないんだ。来るべき者だけが見つけられる特別な場所なんだよ。ハーモニアさんが君たちをここに送ったということは...」

じゃがたちは、この不思議なバーと、そこにいるハムスターたちに、どこか運命的なものを感じ始めていました。彼らの冒険が、思わぬ展開を迎えようとしていることを予感させるものでした。

そのとき、突然バーのドアが開く音が響きました。

そこに立っていたのは...。

「フクロウ!」じゃがは驚きと喜びを込めて叫びました。

かつてじゃがたちと共に旅をしていた仲間、フクロウでした。しかし、その姿は以前とは大きく異なっていました。かつての希望に満ちた輝きを失った目は、世間を疎んでいるかのような曇りを帯びていました。

「久しぶり!でも、なんだか雰囲気が...」じゃがの声には、喜びと共に戸惑いが混じっています。

フクロウはじゃがたちを一瞥しただけで、無言でテーブルに着きました。バーテンダーが黙ってグラスを差し出すと、フクロウはそれを一気に飲み干します。

重い沈黙が流れた後、フクロウはようやく口を開きました。

「もう疲れた...」

その声には、深い疲労と諦めが滲んでいました。じゃがたちは言葉を失い、ただフクロウを見つめるしかありません。

フクロウは続けます。「君たちには想像もつかないだろうな。終わることのない争い、過去の清算を繰り返し強要してくる者たち、自分の利益しか考えない者...」

一瞬の間を置いて、さらに重い言葉が続きます。「そして、強者に虐げられた弱者は、さらに弱いものを探し出す。この世界の醜さを知れば知るほど、希望を持つことが怖くなる」

じゃがたちは、フクロウの言葉に衝撃を受けます。彼らの冒険は確かに困難もありましたが、基本的には希望に満ちたものでした。フクロウの経験した世界の厳しさは、彼らの想像を超えるものでした。

ナッツが恐る恐る尋ねます。「でも、きっと良いこともあったんじゃ...」

フクロウは苦笑いを浮かべます。「あったさ。でも、それも結局は幻想だったんだ。良い思いをしたものはもっと良い結果を求める。次、次、次、次!自然だった笑顔が、希望に満ちた目が!腐っていくんだ!希望が強ければ強いほど、現実に打ちのめされたときの痛みも大きくなる」

フクロウの声には、これまで抑えていた感情が一気に溢れ出ているようでした。その言葉の一つ一つが、重い現実を突きつけてきます。

じゃがたちは言葉を失い、ただフクロウを見つめるしかありません。バーの中に重い沈黙が落ちました。

そのとき、バーの奥から年老いた女性の声が聞こえてきました。

「**おお・・・古き言い伝えはまことであった。大気から怒りが消えた。奇跡じゃ、奇跡じゃ!なんといういたわりと友愛じゃ。カオスが心を開いておる。子どもたちよ、わしのめしいた目の代わりによく見ておくれ**」

その声に、バーにいた全員が一斉に振り向きます。奥の扉から、目を閉じたまま歩み出てくる老婆の姿がありました。

とっとこハム娘が小声で説明します。「あれは、ほんてぃこママ。このバーの主人であり、私たちの導き手でもあるの」

ほんてぃこママの言葉が響き渡ったとき、不思議な現象が起こり始めました。フクロウの体から、淡い光のようなものが湧き出てきたのです。それは形を変え、ゆらゆらと揺れながら、しだいに人型のシルエットを形作っていきます。

「あれは...カオス?」じゃがが驚きの声を上げます。

しかし、そこに現れたカオスは、これまで彼らが遭遇してきた敵意に満ちたものとは全く異なっていました。その姿は不安定で常に形を変えていますが、どこか悲しげで、何かを訴えかけようとしているように見えます。

ほんてぃこママは静かに頷きます。「そうじゃ。これこそが真のカオスの姿。調和が崩れたときに現れるもの。しかし、カオスもまた調和を求めておる」

カオスは言葉を発しませんが、その動きは激しさを増していきます。まるで長い間抑圧されていた感情が、一気に解放されたかのようです。

フクロウは驚きながらも、カオスに向かって静かに語りかけます。「君は...僕の中にいたんだね。僕が感じていた矛盾、葛藤、そして希望への渇望。それら全てが君だったんだ」

じゃがたちは、目の前で起こっている出来事に戸惑いながらも、不思議と恐怖は感じていません。むしろ、カオスの中に自分たちの姿を見るような気がしていました。

ナッツが小さな声で言います。「カオスは...私たちの中にもいるのかな?」

ホップがそっと頷きます。「きっとそうよ。でも、それは恐れることじゃない。むしろ、私たちを前に進ませてくれる力なのかもしれない」

ほんてぃこママは、穏やかな笑みを浮かべながら言います。「その通りじゃ。カオスは破壊をもたらすこともあるが、同時に新たな創造の源でもある。お前たちの旅は、まさにその調和を見出す旅なのじゃ」

フクロウから現れたカオスは、しだいに落ち着きを取り戻していきます。その姿は、バーの中に漂う温かな空気に溶け込むように、ゆっくりと薄れていきました。

ほんてぃこママは、じゃがたちの話を熱心に聞いていました。話を聞きながら、ほんてぃこママの表情は次第に明るくなっていきました。

「素晴らしい。お前たちの旅は、まさに預言通りじゃ。しかし、最後の試練がまだ残っておる」

三匹は身を乗り出して聞きます。

「この荒野の向こうに、『忘れられた森』がある。かつての文明の中心地じゃ。そこには、古の知恵が眠っている。その知恵を受け継ぎ、新たな調和をもたらすのが、お前たちの使命じゃ」

じゃがたちは、決意を新たにします。

「行きます」とじゃがが言いました。「僕たちにできることがあるなら、全力で取り組みます」

ナッツとホップも頷きます。

ほんてぃこママは、満足そうに微笑みました。「よい決意じゃ。しかし、その前に休息をとるがよい。明日からの旅は、これまで以上に困難なものになるじゃろう」

その夜、じゃがたちは荒野のバーで心地よい休息をとりました。ハムスターたちは彼らの周りに集まり、冒険の話に熱心に耳を傾けます。

翌朝、出発の時が来ました。ほんてぃこママは、三匹にそれぞれ小さな護符を渡します。

「これは、古の力が宿る護符じゃ。困難な時には、必ず力を貸してくれるはずじゃ」

じゃが、ナッツ、ホップは感謝の言葉を述べ、荒野のバーを後にしました。彼らの前には、『忘れられた森』への長い道のりが待っています。

ほんてぃこママとハムスターたちは、彼らが見えなくなるまで手を振り続けました。

「行ってらっしゃい」とほんてぃこママがつぶやきます。「お前たちの旅が、この世界に新たな希望をもたらすことを」

こうして、じゃが、ナッツ、ホップの三匹は、彼らの最後の、そして最も重要な冒険へと歩みを進めようとしていました。彼らが出発の準備を整えていると、思いがけない声がかけられました。

「待ってくれ」

振り返ると、そこにはフクロウが立っていました。その目には、まだ迷いの色は残っているものの、かすかな決意の光が宿っていました。

「僕も...一緒に行かせてくれないか?」

じゃがたちは驚きつつも、喜びの表情を浮かべます。

「もちろん!」とじゃがが答えます。「フクロウが一緒なら、心強いよ」

ナッツも頷きます。「うん、君の経験は、きっと僕たちの役に立つはずだ」

「でも、大丈夫?」とホップが心配そうに尋ねます。「まだ疲れているんじゃ...」

フクロウは小さく笑います。「ああ、疲れてはいる。でも...君たちと過ごした時間を思い出して、もう一度、希望を信じてみたくなったんだ」

ほんてぃこママは、穏やかな笑みを浮かべながらフクロウにも護符を渡します。「よい決断じゃ。お前の経験こそが、この旅には必要なのかもしれん」

こうして、じゃが、ナッツ、ホップ、そしてフクロウの四匹は、荒野のバーを後にしました。彼らの前には、『忘れられた森』への長い道のりが待っています。

ほんてぃこママとハムスターたちは、彼らが見えなくなるまで手を振り続けました。

「行ってらっしゃい」とほんてぃこママがつぶやきます。「お前たちの旅が、この世界に新たな希望をもたらすことを」

バーを後にした四匹は、荒野を再び歩き始めました。今度は『忘れられた森』という明確な目的地があります。ほんてぃこママから受け取った護符が、彼らの胸元でかすかに輝いています。

「ねえ、フクロウ」とじゃがが言いました。「本当に来てくれて嬉しいよ」

フクロウはゆっくりと頷きます。「ああ...僕も、来てよかったと思う。君たちと一緒にいると、少しずつだけど、希望が戻ってくる気がするんだ」

「でも、油断は禁物よ」とホップが真剣な表情で言います。「フクロウが見てきた現実も、きっと大切なことなんだから」

ナッツが空を見上げます。「そうだね。僕たちの冒険は、希望と現実、理想と葛藤...それらが混ざり合って、新しい何かを作っていくんだ」

四匹は互いに顔を見合わせ、微笑みました。彼らの前には長い旅路が待っています。しかし、彼らの心には新たな決意と、仲間たちとの絆が宿っていました。

遠くに『忘れられた森』のシルエットが見え始めます。そこには何が待っているのでしょうか。古の知恵とは何なのか。新たな調和とは、どのようなものなのか。

じゃが、ナッツ、ホップ、そしてフクロウの四匹は、それぞれの思いを胸に秘めながら、一歩一歩前に進んでいきます。彼らの小さな足跡が、やがて世界を変える大きな力となることを、誰も予想することはできませんでした。

(第20章 終)


※一部、ナウシカの大ババ様のセリフをオマージュさせてもらっています。

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