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BAR HamCup
第5話「青いイヤリング」
「あら、素敵なイヤリングですね」
カウンターの端から声がした。年配の女性客が、隣に座った若い女性のイヤリングを見つめている。深い青の石が、グラスの中の氷のように煌めいていた。
「ありがとうございます」若い女性が照れたように耳に手を当てる。「実は面接の日に着けようと思って」
「就活?」俺はモヒートのミントを軽く叩きながら尋ねた。
「はい。でも、派手すぎるでしょうか...」
「素敵だと思いますよ」年配の女性が優しく微笑んだ。「私も若い頃、初めての面接にイヤリングをつけたの。母のお下がりでね」
氷を削る音が静かに響く。
「面接官だった部長に『そのイヤリング、品がいいね』って言われたの。それだけで、不思議と緊張が解けて」
「へえ」若い女性の表情が柔らかくなる。
「今じゃその部長の席に座ってるんですけどね」年配の女性がクスリと笑う。「だから分かるの。そのイヤリング、きっと良い印象を与えますよ」
「ありがとうございます」若い女性の声が、少し強くなった気がした。
俺は二つのモヒートを置きながら、こっそり微笑む。世代も立場も違う二人が、一つのカウンターで出会えたのは、きっと偶然じゃない。
「あの」若い女性が恥ずかしそうに切り出した。「もし良ければ、面接のアドバイスを...」
「もちろんよ」年配の女性が嬉しそうにグラスを傾けた。「どんな会社か、聞かせてくれる?」
俺は静かにカウンターの向こうに下がった。今夜は、特別な時間になりそうだ。