じゃがの大冒険 15
第15章 : 犯罪王国の秘密
スカイハーモニアを後にしたじゃが、ナッツ、ホップの三匹は、水中都市アクアリウムへの道を進んでいました。ミズチに導かれ、彼らは海面近くを泳ぎながら、新たな冒険への期待と不安を胸に抱いていました。
じゃがは、背中の斑点がほんのりと温かくなるのを感じながら、仲間たちに声をかけました。「ねえ、みんな。水の中って、思ったより気持ちいいね」
ナッツは少し緊張した様子で答えます。「うん、でも慣れるまでは大変だよ。木の上とは全然違う」彼は、水中でも尻尾を器用に使って泳ぐコツを掴もうと必死でした。
ホップは楽しそうに泳ぎ回りながら言いました。「私は大好き!まるで空を飛んでいるみたい」彼女の長い耳が水中でしなやかに動き、泳ぎをサポートしています。
そんな会話をしながら泳いでいると、突然ミズチが立ち止まりました。
「おや?」ミズチが首をかしげます。「ここは...予定にない場所だ」
三匹は不思議そうにミズチを見つめました。目の前には、海面から突き出た奇妙な島が見えます。島全体が巨大な要塞のように見え、その周りには鋭いとげのような岩が並んでいました。
「ミズチさん、この島はなんですか?」じゃがが尋ねました。彼の目は好奇心で輝いていましたが、同時に不安も感じていました。
ミズチは少し困った表情で答えます。「ここは...犯罪王国と呼ばれる場所だ。普通なら近づかない方がいい島なんだが...」
その時、突然強い潮流が三匹を襲いました。潮流は彼らを島の方へと押し流していきます。ミズチは必死に三匹を助けようとしますが、潮の力が強すぎて...
「みんな、しっかりつかまって!」ミズチが叫びます。
しかし、潮流は容赦なく三匹を島へと運んでいきました。気がつくと、じゃがたちは島の岸辺に打ち上げられていました。
「う...うう」じゃがが目を覚まします。「みんな、大丈夫?」
ナッツとホップも、ゆっくりと身を起こします。三匹が周りを見回すと、そこは荒涼とした砂浜でした。遠くには巨大な城壁が見え、その向こうからは騒々しい音が聞こえてきます。
突然、砂浜に足音が聞こえてきました。足音の主は、鎧を身につけた大きなネズミでした。彼は警戒しながら辺りを見回しています。
じゃがは仲間たちに目配せをし、ゆっくりと姿を現しました。「あの...すみません」
ネズミは驚いて振り返り、剣を抜きかけます。しかし、じゃがたちの姿を見ると、少し緊張を解いたようでした。
「おや、君たちは...旅の者か?」
じゃがは恐る恐る答えます。「はい...私たちは偶然この島に流れ着いてしまって...僕の名前はじゃがです。こちらはナッツとホップです」じゃがは仲間たちを紹介しながら、丁寧にお辞儀をしました。
ネズミは深くため息をつきました。「そうか...不運だったな。ここは危険な場所だ。しかし、今さら帰すわけにもいかん。とりあえず、安全な場所まで案内しよう」
「ありがとうございます」じゃがが礼を言いました。そして、少し躊躇しながらも尋ねました。「ところで...あなたのお名前は?」
ネズミは少し躊躇してから答えました。「...キングだ。かつてこの国の近衛兵団の長だった」
じゃがたちは驚きの表情を見せましたが、キングの態度から、それ以上の質問は控えた方が良さそうだと判断しました。
城壁に到着すると、そこには小さな隠し扉がありました。キングは周りを警戒しながら、扉を開けます。
「さあ、中に入れ。ここからが本当の犯罪王国だ」
三匹は緊張しながらも、扉をくぐりました。そこで彼らの目に飛び込んできたのは、想像を超える光景でした。街の中は、まるで戦場のようでした。至る所で小競り合いが起きており、建物の多くは破壊された跡がありました。しかし不思議なことに、完全に無法地帯というわけでもなさそうです。それぞれの地区ごとに、異なる旗や印が掲げられており、一定の秩序が保たれているようでした。
キングは三匹を小さな路地に案内しました。そこは比較的静かで、騒ぎから少し離れているようでした。
「ここなら少しは安全だ」キングが言います。「さて、君たちに少し説明をしなければならないな」
キングは深いため息をつきながら話し始めました。「この国は、かつては栄えた王国だった。しかし10年前、突然王様が姿を消してしまったんだ。王様だけでなく、王族全員が忽然と姿を消した。残されたのは、私たち近衛兵団と、王の親衛隊、軍隊、そして大臣たちと内政を担う官僚たちだった」
「大臣たちや内政官の人たちは、どうしたんですか?」じゃがが尋ねます。
キングは続けます。「彼らも最初は国を維持しようと必死だった。財務大臣のゴールドコイン、外務大臣のシルバーフォックス、軍事大臣のアイアンクロー、内務大臣のシャドウハンド、農業大臣のグリーンリーフ...みんなそれぞれの立場で国を支えようとしたんだ」
キングは壁に掛かった古い肖像画を指さしました。そこには、それぞれの大臣の姿が描かれていました。ゴールドコインは金色の毛並みを持つ小柄なハムスター、シルバーフォックスは賢そうな目つきの年老いたキツネ、アイアンクローは筋肉質な体つきのオオカミ、シャドウハンドは黒い毛並みのしなやかなネコ、グリーンリーフは優しい目をした大きなウサギでした。
「彼らはそれぞれの専門分野で国を支えようとしたんだ」キングは続けます。「ゴールドコインは国の財政を立て直そうとし、シルバーフォックスは外交交渉で国の立場を守ろうとした。アイアンクローは軍隊の再編成を進め、シャドウハンドは国内の治安維持に奔走した。グリーンリーフは食糧危機を回避しようと必死だった」
「でも、うまくいかなかったんですね」ナッツが言います。
キングは悲しげに頷きます。「そうだ。大臣たちの間でも意見の対立が起き、内政官たちは板挟みになった。そして次第に、三つの勢力が台頭してきたんだ」
「どうして協力して国を治めることができなかったんですか?」ホップが首をかしげます。
キングは苦笑いを浮かべました。「それが理想だったんだが...現実はそう簡単じゃない。最初のうちは協力しようとしたんだ。しかし、時が経つにつれて意見の対立が大きくなっていった。大臣たちはそれぞれの権力基盤を守ろうとし、内政官たちは日々の行政をなんとか維持しようと奔走した。そんな中で、三つの勢力が力を持ち始めたんだ」
「三つの勢力って?」じゃがが尋ねます。
「近衛兵団である私たちは、王様の帰りを待ち、それまでは現状維持を主張した。親衛隊は新しい指導者を選ぶべきだと考えた。そして軍隊は、強い指導者のもとで国を統一すべきだと主張したんだ。大臣たちや内政官たちも、徐々にこの三つの勢力のいずれかに引き寄せられていった」
じゃがは真剣な表情で聞いていました。「そして...それぞれの主張が衝突して、今の状況になってしまったんですね」
キングは悲しそうに頷きました。「そうだ。今では三つの勢力が、それぞれの方法で国を立て直そうとしている。大臣たちも、表向きは国のためと言いながら、実際は自分たちの権力を守ることに必死だ。そして内政官たちは、その中で必死に国の機能を維持しようとしている。しかし、その過程で多くの争いが起きてしまっている」
三匹は言葉を失いました。彼らが想像していた以上に、状況は複雑で深刻でした。
「でも、まだ希望はあるはずです」ホップが勇気を出して言いました。「きっと、何か解決策があるはずよ」
キングは優しく微笑みました。「君たちの勇気に感謝する。確かに、まだ希望はある。そして...」
キングの言葉が途中で途切れました。突然、部屋の隅にある古い箪笥が動き出したのです。
箪笥の扉がゆっくりと開き、そこから一匹のハムスターが現れました。
「やあ、みんな。驚かせてごめんね」ハムスターは優しく微笑みました。
キングは安堵の表情を浮かべます。「みたらし、無事だったか」
「みたらし?」じゃがたちは不思議そうに顔を見合わせました。
みたらしは三匹に向かって丁寧にお辞儀をします。「初めまして。私はみたらし。この国で何でも屋をしています」
じゃがたちは好奇心いっぱいの目でみたらしを見つめました。
みたらしは続けます。「実は私、この国の状況を詳しく調査していて、キングさんと協力して国を良くする方法を探っているんです」
キングが説明を加えます。「みたらしは、その特技を活かして様々な場所に潜入し、重要な情報を集めてくれている。彼女の協力なしでは、ここまで持ちこたえられなかっただろう」
じゃがは感心した様子で言いました。「すごい...でも、どうしてそこまでして?」
みたらしは少し悲しそうな表情を浮かべます。「この国の人々が苦しんでいるのを見過ごすことができなかったんです。それに、この国の混乱が他の地域にも影響を及ぼす可能性があるからです」
「そうか...」じゃがは深く考え込みました。「僕たちにも何かできることはありますか?」
みたらしは嬉しそうに微笑みます。「ええ、あります。実は、あなたたちの力が必要なんです」
みたらしは部屋の中央にある大きな地図を指さしました。そこには、犯罪王国の詳細な地図が描かれており、様々な印が付けられています。
「この国には、表の顔と裏の顔があります」みたらしが説明を始めます。「表では三つの勢力が争っていますが、裏では様々な利害関係が絡み合っているんです」
みたらしは地図上の特定の場所を指さします。「ここが中立地帯です。噂では王族がここに隠れているとされていますが、実際のところはまだ分かっていません。しかし、この地帯が鍵を握っているのは間違いありません」
じゃがたちは真剣な表情で聞き入ります。
「私たちの目標は、この中立地帯に潜入し、真相を突き止めること」みたらしが続けます。「そして、可能であれば王族と直接対話し、この国の平和を取り戻す方法を見つけることです」
「でも、それって危険じゃないですか?」ナッツが心配そうに尋ねます。彼の尻尾が不安げに揺れています。
みたらしは頷きます。「ええ、とても危険です。でも、あなたたちならできるはずです。これまでの旅で培った経験があれば...」
じゃがは背中の斑点が温かくなるのを感じました。何か大切なことに気づきかけているような感覚です。
「分かりました」じゃがが決意を込めて言いました。「僕たち、協力します。この国の真実を突き止め、平和を取り戻す手伝いをしたいです」
ナッツとホップも頷きます。「私たちも!」
キングとみたらしは感謝の表情を浮かべました。
「ありがとう」みたらしが言います。「では、作戦を立てましょう。中立地帯に潜入するためには、まず三つの勢力それぞれの内部事情を知る必要があります」
キングが付け加えます。「そうだな。近衛兵団、親衛隊、軍隊...それぞれの真の目的と、彼らが中立地帯に対してどのようなアプローチを取っているのかを調査しなければならない」
みたらしは三匹を見つめます。「危険な任務になります。でも、あなたたちならきっとできるはず。私たちも全力でサポートします」
じゃがたちは互いに顔を見合わせ、そして頷きました。彼らの新たな冒険が、今まさに始まろうとしています。
翌日、じゃがたちは早朝から行動を開始しました。キングとみたらしの助言を受け、三匹はそれぞれ異なる勢力に潜入することになりました。
じゃがは近衛兵団、ナッツは親衛隊、ホップは軍隊を担当します。みたらしから受け取った変装道具を身につけ、三匹は別々の方向へと向かいました。
じゃがは、キングから教わった合言葉を使って近衛兵団の本部に潜入しました。内部では、緊張した面持ちのネズミやモルモットの兵士たちが行き交っています。
「君は新入りか?」ある年配のネズミの兵士がじゃがに声をかけました。
「は、はい」じゃがは緊張しながら答えます。
「そうか。じゃあ、ちょうど良い。ここの書類を整理してくれないか」
じゃがは言われるがまま、山積みの書類の整理を手伝い始めました。その作業中、彼は兵士たちの会話に耳を傾けます。
「王様はいつ戻ってくるんだろうな...」
「このままじゃ、国がもたない」
「でも、俺たちにできることって何だろう」
じゃがは胸が締め付けられる思いでした。兵士たちの不安と希望が入り混じった思いが、まるで目の前に見えるようです。
一方、ナッツは親衛隊の拠点に潜入していました。そこでは、新しい指導者を選ぶための会議が行われようとしていました。
「あなた、新しい隊員さん?」あるリスの隊員がナッツに声をかけます。
「はい、そうです」ナッツは落ち着いた様子で答えました。
「じゃあ、この会議の警備を手伝ってくれないか。君のような俊敏な動きができる者が必要なんだ」
ナッツは会議室の周りを警備しながら、熱心に耳を傾けます。そこでは、様々な候補者の名前が挙がり、その長所短所が議論されていました。
「新しい指導者が必要だ!」
「でも、誰を選べばいいんだ?」
「みんなが納得する人選なんて、できるのか?」
ナッツは、自分の尻尾を落ち着きなく揺らしながら考えます。「みんな、良くしたいと思ってるのに...なぜ分かり合えないんだろう」
ホップは軍隊の訓練場に潜り込みました。彼女は茂みを巧みに利用して、誰にも気づかれることなく様子を窺います。
そこでは、厳しい訓練が行われていました。イタチやフェレットたちの素早い動き、アナグマたちの力強い防御訓練が行われています。しかし、ホップの鋭い耳は、訓練の合間の兵士たちの本音を拾い上げます。
「このままじゃ、国民のためにならないんじゃないか...」
「でも、上官の命令には逆らえない」
「誰かが、何とかしてくれないかな」
ホップは耳をピンと立て、周囲の空気を感じ取ります。「みんな、本当は変わりたいと思ってるんだ...」
日が暮れる頃、三匹は再び集合場所に戻ってきました。彼らは互いの発見を共有し始めます。
「どうやら、どの勢力の中にも、現状に不満を持つ者たちがいるみたいだ」じゃがが言いました。
「そうね。でも、みんな自分たちだけでは何もできないと思っているわ」ホップが付け加えます。
「きっと、誰かが最初の一歩を踏み出せば...」ナッツが言いかけたその時、突然、遠くで大きな爆発音が聞こえました。
三匹は驚いて顔を見合わせます。街の中心部から、黒煙が立ち上っています。
「あれは...中立地帯の方角だ!」キングが叫びました。
みたらしが急いで言います。「急ごう。きっと、誰かが先手を打ったのよ」
じゃがたちは、この予期せぬ事態に動揺しながらも、互いに頷き合いました。彼らの本当の試練は、ここから始まるのです。
中立地帯に向かう途中、街は大混乱に陥っていました。三つの勢力の兵士たちが入り乱れ、市民たちは恐怖に怯えています。
その時、じゃがは不思議な光景を目にしました。近衛兵団のネズミが倒れかけている建物から子供たちを救出し、親衛隊のリスがその子供たちを安全な場所へと導いています。軍隊のイタチは、倒壊しそうな壁を必死に支えていました。
「見て!」じゃがが叫びました。「みんな協力し合ってる!」
ナッツが頷きます。「そうだね。危機の時こそ、普段の対立なんて関係ないんだ」
ホップが付け加えます。「私たちも何かできるはず。みんなの力を合わせれば...」
三匹は行動を起こします。じゃがは周りの動物たちに指示を出し、避難経路を確保します。ナッツは高所から安全な道を見つけ出します。ホップは素早く飛び回り、負傷者を救助します。
彼らの行動に触発され、周りの動物たちも協力し始めます。普段は対立する勢力の者同士が、今は一つの目的に向かって力を合わせています。
この光景を目にしたじゃがたちは、はっとしました。
「分かったぞ」じゃがが静かに言いました。「みんな、本当は協力したいと思ってるんだ。ただ、きっかけがなかっただけなんだ」
ナッツが頷きます。「そうだね。立場は違っても、みんな国のことを思ってる」
「私たちがその架け橋になれば...」ホップが希望に満ちた表情で言いました。
三匹は互いに視線を交わし、決意を固めました。彼らの前には、まだ多くの困難が待っているでしょう。しかし、この瞬間に見た光景が、きっと未来への希望となるはずです。
中立地帯に到着すると、そこには驚くべき光景が広がっていました。大臣たちと三つの勢力のリーダーたちが、激しい口論を繰り広げています。
ゴールドコインが叫びます。「財政を立て直さなければ、国は破綻するぞ!」彼の金色の毛並みが怒りに震えています。
シルバーフォックスが反論します。「外交関係を修復しなければ、他国からの侵略の危険がある!」その賢そうな目には深い懸念の色が浮かんでいます。
アイアンクローがうなり声を上げます。「軍事力の強化こそが、我々の生き残る道だ!」その筋肉質な体が緊張で震えています。
シャドウハンドが静かに、しかし鋭く言います。「内部の治安を整えずして、外からの脅威に対応できるはずがない」彼の黒い毛並みがしなやかに動き、その動きは危険を感じさせます。
グリーンリーフが悲しげに付け加えます。「食糧問題を解決しなければ、国民は飢えてしまう...」彼は懸命に周囲を説得しようとしていますが、その声は他の怒号にかき消されそうです。
「我々の方法こそが正しいのだ!」近衛兵団のリーダーが叫びます。
「いや、我々にこそ国を導く資格がある!」親衛隊のリーダーが反論します。
「強い指導者のもとで国を統一すべきだ!」軍隊のリーダーが主張します。
しかし、その時です。突然、地面が大きく揺れ始めました。建物が崩れ始め、地面に亀裂が走ります。
「危ない!」じゃがが叫びました。
その瞬間、不思議なことが起こりました。お互いを批判し合っていた者たちが、とっさに隣にいる者を助け始めたのです。敵対していたはずの者同士が、力を合わせて倒れかけの建物を支えています。
ゴールドコインは財布から金貨を取り出し、避難所の設営費用を提供しています。シルバーフォックスは外交手腕を活かし、周辺国からの援助を要請しています。アイアンクローは強靭な体で瓦礫を撤去し、シャドウハンドは素早い動きで負傷者を救出しています。グリーンリーフは持ち前の農業の知識を活かし、緊急の食糧配給を組織しています。
この光景を目にしたじゃがたちは、はっとしました。
「分かったぞ」じゃがが静かに言いました。「みんな、本当は協力したいと思ってるんだ。ただ、きっかけがなかっただけなんだ」
ナッツが頷きます。「そうだね。立場は違っても、みんな国のことを思ってる」
「私たちがその架け橋になれば...」ホップが希望に満ちた表情で言いました。
三匹は互いに視線を交わし、決意を固めました。彼らの前には、まだ多くの困難が待っているでしょう。しかし、この瞬間に見た光景が、きっと未来への希望となるはずです。
じゃがたちが前に踏み出したその時、中立地帯の中心にある古い建物から、まぶしい光が放たれました。その光は、まるで生き物のように動き、じゃがたちを包み込みます。
「これは...」じゃがが驚きの声を上げました。
光に導かれるように、三匹は建物の中に入っていきます。そこで彼らが目にしたのは、予想もしなかった光景でした。
部屋の中央には巨大な水晶があり、その周りを七色の光が舞っています。そして、水晶の前には...
「王様!?」三匹は驚きの声を上げました。
そこには、年老いたハムスターの姿がありました。しかし、よく見ると、その姿はどこか透き通っているように見えます。
王の幻影が優しく微笑みかけます。「よく来てくれました、若きハムスターたちよ」
じゃがが驚きながらも尋ねます。「あの...王様、本当にあなたなんですか?でも、どうして...」
王の幻影はゆっくりと説明を始めました。「10年前、この国は大きな危機に直面していた。隣国との緊張が高まり、戦争の危機が迫っていた。そして、国内では種族間の対立が深刻化していた」
王は続けます。「そんな中、私は古い伝承を思い出した。『真の調和は、人々が自らの力で見出すもの』という言葉だ。しかし、私が王座にいる限り、人々は私に頼り切ってしまう。そうして本当の解決策を見出せなくなると考えたのだ」
「そこで、私は『消える』ことを選んだ。直接的な対立を避けるためだ。もし私が退位しただけなら、後継者争いが起こり、国はさらに分裂していただろう」
じゃがたちは、王の苦悩に満ちた決断に言葉を失います。しかし、その決断が結果的に国を混乱に陥れてしまったという皮肉な現実も、痛いほど理解できました。
その時、外から騒がしい声が聞こえてきました。扉が開き、三つの勢力のリーダーたちと大臣たち、そして内政官たちが飛び込んできました。
「王様!」彼らは驚きの声を上げます。
王の幻影は、全員にも優しく微笑みかけます。「みなさん、長い間よく頑張ってくれました。しかし、これからは新しい時代です」
王は最後にこう付け加えました。「私の判断が正しかったかどうかは分からない。しかし、これからの国造りは、あなたたち全員に託したい。古い体制や因習にとらわれず、新しい未来を作り上げてほしい」
その言葉を聞いた瞬間、水晶が七色の光を放ちながら、小さな破片となって全員の前に降り注ぎます。
じゃがたちは、その破片を大切そうに手に取りました。するとその瞬間、不思議な感覚が全身を包み込みます。まるで、国中の生き物たちの思いが、自分たちの中に流れ込んでくるかのような...
じゃがの背中の斑点が、これまでにない明るさで輝き始めました。ナッツの尻尾が、虹色に光ります。そしてホップの耳が、風になびくように揺れ動きます。
同時に、部屋にいた全員の体からも、かすかな光が放たれ始めました。その光は互いに引き合い、絡み合い、やがて一つの大きな光の輪となっていきます。
「これは...」キングが驚きの声を上げます。
「みんなの思いが...」シルバーフォックスが言葉を継ぎます。
「一つになっている...」アイアンクローが呟きます。
その時、キングがゆっくりと前に進み出ました。「みんな、分かったか?私たちは立場は違えど、同じ国を思う気持ちは一つなんだ」
ゴールドコインが続けます。「そうだ。一人一人の専門性の違いは弱点ではない。それこそが我々の強さなのだ」
グリーンリーフが付け加えます。「みんなで力を合わせれば、きっと乗り越えられない困難なんてないはずよ」
彼らの言葉に、部屋にいた全員が静かに頷きます。長年の対立や誤解が、光の中で溶けていくのを感じました。
じゃがたちは、この光景を見守りながら、互いに顔を見合わせます。
「僕たち、すごいものを見られたね」じゃがが小さな声で言いました。
ナッツが頷きます。「うん、みんなの心が一つになっていくのを感じたよ」
「私たちの旅で学んできたことが、ここでも大切だったんだね」ホップが付け加えます。
シルバーフォックスが三匹に近づいてきました。「君たち、ありがとう。君たちの存在が、私たちに大切なことを思い出させてくれたよ」
アイアンクローもうなずきます。「そうだ。外からの視点が、時として必要なんだな」
「さあ、新しい国造りを始めよう」キングが声を上げます。「みんなで力を合わせて」
その言葉をきっかけに、部屋にいた全員が互いに手を取り合い始めました。種族の違い、立場の違いを超えて、全員が一つの大きな輪を作ります。
じゃがたちは、その輪の外側から見守っています。彼らの小さな冒険が、思わぬところでこんな大きな変化のきっかけになったことに、驚きと喜びを感じていました。
光の輪は、部屋を飛び出し、街全体を包み込んでいきます。倒れかけていた建物が修復され、荒れ果てていた畑に新しい芽が吹き、乾ききっていた川に水が戻っていきます。
人々の表情も、少しずつ和らいでいきます。長年の対立が、理解と協力に変わっていくのです。
数日後、街は驚くほど変わっていました。三つの勢力は力を合わせ、復興作業に全力を注いでいます。大臣たちも、それぞれの専門性を活かしながら協力し合っています。
キングとみたらしが、じゃがたちに近づいてきました。
「君たちのおかげで、この国は新しい一歩を踏み出せそうだ」キングが感謝の言葉を述べます。
みたらしも微笑みながら言います。「本当にありがとう。君たちの旅の経験が、私たちに大切なことを教えてくれたわ」
じゃがは照れくさそうに答えます。「僕たちは何もしていません。みなさんが本当に大切なものに気づいただけです」
ナッツが付け加えます。「そうだよ。みんなの中に、すでに答えはあったんだ」
ホップも頷きます。「私たちは、ただそのきっかけを作っただけ。本当の主役は、みなさんです」
キングは深く頷きました。「そうだな。しかし、時には外からの風が必要なこともある。君たちは、まさにその風だった」
みたらしが言います。「さて、これからどうするの?もしよければ、この国の再建を手伝ってくれないかしら」
じゃがたちは顔を見合わせ、そして微笑みました。じゃがが答えます。「ありがとうございます。でも、僕たちにはまだ続けなければならない旅があるんです」
「そうか」キングは少し寂しそうでしたが、理解を示す表情を浮かべました。「君たちの旅が、これからも多くの人々に希望をもたらすことを願っているよ」
翌日、じゃがたちは旅立ちの準備をしていました。街の人々が見送りに集まってきます。
「どうかお気をつけて」グリーンリーフが言います。
「また来てくれよ」アイアンクローが声をかけます。
シルバーフォックスが付け加えます。「君たちの冒険話を、またいつか聞かせておくれ」
じゃがたちは笑顔で頷きます。彼らの背中には、新たな冒険への期待が詰まっていました。
海岸に到着すると、ミズチが待っていました。
「おかえり、みんな」ミズチが優しく微笑みます。「大変な冒険だったようだね」
じゃがは海を見つめながら言います。「うん、でも、とても大切なことを学んだよ。これからの旅にも、きっと役立つはず」
ナッツとホップも頷きます。三匹は互いに顔を見合わせ、そして大きく深呼吸をしました。
「さあ、行こう」じゃがが言います。「僕たちの旅は、まだ始まったばかりだ」
ミズチの導きで、じゃがたちは再び海に潜っていきます。彼らの背後では、新たな希望に満ちた犯罪王国の姿が、だんだんと小さくなっていきました。
そして、じゃが、ナッツ、ホップの三匹は、次なる冒険に向けて泳ぎ出すのでした。彼らの目は、遠く水平線の彼方を見つめています。そこには、きっと新たな出会いと発見が待っているはずです。
彼らの小さな背中には、大きな夢と希望が詰まっていました。そして、その夢と希望は、彼らが出会う全ての人々の心にも、少しずつ広がっていくのでしょう。
(終)
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