待ち・望む 2020.9.7

今日も午前中にあの丘に行ってみた。
猫太郎に会う事ができた。
また空を飛びたいと伝えた。
川沿いのグラウンドへ着くと空へ浮かび上がった。
少し曇り空ではあったが、気持ちがよかった。
ブンブンと飛んでいるうちに8の字を描くようになっていた。
10分ほど飛ぶと目が回り始めたので、少しゆっくり飛ぶことにした。
そうだ、もっと高く飛んでみようと思い垂直方向に飛んでみた。
この前よりも空高く飛んでみた。
曇り空も晴れて青空がきれいであった。
すると、街のはずれの遠くに森が見えた。
少し遠く感じたが、空の中を森の方へ進んでみた。
猫太郎は地面にいたままだ。追いかけてこなかった。
もう少しで森だと思った時に、目の前に「なんにもない」という文字が浮かんだ。
すると、体が自然に降下をはじめ、徐々に地面に近づき始めた。まるで気球が着陸するように。
ついに着陸してしまった。本当にふんわりと地面に足が着いた。その感覚はパラシュートで地面に着陸するよりも明らかに優しく、宇宙飛行士が月面に足を着いたときと同じくらい軽かったはずだ。
目の前には「なんにもない」の巨大な黒い文字が浮かんでいた。
全てひらがなのその文字には不思議な力があった。とりわけ最初の2文字に惹きつけられた。事実、この2文字は周りの文字に比べて次第に大きくなっていった。
なん」の「」はこの不思議な世界全体を覆っているかのような存在感であった。そこには深さも感じられた。奈落の底の「な」。いや、深いだけではない。やはり宇宙のように広い印象を私に与えていた。
なん」の「」は物事の終りを感じさせた。まるで地面に叩きつけられた滝の水が跳ね返っている姿を連想させた。
この2文字はこの広大な街の世界がここで終わっていることを示しているのだと思った。この森の手前が町の一番端なのだ。
「なん」は英語の「none」も連想させた。
やはりここで街の影響力が終ってしまうのだ。この森の先には何もないという事だろうか。
だが、この先の森へ進めないという訳ではないようだった。空を飛んで森には入れない。しかし、歩いては進めるようだ。
猫太郎は来なかった。今は自分ひとりだ。この先には別の世界が広がっているのかもしれない。
いや、もしかしたら迷いの森かもしれない。
ここへ近づく前に空から見た感じでは森はかなり大きそうだった。
そこには新しい生き物がいるかもしれない。
その森は私の探究心を刺激したが、今日は進むのをやめておくことにした。
戻ろう。
私は再び逆方向に向かって空を飛び始めた。そして10分ほど飛んで猫太郎の元へ戻った。
ずいぶん長く飛んでたニャー
猫太郎は言った。
今日は遠くまで飛んでみたよ。私は森のことについては言わなかった。
そして今日はこの街での体験はこれで終わりにした。

あの森へは歩いて入らなければならない。いつか行ってみようか。
その先はきっとあの街の世界とは別の世界なのだ。もしかしたら、私の世界へ戻るだけかもしれない。それはまだ私には分からなかった。
外では天気雨が降っていた。

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