#5_ヘアピンの話

中学生になると、校則が厳しかった。
襟に髪はついてはいけない。長い場合は一本結び。ヘアピン禁止。
指定のカバン以外は持ってはいけない。
スカートは膝下10センチ。
靴下は、くるぶし丈。
白いスニーカー以外履いてはいけない。
ジャージはIN。
上下関係が厳しく、校内でも校外でも先輩を見かけたら立ち止まって挨拶しなければならない。
挨拶された側は当然のようにフルスルーだ。

がんじがらめだ。

中学生になっても私は二軍のどんくさ子だった。
地味で目立たず、小学校から仲良しのゆっぽと相変わらずWANDSの話ばかりしていた。
他の人には見えてないんじゃないかと感じるほど存在感ゼログラビティ。
子供ながらにそれが生きやすいと思っていた。
男子や大人の目など気にせず、自分の好きなものの話を毎日ゆっぽと出来ればもうそれで人生オールオッケーだった。

そんなある朝、うっかり支度中につけてた紫色のヘアピンをつけたまま登校してしまった。
教室に入り、クラスメイトに指摘され慌てて外したものの時すでに遅し。
速攻、先輩に呼び出される。

ヤンキー漫画かよと思うほどの展開で、呼び出されたのは体育館の倉庫。
中へ入ると、3年の先輩女子3人が待ち構えていた。
体格のいい久実先輩は、「なんで呼ばれたかわかってんのかオラァ」と竹刀をぶんぶん振り回してきた。
最初はビクビクしていたものの、その姿が滑稽すぎて笑ってしまった。
残念ながら私は笑ってはいけない大体の場面で笑ってしまうタイプなのだ。
なに笑ってんだてめぇ!と美幸先輩が怒鳴ってきた。
もう一人の小判鮫はもはや名前も思い出せないが、
やたらと跳び箱を叩き威嚇してきていた。あれ絶対手痛かったと思う。

まてまてぃ!一本のヘアピンでこんなことなる?

さすがにブチギレ3人を目の前にそんな事も言えず、不倫会見かのような神妙な面持ちで謝罪した。
なんでこんなにキレられてるか分からないけど、ボコボコにされるなーと諦めかけた時、チャイムがなった。
放課後また来いとマットレスのある方へ突き飛ばされた。
急にドーンときたもんだから、勢いあまってマットの上で綺麗に後転した。
どうしてもなんか面白くなっちゃうのはこの頃から。

その後の授業なんて気が気じゃない。
怖すぎるやん。
どうしよう。どうしよう。
先生に言おうか、逃げちゃおうか。
だってあの久実って輩ぜったい強い。
あんなもん乗られたら終わる。
ママに電話しちゃおうかな。

思考を巡らせた結果、やっぱりバカバカしいという結論に達する。

いやいや、待ってよ。ヘアピンでしょ。おかしくね?

恐怖に震える私は、放課後また倉庫へ出向いた。
竹刀ぶんぶんの久実先輩の顔を見たら、やっぱりおかしくて笑ってしまった。
美幸先輩に怒鳴られる前に、煽りに煽ったドヤ顔で、
髪をおろして、ヘアピンをつけた。

「ヘアピンぐらいでうるせんだよ」

ヒュー!かっこいい!!!と思うじゃん?
その後の展開として、
私ひとりで先輩三人をやっつけてその後女番長として・・・だったらよかったんだけど
ちゃんときっちりしっかりめにボコされて完敗。
右足グネってよたよた帰宅した負傷兵におばあちゃんってば大騒ぎ。
部活中に転んだと適当な事を言って、おばあちゃんから超バカでかいオキシドールを借りた。

今となれば。
この事件がなければもっと奥ゆかしい少女時代をおくれたと思う。

その夜、家族が寝静まった後、オキシドールと缶ビール数本を頭からかぶった。

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