#2_町の話
東北の山の方で生まれた。
のどかものどかで、のどかしい。
おそらく弾ける美声でオギャー。
雪解けが遅く短い春。
カブトムシとセミに怯える夏。
大量の芋栗南瓜にうろたえる秋。
身長を超えるほどの積雪に震える冬。
交通手段といえば、
隣町まで行くバスが1時間に1本あるのみ。
電車もなければ駅もない。
ポツポツとバス停があるだけ。
バス停からバス停の間隔は果てしない。
タクシーは「ハイヤー」と呼ばれ、
町に2台、完全予約制だ。
予約の際、住所などの詳細は伝えなくても
「学校の近くの齋藤です」で
「はいはい、〇〇ちゃんね」で来てくれた。
小さな小さな商店街には、八百屋とスーパー。
下駄屋、置いてる本がほぼエロ本の本屋。
駄菓子屋に文房具屋。
アル中が集う食堂、ガソリンスタンド、床屋。
床がビチャビチャの魚屋に、
おばあちゃま方御用達のブティック。
やたらと湿布が充実している薬屋。
勿論、それぞれ一軒ずつ。
今思えば、みんな同じ床屋なんだから、
あのおじんは立派なカリスマだ。
それからあのスタンドの売り上げの9割は灯油だ。
絶対に。絶対に!
駄菓子屋と文房具屋は、
町のキッズの映えスポット。
駄菓子屋では、当時人気だったアイドルの
プロマイドが中身の見えない封筒に入っていて、
その束から好きなものを選ぶブラインド方式の売り方をしていた。
1回50円。ボロイ商売。
子供の私には大ギャンブルだ。
一発で「あっくん」は出るわけがない。
でも欲しい、次は出るかもしれない。
止められないギャンブル依存。
大人になったら束ごと買ってやるんだ!
今に見てろ✖️✖️ばばあ!
駄菓子屋のおばちゃんを完全に敵視していた。
迷惑な話だ。
駄菓子屋に行く時に貰えるのは100円。
行けるのは週に1度。
プロマイドを二枚買うか、
一枚にしてあとは駄菓子を買うか、
妹をまるめこんでどうにかならないか、
お小遣いの前借をするか、
自分が置かれた立場と状況を理解して、必死になって解決の糸口を探るなんてことは、後にも先にもないかもしれない。