They are (Talking about "toki") ②
MUD STONE
タスマニアに到着し、
そのまま北の方に向けて2時間ほど。
ほとんど情報も聞かされないまま、彼らが拠点にしているMUD STONEという場所に到着した。
フライトが遅かったので時刻は22時を回っていて、あたりは暗かったが大賀が火を焚いてくれた。
MUD STONEというのは
公式的な土地の名前ではなく、ブラッドという人物が山を購入し、自分の拠点として家族と暮らしているのだが、そこをMUD STONEと名付けているらしい。
ここでブラッドたちは、オフグリッドを体現しながら生活し、且つウーフとして何人か旅人の受け入れをしているそうで、今回2人はタイミングよく募集がかかったタイミングでエントリーし、10日ほど滞在しているという。
オフグリッドとは何かというと、電気、水道、ガス等のライフラインを公共インフラに依存せず、独立して確保できるように設計された建築やその暮らしそのものを指す。
またウーフとは何かというと、農場で無給で働き、労働力を提供する代わりに食事、宿泊、知識、経験を提供してもらうボランティアシステムことを指す。手伝う側、つまり大賀とIslaはウーファーと呼ばれる。
(以下に少し詳しく説明したテキストを掲載するので興味がある方はこちらを。)
ここでの生活は刺激的で、学びたかったこともたくさん詰まっているそうだ。ブラッドは子供のころの好奇心をそっくりそのまま持って大人になったような人物らしく、ずっと遊んでいるらしい。
生活の中で何かアイディアを思いつくと、全ての作業を中断してそれを創り上げることに全集中するらしい。そのアイディアは何かとぶっ飛んでいるが、スマートで自然や文化に対するリスペクトが常にあるという。とにかく彼のライフスタイルとクリエイティブに間近で触れ、1日数回はアイディアがおもしろすぎて爆笑するのだと言う。
ブラッドたちはすでに就寝していた。
明日はみんなオフで、仕事はないそうだ。ブラッド家族は親戚のパーティーがあるそうで、MUD STONEから昼過ぎに出るそうだ。とにかくブラッドとその家族には明日会えるみたいだ。楽しみである。
その夜は大賀とIslaが僕のためにセッティングしてくれていたテントで身体を休めた。
翌朝
目が覚めた。
携帯の電源は昨日の時点で切れていて、何時かは分からないが、この感じはおそらく8時くらいだ。
誰もいなかったのでふらふらしていると、Islaが歩いてきた。今何時?
13時だった。
我ながらかなり酷いなと思いつつ、もうブラッドたち出かけた?と聞くともうすぐ出発でまだいるらしい。
昨日は真っ暗で一切の情報がなかったので、タスマニアのこんな場所に辿り着いたのかと観察しながら敷地内を歩くと、どう考えてもブラッドで間違いないだろうという男性が登場した。
ブラッドだった。
彼はこれから親戚のパーティーに参加するのだが、左目にアイマスク的なモチーフと右頭部に謎の文字のメイクを施し、肩には動物の皮でできた羽織、首にはこれまた動物の角か骨でできたネックレスをしていた。ぼくは急にタスマニアの山奥に連れられ、起きた瞬間に森の海賊に出逢い、爆笑することになった。
会ったばかりだが彼らは出かける直前だったのでいったん挨拶だけしてお別れをし、大賀とIslaにMUD STONEを案内してもらった。
彼らはぼくの到着前からしばらく滞在していたので、それまでにブラッドからたくさんの話を聞いたみたいだ。
オフグリッド
もう一度オフグリッドについて説明する。
オフグリッドは電気、水道、ガスなどのライフラインを公共インフラに依存せず、独立して確保できるように設計された建築やその暮らしそのものを指す。
日本で生活しているほとんどの人間は、国からそれらを購入し、日々生活しているわけだが、彼らはそれらを一切使っていない。自然の摂理を利用し、工夫し、自分たちで補っている。
つまりどういうことかというと、極論、国が倒れたり侵略されたり、自然災害が起こったりでインフラが止まっても1ミリもダメージが無いということだ。
さらに、これも当たり前だが、国から買っていないということは今世界中で課題視されるインフラによる環境汚染に彼らは加担していないことになる。
そんなことができるのだろうか?
電気
まずこれは太陽光パネル。MUD STONEにはブラッド家族が日々生活する家の他、ウーファーたちが滞在できる家が敷地内にいくつかある。これらの屋根の上にはソーラーパネルが設置してあり、太陽光エネルギーを変換して、各家の電力をつくっている。
このソーラーパネルは全て廃棄されたものを再配線し利用しているそうで、最初から最後までお金は1円もかかっていないそうだ。
定期的なメンテナンスや、暴風時の対策なども必須になってくるが、これにより彼らは半永久的に、家族という最小単位の集団の中で自然エネルギーを交換しながら、誰にも依存せずに生活することができる。
熱
次に見せてもらったのは熱交換のシステム。どうやってお湯をつくるかだ。
電気エネルギーを熱エネルギーに変換する作業は負荷が大きい。我々が普段使うドライヤーも、電気毛布も、アイロンも消費ワット数が多いのはそういう作業だからである。なので熱はソーラーパネルで作った電気とは別で作り出す必要がある。
これはブラッドが「Donkey(ドンキー)」と名付けた熱交換システム。これももちろん手作りだ。
木を燃やす炉から天井上まで煙突が伸びる。その途中、ダムからの水が常に供給される湾曲した菅が巻きつき、さらにその外側は熱交換のエネルギーロスが極力少なくなるように断熱材が巻かれている。水は温度を上げて体積が膨張するため、家の蛇口までは駆動ポンプなしで届き、圧がかかる状態になり、回すと湯が出る。
要するに、あっつい空気が通るでかい管に、水が通る細い管が巻きついていて、だんだん水の温度が上がるようになっている。水は温度が高いと大きくなるのだが、水道管は膨らんだりしないので中でぎゅうぎゅうになった状態でスタンバイすることになる。そして、蛇口をひねるとお湯が勢いよく飛び出てくる。ということである。
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ちなみに我々が普段使う一般的な熱交換システムはどうかというと、外付けの給湯機に水が流れ、ガスを燃焼して熱源をつくり、温め、家中に送り込む。家庭用の水道は電気で動く加圧ポンプが搭載されているので家中、一定の水圧で水が出るようになっている。なので、お湯を使うだけでガス、水、電気のお金を払っていることになる。
もう一つちなみに、ブラッドの家はもちろん、「家庭用の水道設備」はないため加圧ポンプはない。これの代わりは位置エネルギーである。質量のあるものは引力のある星に存在する限りは高いところから低いところに移動しようとするエネルギーが働く。MUD STONEにおける加圧ポンプの代わりは土地そのものだ。土地の高い位置にダムを設置し、家をそれより低い場所に建設する。水は物理法則に従い下に降りてきて、自動的に加圧させる。
スマートだなと思った。
土地への理解
で、これらの火はどうやって起こすのかというと、もちろん木である。Islaが教えてくれた。マッドストーンの敷地はかなり広大で、短時間の徒歩移動が伴う。畑に野菜を採りに行くとき、狩に出るとき、犬の散歩するときなど。
ブラッドの家族や、一緒に生活するウーファーたちは外を歩くたびに木の枝を回収する。これを1箇所に集めておき、利用するのだという。
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話は変わるがオーストラリアはブッシュファイアと呼ばれる森林火災が度々発生する。ブッシュファイアは大規模になると悲惨な災害になる場合もあるが、自然現象の一つでもあり、自生植物の発芽サイクルを促す。
ブッシュファイアのきっかけは、油分や引火性物質を多く含むユーカリなどの摩擦や落雷による発火がある。たまに人間の火の不始末が原因のこともある。
この車は「Golden nugget(ゴールデンナゲット)」と名付けられたもので、小型の火炎放射器と貯水タンク、放水ホースが積んである。これは意図的に小規模な山火事を起こすために使うそうだ。
マッドストーンはユーカリ林に覆われた30エーカーの土地にあるため、ブラッドは定期的な火入れによって火災を大きくする乾いた下草や取りきれない小さな枯れ枝などの「燃料」を、燃やしておくことでブッシュファイアの発生リスクを減らしているそうだ。
ゴールデンナゲットは基本的に公道は走らないようで、ガソリンの代わりに使用済みのサラダ油を投入しているそうだ。ブラッド曰く、いけるんちゃうかと思ってやってみたらいけた。だそうだ。無茶苦茶である。
これは聞いてないので推測だが、ゴールデンナゲットの由来はおそらくこの見た目だろう。金色のラッカースプレーか何かで大雑把に塗られたこの車は確かに目を細めて遠くから見るとナゲットそのものである。
こんな風に、マッドストーンにあるアイテムはブラッドという森の海賊クリエーターによって付けられた名称があり、みんなそれをあたかも公式用語であるかのように会話で使っているのでいちいち面白い。
ゴールデンナゲットは何回も壊れているそうだが都度自分で直しているそうだ。日本ではやらない方がいいだろうが、車はサラダ油でも動くということを知っておくことはもしかしたら使える場面があるかもしれない。
当たり前だが、これを見て誰かが実験して事故が起こったりしても、ブラッドもぼくも絶対に責任は取らない。
話を戻すと、みんなが枯れ枝を取ってくる行為は、熱源を用意するための燃料確保と同時に、ブッシュファイアの被害を最小限にする予防的作業を担っているというわけである。
Islaはさらに話してくれた。
ブラッドたちはオフグリッドの生活を持続させるにあたって、常に自分たちの土地を理解しようとしているのが伝わってくると言う。
本当にその通りだなと思った。
彼らは自然をコントロールしようとしないし、彼らは自然のために無理をすることもない。リスペクトを持って森に住み、自分たちのやりたいことや表現は自然を使ってする。共生であり共創だなと思った。
次は少し場所を変えて、CAVE(ケーブ)と呼ばれる自然現象によって形成されたほら穴を見せてもらうことになった。
続く...
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