毎月短歌15 テーマ詠部門 選歌評

こちらは毎月短歌15「テーマ詠」の選歌評です。
「自由詠」の選歌評はこちら→こちら

〈金賞〉

なんとなくのぼってく月がなんとなく好きだと話し君も頷く/わかば

 いいですね。口語の自由な韻律の中に、とてもちいさくて大切なものがたりがあるように思います。ことばにできない「なんとなく」という感覚が、「主体」と「君」と、そして「作者」と「読者」のなかで完全ではないにしても共有される、あるいは共有されたかのような幻想を抱けることが「短歌」という文学の中では想像以上に大切なことのように思います。
 「なんとなく」の中身を追求することなく、もしかしたら「主体」と「君」の思い浮かべる「なんとなく」は同じものではないのかもしれないけれど、それでも「なんとなく」というふんわりした言葉の中でふたりがなんとなく同じ目線でいるような感じが、非常に今時っぽいというか、それでいいじゃないか、という感じがします。
 崩れた言葉遣いで、どこか気の抜けたようにもみえる歌いようが、その雰囲気をまた彩っていて、身構えることなく、すっと入ってくるようです。

〈銀賞〉

砂漠ではミーアキャットが立ち上がりわたしと同じ月を見ている/ゆひ

 なんだろう、なんていうか、この……なんだろう。
 違う場所でも同じ月を見ているというのはよくあるモチーフなんだけど、それが砂漠のミーアキャットになるだけで、なんだろう、なんとも言えないおもしろさが浮かび上がってきます。
 むかしのトレンディドラマかなにかで遠距離恋愛のふたりが違う場所で空を見上げている構図――たとえばアニメの「君の名は。」のキービジュアルみたいなのを想像してほしいんですけど――それの片方がミーアキャットになっている、そんなシュールな構図が頭に浮かぶんですよね。
 いや、たしかにそういうこともあるかもしれないし、その構図は運命を感じてしまうんだけど、ミーアキャットのまぬけなかわいさがあって、いや、そこに運命を感じてどうするんだよ、みたいな……うまく伝わっているかわからないんですけど、妙に評者のわたしのツボに入ってしまったのが伝わるとうれしいです。
 
〈銅賞〉

月光をひとりで浴びていたような花をあなたは手折って捨てた/白川侑

 倒錯があって、良い歌ですね。
 「月光をひとりで浴びていたような花」だけであれば、ただうつくしいだけで終わるはずでしたが、このうつくしい花は簡単に手折られて捨てられてしまいます。この歌は事実だけ書いて、そこに主体の感情は描かれていませんが、その光景を主体はどのような気持ちで眺めていたことでしょうか。
 個人的には、このうつくしい花を手折って簡単に捨てるような、この悪意に満ちた行為そのものがうつくしく、また花そのもののうつくしさを際立たせているように考えました。これは勝手な読みなのですが、もしかしたら主体もそのような視点で「あなた」の行為を見ているのかもしれません。

〈佳作〉

「公転の軸となってる恒星」を『愛しいあなた』と彼らは呼んだ/梅代一期

 なんとなく「ありそう」と思わせる説得力がいいですね。
 どこかの国で、あるいはどこかの星で、そのような呼び方をしているかもしれないという発想力。そのどこか遠くの「彼ら」の言葉に、おそらくは創作なのでしょうけど、すばらしく詩を感じます。

〈特別賞〉

ロフト付き バス・トイレ別ワンルーム 2階角部屋 月明かり良し/長曾我部 じゆ

 不思議な歌ですね。
 ただ事実のみを羅列した不動産の広告のようで、そのなかで末尾に書かれた「月明かり良し」の文言が異彩を放ち、一気に詩へと昇華しています。
 この極めて異質なひとことが一首にものがたりと謎を呼びます。どのような部屋なのか、どのようなひとが、どのようにして書いた文章なのか……。「月明かり良し」のひとことを付け加えた背景を思わせて、その文言を入れた何者を思うとき、そこに窓から見えるひときわきれいな月の姿と、それを眺めるひとりの人物の姿が浮かびます。

【選歌後記】
 独断と偏見で選びました。反省はしていません。
 今月はこちらのテーマ詠と一緒に、自由詠の選歌評も書かせていただきました。そちらも負けず劣らず力作ぞろいですので、よろしければどうぞご高覧いただければと思います。
 私事ですが、今月はすこし体調を崩してしまい、選歌評の公開が遅くなってしまい申し訳ないです。もやしの生まれ変わりなので、体力がないのです…。すいません。
 三カ月、選者という形でみなさまの作品に触れさせていただき、自分自身、すごく詩作に対するやる気が浮かび上がってきました。とても貴重な経験だったように思います。
 また良い短歌をたくさん読ませてください。
 レッツエンジョイ短歌!

(宮本背水)

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