自選短歌30首
自選短歌30首
うたの日・塔短歌会誌・各種投降歌からまとめています。
うたの日より(10首)
寂しくてケーキを食べた 世界からケーキがひとつ減つてしまつた
けれど僕らジャン・バルジャンを赦さずに石をぶつける人なのでした
「Attention! 全校生徒に告ぐ。今宵、盗まれた火星を奪還せよ!」
ゆふぐれのみづうみに浮く島がある おそらくおれのかなしみである
だけど今ほrびゆく都市をテレビジョンで眺むrぼくへ咲きほこr花
ボールペンでひとは殺せる 胸に棲むチェ・ゲバラが強く強く叫びぬ
ひきだしに虞美人草をひとつ置く だいじょうぶだよ、敵ばかりじゃない
傷ついた遺伝子だから四葉へとなるのだと言います おには外
月が沈む わたしが食べたナマコにも愛するナマコがゐたはずなんだ
黒板に赤く書かれて色弱のぼくにはザネリの孤独が見えない
塔短歌会誌発表作より(10首)
木瓜の葉をかじりて空を見あげたる一疋のサル 月が照らしぬ
僕たちが存在すると云ふ事の意義を問ふため咲けアマリリス
射程距離6000キロのなかにゐてまだ初恋を知らぬ野良猫
あえかなる機械仕掛けの僕たちへどうか名前を付けてください
不熟なる葡萄をひとつ飲みほして雷鳴をゆくニツポニアニツポン
手に取りし古書よりふいに夏蜜柑の香は立ちにけり 花火が鳴りぬ
悲しみよ(調教された鶯のやうには啼けないのだ)こんにちは
街に降る雨に物語があるやうに焚き火にひとつ手紙を燃やす
打ちきりの漫画のやうな恋でした これからのぼくにご期待ください
第四コーナー各馬まはりて空を舞ふハズレ馬券のなかにゐる僕
各種投降歌より(10首)
道化師のやうに踊つてゐる僕を可笑しなやつだとあなたが笑ふ
階段は椅子にもなると気がついて座れば海がよく見える場所
ふまれたいなあ きみのしなやかな脚がぼくを踏んでくれるまで愛を唄ふよ
どこへとも続かぬ夜に果ててゆくセックスどこへもゆけぬふたりで
ラジオから聴こえる声がやさしくて みんなラジオになればいいのに
僕だつたのかゆらゆらと崩れさうな空き缶ばかり積み重ねてゐる
号砲をいくども鳴らす こゑもなく泣く僕たちが走りだすまで
コンパスは壊れてしまつて僕はもう言ひ訳できない迷子なのです
野良犬の背にあたたかな陽が射して ここはやさしい国だと思ふ
テクストが意味をしづかに抱くやうに富士をはじめて見し甥の眼は
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