【超短編小説】 ペンとノートと私と


 「自分がないよね」と言われた日、私は何の変哲もないペン一本と、どこにでもある大学ノートを一冊買った。
 何かを書こうと決めて買ったわけじゃなく。ただなんとなく、私は吸い寄せられるようにそれらを手に取っていた。
 どこにでもあって、何の変哲もなくて、面白みのないもの。まるで私みたい。
 私はそれらに命を吹き込みたいと思った。見た目は地味だけど、中身はなかなか面白い。そんなふうに私はなりたい。
 面白いと思ったこと、美しいと感じたものをかき集めた。空白のノートにどんどん埋まっていく言葉の分だけ、私は何かを知っている人であるかのように満足することができた。それは疲れたときに頬張るチョコレートのように甘かった。
 半年ほど続けた時、そのノートを読み返していると、そこには他人の言葉ばかりが並んでいる事に気がついた。
 私はペンを握りノートを抱きしめた。そしてもう一度ノートを開き「私はまだこれから」と、私の意思をしたためた。

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