【超短編小説】 雲は

 久しぶりに見上げた空には冬の透き通った青さと、空から沈殿した薄っぺらい白い雲が漂っていた。
 どうやら僕の視界は、履き潰した紺色のスニーカーが交互に出入りする光景だけを映していたようだ。どこに行っても景色なんて変わらない、そう思っていた。
 
 今日、僕の上空を忌まわしき鳩が飛んだ。中学生の時に鳩の糞が肩に落ちてきた以来、僕は鳩の挙動に注意深くなってしまった。
 その忌まわしき鳩が僕の目の前で飛んだと同時に、僕の意識も空へと向かった。
 雲ってこんなに低いところにいるものだっけ?そう思ったその時、雲が風に煽られて形をもわんと変えた。
 雲が動いている!僕は目が錯覚を起こしているのかと思った。いや、雲が動くなんて当たり前じゃないか。でも久しぶりに雲が動くの見た。
 僕は立ち止まってしばらくその雲の行方を眺めていた。二度と同じ形にならない雲に僕は何か特別なものを観ている気分になった。
 今日は違う道を歩いてみようかな。

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