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中国茶のお姉さんへ
家の近くの商業施設の一角で中国茶を淹れていたお姉さん。元気にしていらっしゃいますか?きっとあなたは私のことを覚えていないでしょうけど私はあなたのことを忘れることはないと思うのです。
4歳の頃上海に引っ越しました。日本にいる大好きな人たちと離れるのは悲しかった。まだまだ何もわからない4歳だったけれど、やっぱり異国の地は心細かったです。上海に引っ越してすぐの頃、私はよく母に連れられて家の近所の商業施設の一角で中国茶を淹れているお姉さんのところに行っていました。中国茶の道具って本当にワクワクするんです。いろんな形の綺麗な白磁や青磁の茶器。カエルの形のものがあったのを覚えています。中国茶を入れる手順は本当に魔法みたいだった。小さい頃の私にとって、それは間違いなく魔法でした。見ているだけで楽しかったし、お茶はあったかくて美味しかった。
お姉さんはシングルマザーで私と同じくらいかちょっと上の息子がいました。頑張って働いてるって感じでした。おそらくそんなに生活に余裕はないだろうってことはなんとなくわかってました。お姉さんは途中でどっかに行くことになって会えなくなってしまいました。一年もたってなかった気がする。出会って半年とか三ヶ月とかそれくらいだったかもしれない。
私は中国語ができないのでお姉さんが言ってることなんてちっとも分かりませんでした。でも優しくしてもらってることだけはわかりました。お姉さんが優しい人なのはわかりました。お姉さんが大好きでした。言葉は通じ合わなくとも、異国の地に行って心細かった私に優しくしてくれた人がいたということ。そのことがどれだけ嬉しかったか。人のあたたかさを感じた古い大切な記憶。幼い時の記憶だけど今でもしっかりと覚えています。この記憶は私にとって一生物の財産です。
お姉さんへ
今はどこにいるのかも知らないし、お姉さんの名前も覚えてないけれど、お姉さんに優しくしてもらったことは覚えています。小さかった私に優しくしてくれてありがとう。あなたは私のことを覚えていないでしょうけど、私は遠い地でいつまでもあなたの幸福を願っています。