
知性を与えられた猫たちは何を見る? 第14話
ふと気づくと2匹の猫とコタローが不安げに見上げていた。
「大丈夫よ。・・・そうね。あなたたちもいるものね。」
私は顔を上げて言った。
「そう、一人じゃない。あなたたちもジョンもついている!」
「ならば・・・次にやることは・・・」
私はパーカーを羽織って、コタローを小脇に抱えた。
「律佳ちゃん、どこ行くの?」
その様子に茶丸が聞いてくる。
「ちょっと、コタローのお着換えよ」
「新しいぬいぐるみ?」
セイくんが笑いをこらえてそう言う。
「ぬいぐるみも必要だけど、今日はまた別の」
「いいなあー、僕たちも連れてってよ」
「また、今度ね」
使い古したボストンバッグにコタローを放り込んで車に乗り込み、会社へ向かった。
会社のエレベーターがチンと音を立てる。4階のフロアの廊下を進み、セキュリティカードを通してさらに奥へと進む。その部屋のドアでまたセキュリティカードを通し、ガチャリとドアを開けた。
「おう。来なすったか」
「休みの日に悪いわね」
部屋には男が一人。彼は長袖のTシャツの袖をまくり、電工ドライバを机に置いた。彼の名は三木。うちの会社の開発部でロボット開発のエンジニアである。つまりコタローの父になる。
「いいって。どうせ、休みも大抵ここにいるしな。で?強化するって、どこまで本気でやるんだ?」
三木はコタローを見ながら眉を上げた。
「カーボンファイバーでフレームを作り直して、外装はチタンコーティングだと?普通の用途じゃあり得ないだろ。どこにドンパチやりに行くんだ?」
私は肩をすくめながら答えた。
「ちょっとした実験プロジェクトみたいなもんよ。」
三木は一瞬何かを考えるような表情を見せたが、すぐに苦笑しながらコタローのスキャンを始めた。
「分かったよ。いい実験材料だな。これが終わったら、俺にも何か協力してくれよ。」
「どれくらいかかる?」
「1週間くらいかな」
「もう少し早くならないかしら?」
「ターッ!働かせるねー。3日後でどうだ?」
「ありがとう。頼んだわ。じゃあ、お願いね」
私はコタローの耳元でそっと囁いた。
「余計なことは喋っちゃだめよ」
コタローのLEDが了解とでも言うように点滅した。
それから3日後、私は三木の開発ルームにいた。
「お待たせ!これが新しく生まれ変わったコタローだ!」
三木は誇らしげにコタローを指さした。そのフレームは以前のプラスチックの質感から、黒く光沢のあるカーボンファイバーと、鈍い銀色のチタンコーティングに変わっていた。
「どうだ?強そうだろ?」
律佳は手で触れながら頷いた。
「確かに、見た目もすごく頑丈そう。でも、これだけ?」
三木はニヤリと笑って答えた。
「いやいや、これで終わるわけないだろ。俺のこだわり、見せてやるよ。」
三木は得意気に話し出す。
「まず、フレームは全部カーボンファイバーに変えた。軽くて強いし、宇宙船の素材にも使われる優れモノだ。次にチタンコーティングは、物理的な衝撃を防ぐだけじゃない。熱にも強いから、例えば火災現場でも余裕で動ける。」
私は驚きつつも、その性能に納得した。 と同時にそんな場面に出くわしませんようにと心の中で呟く。
「これだけでも十分そうだけど…、まだ何かあるのね?」
「もちろん!」
「外装に特殊なコーティングを追加して、ある程度の電撃を跳ね返すようにしてある。」
私は少し呆気にとられた。
「そんなことまで!?実戦を意識しすぎじゃない?」
「備えあれば憂いなしってやつさ。」
いったい三木はどんな場面を想像しているのだろう?
「あと、バッテリーの改良もしたぞ。摩擦発電を組み込んだ。歩くたびにエネルギーが供給される仕組みさ。バッテリーの持ちが格段に良くなるはずだ。」
私は驚いて言った。
「そんなことが可能なの?」
「実際、最近の技術でも摩擦を利用した小型発電は進んでる。コタローみたいに長時間稼働できるロボットには、この機能があるとかなり便利だ。前の倍くらいは持つはずだ。これで長時間の任務も安心!」
「それは助かるわ!」
「ちなみに、動くときの音がうるさいって文句を言われたら嫌だから、サイレントモードも搭載しておいたぞ。」
「でも三木さんが一番うるさいよね!」
「おいおい、俺を機械と一緒にするなよ!」
「冗談よ。でも本当に助かるわ。この借りは必ず返すわね」
気にするなというように三木が手を振り、他の仕事に手を付け始めた。
私はドアを閉めてコタローをギュッと腕に抱き締めた。
「さあ、あなたには働いてもらうわよ」