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知性を与えられた猫たちは何を見る? 第46話

オフィスの窓の外は5月の陽気に半袖の人も多くみられた。空調も今日は冷房が入っているようで、私にはやや肌寒く感じられる。

私は三木の開発ルームにいた。この開発ルームは三木だけのために与えられた部屋で、他人に話を聞かれる心配もない。私がここにいても、社内ロボットの開発プロジェクトの一環として見られるので、安心して話をすることができた。
「で、何だって?秋月のオッサンが助けてくれたってのか?一体、あの人は何を考えてるんだ?」

「わからない・・・。私達の敵ではないけど味方でもないって・・・」

私はデスクに置かれているICチップや基板などを眺めながら返事をした。

「ふぅん・・・?まあ、あいつのことはさて置いて、今出来ることを考えていこうか。まず、今回分かったのは、トラグネスの目的はエネルギーを奪うことだけではなく、人を操作しようとしているってことだ。むしろ、こっちの方が重大だ。」

私は黙って頷く。

「そして手掛かりはあの金属片、ただ、これはジョンですら解析できないので、内容が不明。そして金属片は2種類。一つはAIデバイスに組み込まれていた。もう一つは身に着けるようになっているもの。」

「そうね。身に着けるということは生体情報などを読み取っていた可能性があるわね。例えば、どの情報に対しユーザーが反応したとかがわかると、より細かく操作しやすくなるわね。」

「そう・・・。やつらの目的は漠然とわかったものの、さて、こっからだな。そんなものが既に世間に出回っていて、それを阻止するにはどうすればいいか・・・。新聞社とか週刊誌とかのメディアにリークするか?」

私はデスクの上のICチップの一つを手に取りながら、考えた。

果たして、こんな話を信じてくれるだろうか?私達は茶丸たち2匹がいて、ジョンと会話しているからこれを信じられるものの、そうでない人がこれを聞いても、どうだろう?

ふと思いついて私は顔を上げて三木に言った。

「ねえ?今、AIデバイスって、いろいろなメーカーから出てるじゃない?私と三木が使っているものも同じじゃないわよね?なのにあの金属片はそれぞれに入っていたわけよね?」

「ああ、それは俺も疑問に思ったんだ。あの金属片が入った白いケースだが、あれはAIの制御デバイスということで、この1、2年くらい前から使われるようになっている。」

「じゃあ、その制御デバイスを作ってる会社が・・・」

「いや、あれは各社、いろんなところが製造しているよ」

「じゃあ、その技術をトラグネスが提供したのかしら・・・でも、ジョンですらわからない技術を提供するのも無理があるわよね・・・うーーん、ちょっと調べてみる必要がありそうね。」

私は、自分のタブレットから自宅サーバーを介してセイくんにこれを伝えた。しばらくすると彼らが返事を返してきた。

「律佳ちゃん、今のところ、何とも言えない。もう少し時間をかけて調べてみる必要がある」

行き詰ってしまった。

「ま、もう少し考えてみよう。俺、ちょっと会社の仕事するわ。最近、そっちにかかりっきりで、会社の方が全然進んでねーから。ターッ、2足の草鞋履くってキツイよなーっ!スーパーマンの気苦労がわかるわー」

「ほんとね。私も仕事に戻るわ」
家のドアを開けると2匹とコタローが出迎えてくれ、茶丸は「撫ぜてー」と言わんばかりに床にゴロンと寝ころび、セイくんはスリーッと足元に擦り寄ってくる。コタローは精一杯に緑のLEDをチカチカさせていた。
帰り道に買ってきたコンビニのお弁当をレンジで温めている間、セイくんが尻尾をピンと立て、青と緑の目を輝かせながら私を見上げて言った。

「律佳ちゃん、わかったことがあるよ」

「もう?さすが、早いわね。何?」

「律佳ちゃんから教えられた例の制御デバイスを作っている会社について、ジョンに頼んで衛星画像を見せてもらったんだ。これ見て。」

お弁当を食べながら、私はセイくんから見せられたタブレットのディスプレイに目をやる。

それは各会社の敷地を俯瞰する衛星画像だった。駐車場や搬入口に停車している車両がマーカーでハイライトされている。セイくんは画像をズームして言った。

「これ見て。この黒いバンだけど、この車はこの制御システムを扱っている他の会社でも確認されているんだ。ナンバープレートも一致してるから間違いない。こんな車が何台かあって、それらが別の場所に出入りしている。それがここ。」

セイくんはそれらの車両の最終的な目的地を地図上で示し、ストリートビューに変えた。そこは都市から外れたところにある倉庫だった。

私はお弁当を食べるのも忘れて、セイくんに問いかけた。

「ということは、ここがトラグネスの・・・!」

「うん、関連施設と考えて間違いないね」

「それじゃあ、私達が次にするべきことは・・・」

茶丸が走り回りながら「いよいよ襲撃だねーっ!」と言う。私は

「ん?ちょっと待って」

と頭に浮かんだ疑問の答えを探した。

ここを襲撃したとする。それも何件もだ。それにはうんざりするが、仮にそれをやったとして、それで解決するだろうか?いたちごっこが続くだけではないのか?

他の線からも考えてみた方がいい。私は悩んだ結果、秋月に会うことにした。


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