
知性を与えられた猫たちは何を見る? 第42話
当日、月明かりもない夜だったが、発電所に取り付けられた無数の白いLEDライトが眩しく辺りを照らしていた。その光は地面には光と影が奇妙な模様を作り出していた。
「思った以上に明るいね」
茶丸がそうっと囁いた。
足元には黄色いラインが引かれ、敷地内の通路が規則正しく区切られている。ところどころに赤いランプが点滅し監視カメラがゆっくりと動いているのが見えた。まるで発電所全体が一つの生き物のように息づいているようだった。
すると向こうに黒いドーベルマンが2匹ウロウロと動き回るのが見えた。
セイくんはドローンを飛ばしドーベルマンを睡眠薬の入った餌のところまで誘導した。2匹の犬はそれに気が付くとガツガツと食べ始め、10分もしないうちに眠り始めた。
さらに、私達は監視カメラをくぐり抜け、通路沿いに身をひそめながら進んだ。
「ここだ。」
セイくんが通気口のある建物の裏手を見上げて言う。
ライトで照らされたその場所は、少しでも動くと影が揺れ、監視カメラに見つかる恐れがある。私達は息を潜めて身を隠した。
「カメラの視界を避けるのはここだけだ。」
セイくんがライトの動きを解析し、最も安全なルートを示す。
「今だ!」
それを合図に一気に通気口の近くへ走った。私は自分のドクドクと波打つ心臓の音までカメラに写りそうに感じて胸を押さえた。
通気口の近くに到着すると三木は折り畳みの梯子を素早く設置した。
一同は、茶丸たち猫を先頭に、三木、私、コタローの順で、狭い通気口の冷たい金属の壁の中を這い進んだ。私は三木の後ろで、それとなく彼の様子を窺ったが、今のところ、特に変わった様子は見られなかった。
「すごい、埃だな・・」
とぼやく三木に私は囁く。
「シッ!文句言わないの。音を立てたら終わりよ。」
通気口の曲がり角に差し掛かった時、突然、茶丸が足を止める。
「どうしたの?」
と小声で尋ねると、茶丸は鼻を鳴らして答える。
「くしゃみ、出そう・・・」
「ちょっ、ちょっと待って!」
セイくんが茶丸の鼻先に小さな布を押し当てて間一髪でくしゃみを防いだ。
ほーっ、一同が息をつく。
「早く進みましょう」
コタローに急かされ、再び私達は前進を始めた。
通気口の奥から、制御室の明かりがぼんやり見えてきた。三木が通気口の金属製の蓋を確認する。下にはモニターとスイッチが並ぶ制御パネルがあり、2人の職員が座っていた。
三木がバッグからドライバーを取り出し、慎重に蓋のネジを外していく。微かにきしむ音が響く度にビクビクする。
蓋が外れ、制御室の様子が鮮明に見えた。職員たちはモニターに集中しており、背後にある私達には気づいていない。私達は慎重に制御室内へと降りた。
物陰で部屋の様子を観察したところ、この男たちはどうやらトラグネスとは関係ない普通の職員のようである。ならば、ここにトラグネス派の男たちが現れるのだろうか?それとも彼らが気づかないで何かを実行しているのか?あるいは・・・・。
私は、この違和感を伝えるために、音をたてないようにその事をスマホの画面に入力した。
同様にして三木が返事を返す。
「二手に分かれて、一方はここで見張り、もう一方は外の様子を伺おう」
私は頷いた。三木はさらに続けてスマホに文字を入力する。
「外へは俺たちが行こう。彼らはおそらく普通の職員だ。中の方が危険性が少ない。真崎はここにいろ。」
これは・・・信じていいのだろうか?三木は外に出て、仲間のトラグネスのところへ誘導し、そのままコタローを無力化するかもしれない。そうなると、私達だけでは・・・。
「いいえ、私とセイくんが行く。三木はここで待機していて」
私はそう返した。
三木はなかなか折れなかったが、私が譲らないのを見て、仕方なく部屋で待つことに賛成した。
私は音をたてないようにして外の廊下へ進んだ。
発電所内の地図を頭に叩き込んで廊下に出た私は、セイくんと共にソロリソロリと歩みを進めた。
しばらく行くと前方にセキュリティロボットの姿が目に入った。
「いけない!セキュリティロボットだ!」
慌てて、逃げ出そうとしたその時、突然、誰かが私の腕を掴み、近くの部屋へと引きずり込んだ。