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知性を与えられた猫たちは何を見る? 第9話

私は眠い目をこすり、パーカーを羽織って再び倉庫に向かった。空は少し明るくなり始め、時折、鳥の声が聞こえた。

「そもそもなんでこんな遠くから声が聞こえたの?」

彼らに会うなり私は聞いた。

「家のwifiを利用したんだよ。ちょっとハッキングしてネットに潜り、律佳ちゃんの家のwifiから電波を飛ばしたんだ」

「ねー、セイくん、すごいよねー。それ、今度僕にも教えてね」

茶丸が横で嬉しそうに尻尾をピンと立てる。

「で、犯人がわかったって?あなたたち、大丈夫だったの?」

「うん。・・・・犯人はね・・・」

倉庫の針金はまた無くなっていた。遠くでカラスの鳴く声が聞こえた。

「あいつだよ」

セイくんが空を見上げる。

バサバサッとカラスが羽音を立てて木から飛び立つ。

「カラ・・・ス?」

「うん、カラスが巣作りに針金を使うのは聞いたことあるよね。ハンガーのワイヤーを使ったり・・・」

「でも、こんなにねじってあるのに?」

「そうだよー、上手だったんだよー」

「そして倉庫に入ったの?」

「ううん、倉庫の犯人は別だった」

「別?」

「うん、アライグマだよ」

「アライグマ?そんなの日本の都会にいるの?」

「うん、最近はほとんどの県で見られるよ。ミカンの皮も上手に剥いて食べるらしいし。食べ物を巣に持ち帰ることもあるらしい」

「すごいね、カラスと合わせて窃盗グループだねー」

「来て来て、こっち。さっき飛んで行ったから今なら見れると思う」

彼等にそう言って連れられ、木に登ってカラスの巣を覗いた。そこには数本、倉庫のカギとして使われていた針金が見られた。他にもビー玉や、コインなどもあった。

「カラスは光るものが好きだからね」

その時、ふと見慣れぬものが目に入った。

「・・・・これは?」

つまみ出して見てみる。朝日の中でその金属片は鈍く光った。何やら電子機器っぽくも見えるが奇妙なパターンが刻まれている。けれども、職業柄、いろいろなデバイスを見るが、これは見たことがない・・・。

何故か気になってそっと胸ポケットに入れた。

「ねえ、律佳ちゃん、お腹すいたー!!」

「僕もお腹空いたよー」

「そうね、帰りましょっか」

「僕、チュール食べたいなー」

「いいわよー。事件解決のお礼だものねー」

2匹にねだられて、雀が鳴くなか帰路につく。

週明け、栗田さんに真相を伝えた。山崎と子猫のこと、カラスとアライグマのこと。

「ありがとうございます。真崎さん、あなたのおかげで山崎も疑いが晴れて・・・。それにしても、カラスとアライグマが犯人だなんて、よく見つけましたね!」

「ええ、一時的に倉庫の前に防犯カメラを置いただけですよ。カラスとアライグマがしっかり撮れてました」

「あ、猫のお姉さん・・・、ありがとうございます。教えられたようにSMSで里親募集して、猫の引取り先も決まりました。」

「それだけじゃないだろう?」

山崎が栗田社長に肘でつつかれる。

「こいつね、その里親募集で知り合った女の子と仲良くなってるんですよ」

横で山崎が照れている。

「おーい、山崎―、行くぞー!」

外から刈谷君の声がした。

「刈谷も勝手に疑ったことを謝って・・・、とにかくすべて丸く収まりました。ありがとうございました。これは気持ちばかりの・・・」

そうやって渡されたのは例のケーキ屋の箱。中にはチーズケーキ、アップルパイだけでなく沢山のケーキが入っていた。うふっ、当分ケーキ三昧ね。

「いいなー、律佳ちゃんだけー」

「僕たちが解決したのにねー」

「わかったわよー、あなたたちにもケーキ分けてあげよっかー?」

「要らないよー、カツオか、煮干しー」

「チュールだよー、チュールー!!」


車に乗り込むと茶丸は、はしゃぎすぎたせいか、すぐに丸くなって寝てしまった。

セイくんはと言えば、しばらく何かを考えこんでいたが、ポツリと言った。

「律佳ちゃんて・・・、冷静だよね。僕たちのことも慌てないで受け止めているし・・・」

「そう見えるだけよ。それに・・・感情に任せた結果、判断を誤ったり、危険な目に合うことだってある・・・」

古い写真のようにいくつかのシーンが私の目の前に浮かんでは消えた。

「でも僕は感情に判断を委ねることも時には大事だと思うよ」

セイくんにそう言われ、何かを言い当てられたような気がして、私はピクリとした。

「茶丸は好奇心や衝動が強いでしょ。だから僕は横で見ていてハラハラすることも多い。でも、何かを決めてるのはいつも茶丸なんだ」

そう言えば確かにそうだ。今日の見張りだって茶丸が言い出したことだ。

「僕は時々、そんな茶丸が羨ましいと思うよ」

「確かにそうね」

遠くでカラスの鳴く声が聞こえた。


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