
知性を与えられた猫たちは何を見る? 第34話
三木がSNSでメッセージを送ってきた。
「朗報だ」
「何?」
「秋月さんの行きつけのカフェで彼が電話で話すのを盗み聞きした」
「!」
「『ならば、長塚変電所の件は計画どおり進行中ということですね。6月28日に問題は解決する。時間は、深夜11時。なるほど、ありがとうございます』そう言ってた」
「やはり!」
「いっそ、秋月さんを人質にとってしまうか?」
三木が言うと本気か冗談かわからない。
「それは、もうちょっと先にとっておきましょう」
と私は返事しておいた。
当日は日中も曇り空でうっとおしい天気だった。空には厚い雲が見られ、今にも降りだしそうである。夏も近いというのに、肌寒さを覚えた。
夕飯を食べた後、私達一行は長塚変電所へ向かう。
辺りは静まり返り、虫の声も聞こえない。巨大な送電塔の姿が薄暗いライトの中に浮かび上がり、無機質な影を地面に落としていた。
巨大な変圧器が低い唸り声を上げ、地上施設は異様な雰囲気を醸し出していた。私達はフェンスを越えて敷地内に潜入した。
私はタブレットを操作し、フェンスのロックを静かに解除した。
「鮮やかなもんだな」
三木が後ろで言う。
「どうってことないわよ」
施設のドア近くでセイくんが独り言のように言う。
「まず、セキュリティカメラを無効化して、その後、建物のドアの電子キーを解錠する。」
数分後、苦も無くセイくんが
「これでOK」
と言って私を見上げた。
私がそうっとドアを開けるとキーッと金属の軋む音がした。
建物の中に入るとその隅に設置された重厚な鉄扉が目に入った。開けるとその奥には地下へと続く階段が見えた。
地下施設の狭い通路を奥へと進むと薄暗い通路の奥に青白いライトが揺れるように照らされ、動くのが見えた。
「気を付けて!巡回用のセキュリティロボットだ!カメラに映ったら一発でアウトだ!」
セイくんがそう注意するのを聞き、私達は慌てて隠れるところを探した。
「こっちへ!」
廊下を曲がった脇道に身を潜める。
モーターと車輪の動く音が次第に近付いてくる。
私はその音が近づくにつれ、自分の心臓の音も高鳴り、気付かれるのではないかと、胸を押さえた。
ロボットは円柱の頭の部分にスポットライトとカメラらしきものがあり、車輪のような足でフロアを移動していた。ライトがすぐ近くを照らし、息を呑んだ。
こっちに来ませんように、と願いながら片目をつぶって様子を覗う。
やがて、ロボットが過ぎ去っていくのを確認した私達はホッと息をつく。
そして、改めて私は辺りを見回した。
真っ直ぐ続く廊下のところどころに右へ左へと曲がり角がある。これではどこへ進めばいいのかわからない。まるで迷路のようだ。
三木が
「送電システムの操作をするならおそらく制御室のはずだが、・・・どこだ?」
と呟く。
「とりあえず、進んでみましょう」
と私は促した。
いくつかドアがや別の通路があったが、それらしきドアは見つからない。
廊下の突き当たりまで来て
「まずは右へ」
と、進み始めたが、その時、前方に巡回ロボットの姿が目に入った。
「ヤバい!巡回ロボットだ!」
慌てて引き返すが間に合わない。
鋭い警報が鳴り響いた。
ロボットが車輪の回転を早め、高速で近づいてくる。カメラの赤い光が鋭く光る。
私達は走り出した。が、前からも複数のロボットが警報を聞きつけ、こちらへ動き出すのが見える。
セイくんが立ち止まり、端末を取り出す。
「このロボットの制御システムにアクセスする!」
そう言って操作し始めた。画面に複雑なコードが次々と表示される。
「急いで!」
私は半ば悲鳴を上げた。
セイくんが落ち着いた様子で
「これだ!」
と呟く。それと同時にロボットが急に停止し、警告音が途切れ、静寂が戻った。
茶丸が振り返り、
「やったね?もう追ってこない?」
と尋ねる。
セイくんは
「今の状態がどれだけ続くかわからない!今のうちに逃げよう!」
と皆に呼び掛ける。
「まずは制御室のドアを探さなきゃ」
そう言って駆け出そうとする2匹とコタローを私は慌てて止めた。
「ダメよ!行き先もわからずに動き回っては、またロボットに追いかけられてしまうわ」
とは言え、どうすれば…。