
知性を与えられた猫たちは何を見る? 第7話
カメラは事務所前に設置されているので、倉庫のドアは直接映らない。ましてや畑や空き地に囲まれているような場所にあるのだから、防犯カメラに映らないようにして倉庫に近づくことは可能だ。なので、念のために見るに過ぎなかったのだが・・・。
「あ、何か映ってる」
一緒になって見ていた茶丸が言う。
「うん、人影だね」
セイくんも続ける。
その人影は事務所の前を通り、30分ほど経過した後、また戻っていった。
「栗田さん、これは?」
「・・・はい、刈谷が言ってたのはこれのせいです。別の従業員に山崎という者がいるのですが、背格好や持っている鞄などから、この人影は山崎じゃないかと・・・」
「山崎さんに聞いてみたんですか?」
「ええ、もちろん。ですが・・・本人は否定するものの、そのうろたえ方がますます周りの者から疑われてしまって・・・」
栗田はまるで自分が疑われているかのように困った顔で俯く。
しばらく考え込んだ私は尋ねてみた。
「栗田さん、あなたは山崎さんではないと思っているんですよね?」
「・・・はい。実は・・・」
栗田が話し始める。
「・・・山崎は以前に少年院に入ってたことがあるんです。それも悪い友達に脅されて彼だけが捕まり、そんな彼に私は二度とそんなことにならにように、困ったことがあれば必ず私に言えよと言ってたんです。彼は泣きながら何度も頷いて・・・仕事もまじめですし・・・。これは私の勝手な期待かもしれませんが、彼がやったとは思いたくないんです。ですが、少年院に入ってたということで周りの者からも疑いの目で見られてしまって・・・」
ふう、と栗田がため息をついた。
「わかりました。ですが、それだけでは山崎さんが犯人でないとも言えませんし・・・山崎さんは、今日は?」
「もうそろそろ戻るころです。あ、ちょうど戻ったようですね」
事務所に入ってきたのは猫背気味の痩せた気の弱そうな若者だった。
防犯カメラの画像と見比べる。確かに似ている。持っている鞄も・・・。
「これ、彼だね」
セイくんが言った。
「今、画像を解析したよ。この鞄も鞄につけているキーホルダーも同じだよ」
「ちょっと、いいですか?」
私は山崎に声を掛けた。山崎はおどおどとした様子でこちらを見る。
「け、警察・・・?」
山崎が泣きそうな顔で言う。辛い記憶と被ったのだろう。私は大慌てで否定する。
「あ、違うの、山崎君。ただちょっと聞きたくて・・・」
山崎は目を泳がせながら、何か言い訳を考えているように見えた。しかし、結局何も言えないまま口をつぐむ。
「これでは無理ね」
茶丸とセイくんにそっと言う。
その時。山崎は私の動きに気づき、
「あ、猫・・・」
と言った。
「そう、お散歩中だったのよ。ごめんね、私、もう帰るから・・・」
「猫、触ってもいいですか?」
「ええ」
その間、私は外に出て栗田と少し話をした。
「おそらく、防犯カメラに写っていたのは山崎君です」
栗田はガックリと目線を下に向けた。
「ですが、何か理由があるのかもしれません。もう少し、調べてみましょう」
「お願いします!何とか、何とか、お願いします!」
栗田に何度も頭を下げられ、ま、乗り掛かった舟だからと自分に言い聞かせた。
「ねえ、律佳ちゃん、どう思うー?」
後部座席から顔を出してセイくんが言う。
「そうねえ、山崎君、何か理由があるのかもしれないわね」
「お腹が空いて仕方なかったとか?」
茶丸は、後部座席の窓に前足をかけ、外を興味深げに見ながら口を挟んだ。
「うん、まあ・・・そんな感じ?」
私は適当に相槌を打ちながら、ちょっとめんどくさい話になってきたなと考えていた。
「そうだ、今晩、見張りをしてみようよ」
茶丸が運転席まで身を乗り出して、そう言う。
「嫌よー!そんなの。いつ来るともわからない犯人を暗闇で待ってろって言うの?」
そうやって言い合う私たちにセイくんが口をはさんだ。
「大丈夫だよ。夜の10時から11時の間だけ、あそこに居ればいいんだから」
「10時から11時?」
「うん、防犯カメラでは山崎君は毎日決まった時間に写ってた。なので、何も一晩中でなく、一時間だけ見張っていればいいんだ」
「ううーーん」
2匹に押し切られてしまった。仕方ない。課長にはモンブランも追加してもらわなきゃ。