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知性を与えられた猫たちは何を見る? 第24話

翌日早朝、キッチンのケトルがシュンシュンと音を立てるのを聞きながら、私は昨日のことを思い返していた。

昨日、私たちは、トラグネスのエネルギー転送装置を破壊し、何とかミッションを成功に収めることができたが…。

それにしても、ジョンが言ったトラグネス、いったい彼らはどういったものなのだろう?敵対する異星人としか知らされていない。昨日見た男たちや、先日家の近くで私をつけてきた男は地球人に化けたトラグネスなのか?それともトラグネス派の地球人なのか?

ケトルのスイッチを切り、ティーバッグを入れたマグカップにお湯を注いでいたところ、隣の部屋からセイくんの声がした。

「律佳ちゃん、そろそろだよ」

私はマグカップを片手に隣の部屋へ向かった。

「お待たせ」

私は淡く青い円筒状の光の中に入り、ソファに腰かける。光の中に入ると周囲の雑音が消え、静寂が訪れた。

この円筒状の光の中では外部の干渉をシャットアウトするので、傍受の心配がない。しかもそれだけではなく、光の中にあるものをリアルタイムでスキャン、解析することも可能だ。いかにジョン達の文明が地球より先にあるかを思い知らされる。

「昨日は任務の遂行、感謝する。そして、何だって?何か別に気になることがあるという話だが・・・」

ジョンが前置きも無しに話し始める。その話し振りは決して不愛想なものではなく、むしろ、煩わしさがなく律佳にとっては心地よいものだった。

「ええ、昨日、装置を破壊した後に見つけたものがあるの。これなんだけど・・・」

私はポケットから出したそれを見せる。
その小さな金属片には複雑な模様が刻まれ、朝の光に照らされながら、どこか怪しく光った。

「それは?・・・詳しく見たい」

私はスキャンしやすいように金属片から手を放した。

「これは・・・地球上には存在しない合金が含まれている。」

やはり三木の言ったとおりである。

「そして、この模様……」

ジョンが続ける。

「これは、トラグネスのもの、あるいはトラグネスが関与しているものに違いない」

やはり・・・

「これが何であるかは、今すぐにはわからない。調査の結果はまた知らせる。」

私はゆっくりと頷いた。そして気になっていたことを口にした。

「ジョン、教えてほしいの。トラグネスについて。昨日見た男たちは宇宙人なの?」

ジョンは静かな声で言った。

「おそらく、昨日、君たちが見たのはトラグネスに協力している地球人だろう。トラグネスは地球を支配するために一部の地球人に接触して、人間社会を支配しようと目論んでる。」

思わずハッと息を呑んだ。

そしてジョンはしばらく黙っていたが、重々しく口を開いた。

「トラグネス、彼らが何者であるか。それを話すためにはまず我々の種族についても説明しなくてはならない。」

ジョンはそう言って語り始めた。

「トラグネスの母星であるトラグナーは、かつては豊かで美しい星だった。しかし、急速な人口増加と資源乱用が環境を破壊し、星は自らの手で滅びの道を歩んだ。自らの欲望を優先し、略奪の道を選んだ結果、彼らは現在のトラグネスへと変貌を遂げていった…。」

ジョンの声は憂いを帯びていた。

「今のトラグナーは砂漠化が進み、毒性の高い大気が広がっている。水は人工的に生成するしかなく、生物はほぼ絶滅、唯一あるのはトラグネス自身が設計した適応型の人工生命体だけだ。」

ジョンが話す口ぶりは、どこか遠くを見ているようだった。

「そんな中、トラグナーを脱出し、別の星へと移住した者たちがいた。彼らはその星をノヴィエラと名付けた。新しい母星ノヴィエラで彼らは倫理観を重視し、同じ過ちを繰り返さないよう努力した。持続可能なエネルギーと調和した社会を築き、現在まで繁栄している。それが我々ノヴィエルだ。」

私はその言葉に驚いて尋ねた。

「ということは、ノヴィエルとトラグネスは、元々は・・・」

「そう、祖先は同じ種族だ。ノヴィエルとトラグネスは、かつて同じ進化の道を辿っていた。しかし、選択が分かれた。」

「選択?」

「彼らは略奪による生存を選び、私たちは共存を選んだ。それが今の結果を生んだ」

「略奪……それで地球に?」

「そうだ。彼らは資源だけでなく、地球人の労働力と知性をも支配しようとしている。それを阻止するのが私たちの役目だ。」

私は頷いた。



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