
知性を与えられた猫たちは何を見る? 第38話
「さて。どうするかね」
三木がコーヒーカップを片手に聞いてきた。
「そうねえ、まず、日にちがわからないと・・・。セイくんが見つけてきた、霧島と中野って人のメールの内容を確認してみて・・・・」
「それよりも、直接会ってみようぜ、その方が手っ取り早い。会社の営業担当みたいなふりして乗り込もう」
「どうやって?」
茶丸が不思議そうな顔をして三木を見る。
「まずは、俺たちはコーヒーサーバーの営業として乗り込む」
三木の言葉に私は答えた。
「わかったわ」
すると三木は
「え?それだけ?いつもなら真崎、『何でコーヒーサーバーなの』とか、いろいろ突っ込んでくるのに・・・。」
「だって、そんなことで反論したって仕方ないでしょ。」
「なんか、らしくねぇな・・・。お前、ちゃんと飯食ってるか?こないだの会社の会議でも、そうだろ?お前の意見スルーされて、それでも反論もせず・・・ま、いいわ。」
面白くなさそうに三木は言った。
らしくないって、三木は私が反抗期のティーンエイジャーだとでも思ってるのかしら。私はちょっと面白くなかったが、取り合わないことにした。
「ねえねえ、三木さん、コーヒーサーバーの営業って、どうしてなの?ロボットなら直接中野って人に接触できるのに」
セイくんが三木に尋ねた。
「おう、よくぞ聞いてくれた。ロボットの導入となると、発電所で決めずに本社オフィスで決済することになるだろ?でもコーヒーサーバーくらいなら、発電所に出向いてもおかしくないからな」
三木はセイくんに得意気に話している。
「へえー、でも、そこからどうやるの?」
「ま、そこは見てろって」
私はAIデバイスに営業っぽく見える服装のアドバイスをもらい、それを着て三木との待ち合わせ場所へ行った。三木も普段のラフな格好ではなく、スーツを着て髪型もピシッとまとめて姿を見せた。
「わー、三木さんー、カッコイイ」
「別人みたいー」
「馬子にも衣裳って言うんですかね?」
囃し立てられながら、三木は車に乗り込む。
私達は第3旭丘火力発電所へ向かった。
向かう途中の車内で、缶コーヒーのプルタブを引き上げながら三木がポツリと言った。
「そういえば、もうそろそろ、お前さんのじいさんの命日だろ?早いもんだな・・・」
見知らぬ人を助けようとして命を落とした祖父の死は当時、ニュースや新聞にも載った事件だった。私の両親は私がまだ物心つく前に離婚、その後、母も亡くなったため、私は祖父に育てられたと言っていい。そのせいで、今でさえ、両親よりも大きな存在である。
「それにしてもなあ、ホームレスが暴行にあってるのを助けて死んでしまうなんて・・・、ホームレスなんて放っておきゃ良かったのにな」
「え?」
私は一瞬固まった。
「だって、そうだろう?ホームレスを助けたからとて、意味がない。そのホームレスが社会にどう役立つ?」
私は三木の発言に引っ掛かって、反論した。
「待って。それは無いんじゃない?!」
思わず声を荒げる。
「意味があるとかないとか、それは助けた人がホームレスだから、助けた命に価値がないっていうこと!?」
「事実、そうだよ。例えば事故に遭ったときの賠償金だって、命の値段は同じではない。そんなホームレスを助けて死んだところで、無駄死にだ。そんなホームレスを助けるより、お前さんとの生活を大事にすれば良かったんだ。」
ショックで言葉が出てこない。いろいろと言いたい反論はあるのだが、どこからどう突っ込めばいいのかまとまらず、私は口をつぐんでしまった。
祖父が他人のために自分を犠牲にした行いを否定されるなんて、むしろその自己犠牲の精神は尊いものとされるべきはずなのに・・・!
「それが、あの人の選んだ生き方だったの!それをどうのこうの言われるなんて筋合いは無い!」
叩きつけるように私は言った。三木がハッとして黙った。
しばらくの沈黙の後、
「悪かった、言い過ぎた。」
と三木が謝る。
「私も、感情的になってしまって・・・。そんな話より、今の問題に向き合いましょう」
そう言って私は話題を変え、取り繕った。