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知性を与えられた猫たちは何を見る? 第60話

急いで元の部屋へ向かおうとしたその時、突然、コタローが目の前に現れ、

「律佳さん、こちらです。」

と私に言う。
「え、コタロー・・・。いったいどこに・・?」

コタローは黙って見向きもせずに私の前をどんどん進んでいく。

「待って、コタロー!」

私はコタローに誘われるまま、廊下を走り進んだ。

コタローに追いついたのは、ある部屋の前だった。

「ここは?」

ロックされていたが、そう複雑なものではなかったため、私は端末を取り出し、セキュリティを解除し、中へ入った。
「あっ!」

そこにいたのは秋月だった。

部屋にはベッドとテーブルがあり、ベッドと反対側の壁には洗面所、その傍にはトイレと思われるドアがある。

秋月は私が来るのがわかっていたかのように、テーブルに置いてあるものを手に取って立ち上がった。

「ありがとう。私一人ではここのドアを開けることができなくてね。」

秋月はそう言い、

「さあ、行こう」

と、私の横を過ぎてドアへ向かう。振り向くと秋月がコタローの頭を撫ぜるようにして触れ、「よくやった。もう戻っていい。与えられた任務を続けろ」と言うのが聞こえた。

秋月が速足で廊下を進むのに追いついた私は、

「いったい・・・?」

と説明を求める。

「君たちの行動は、コタローを通じて把握していた。以前、コタローが私のオフィスに来た時に、私はコタローにプログラムを仕込んでおいた。」

秋月の言葉に私はハッと思い当たる。変電所で、急にコタローが誰も知るはずのない制御室の場所を案内したり、転送の行われる発電所の場所を急に言い出したこと・・・。

「今は説明している時間が惜しい。
結論から言う。このままではトラグネスを制圧する事は厳しい。しかし、もう一つの方法がある。
ネオAIがトラグネスの遺伝的要素を組み込まれたAIであることは知っての通りだが、その遺伝的要素に手を加えるんだ。

トラグネスは、冷徹で、生きるためには他者を犠牲にすることも彼らにとっては当たり前、真の捕食者だ。地球上の生物には捕食者にさえも利他的行動が見られるが、彼らには殆どそれがない。彼らはそのように進化してきた生物なのだ。

そしてネオAIについてだが、彼のデータは分散していて、親サーバーも強固なセキュリティで守られている。よって、そこを物理的に破壊することは難しい。
だが、その親サーバーに外部の端末からアクセスすることは可能だ。」

彼はそこまで言って、彼が手に持つデバイスを私に見せた。

「ここには、私の、つまり地球人の遺伝的要素を解析したデータが入っている。これを、ネオAIに組み込むことで、人類の持つ感情や行動の動機などが追加される。
そうすることで、ネオAIは人類の脅威ではなくなるだろう。」

秋月はそこで言葉を切り、

「さあ、急げ。親サーバーにアクセスできる端末のある部屋へ移動するんだ」

と私を促した。
その部屋にはデスクトップPCが置かれたデスクがいくつか、そして壁には何やらわからぬ数式がびっしりと書かれたボードが掛かっており、いたるところにファイルが散乱していた。

「ここは私が研究していた部屋だ。ここからなら親サーバーにアクセス可能だ。」

そう言って、秋月は眼鏡をかけて端末に向かい、キーボードを叩き始めた。

「・・・真崎君、君に、もうひとつ言っておくことがある。・・・私が研究を続けていくうちにわかったことがある。私が発見したのは、すべての生命には固有のIDがあるということだ。」

「?固有ID?・・・それは、データベースで使われるのと同じ意味で?」

「そうだ。それ自体は意識を持つわけでもなく、何の力も持たない。だが、それが無くては、生命は宿らない。生命は生まれながらにしてマイナンバーを持っているというわけだ。」

秋月はわずかに笑いながらそう言う。

「つまり、人が『魂』とか、『ゴースト』と呼ぶものと言っていい。生体データだけではなく、その存在を証明するための・・・存在証明のコードと言っていい。」

「存在証明のコード…。」

その時、目の前の大きなスクリーンに見覚えのある画像が浮かび上がった。
画面には黒い背景に抽象的な模様が変化しながら形を変えていた。同時に声が聞こえた。


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