
知性を与えられた猫たちは何を見る? 第4話
「すみません!もう一度見せてください!」
佐藤さんに頼んでもう一度庭に入っていく。
ローズマリーの茂み・・、あっ!
中にあったのはドローンだった。
「あら!これ、何なのかしら!子供のオモチャ?」
佐藤さんが不審げに見る。
「・・・ドローンですね」
どうやら、こいつが犯人ではないかと考えが及んだが、だとすると防犯カメラの映像はいったい・・・。
その時、茂みの枝にキラッと光るものがあった。
「これは・・・」
里奈ちゃんが無くしたというキーホルダー・・・、小さな猫の飾りがついていた。
「あ、それね、この間、近くで拾ったので、見つけやすいようにここに掛けておいたんですよ」
通りかかった近所の人が話しかけてきた。
「どこですか?」
「ここに、こうやって」
その人は佐藤さんの家のフェンスに掛ける真似をする。
ドローン、猫の飾りのキーホルダー・・・位置はここで・・・
私の頭の中でそれぞれが位置を変えながらイメージが続く・・・
「・・・・そうか!」
「どうされました?」佐藤さんが不思議そうな顔で私を見た。
「おそらく、これが犯人ではないかと。昨日、このドローンが故障したか何かの理由で落ちてきたのでしょう。その時に植木鉢を引っ掛けて倒し、さらにこのキーホルダーも引っ掛けこの茂みに墜落した。キーホルダーは今、私たちが見つけたところではなく別のところに引っ掛かった。おそらく、このあたり」
私は近くにあるソーラーライトのそばを指さした。
「昨日も天気は良かったので、夜、このソーラーライトは点いていたはず。そのライトに照らされ、この小さな飾りは大きく壁に映し出された。一方、ドローンは完全に止まったわけではなく、まだ動きがあり振動していた。その振動で少しずつキーホルダーは移動し、落ちてさっき見つけたこの枝に引っ掛かった。佐藤さん、もう一度、防犯カメラの映像を見せてもらえますか?」
「え、ええ」
「この映像の猫と、このキーホルダーの猫、ね?光源の加減で歪みはあるけれど酷似してるでしょう?」
「そう言われると・・・」
「そして、聞いてください・・・・」
再び再生する。
ガシャンと植木鉢が壊れた音の後、かすかにジジジツと機械音がする。
「ドローンが完全に止まらず、動いている音です」
セイくんが言いかけていた言葉を思い出した。セイくんは映像の不自然さを指摘したとき、確か、音についても言おうとしていた。
「まあ・・・、そうだったの・・・」
佐藤さんはそれでも少し不満げだった。持ち主のわからないドローンが相手では怒りの持って行き場がないからだろう。
「佐藤さん、このドローン、少し借りられますか?アプリのログなどを調べてみましょう」
私は気の毒になってそう言った。
私はドローンのアプリにアクセスし、飛行履歴やGPSトラッキングのログを確認し、ドローンが飛行中に取得した位置情報の記録を確認した。飛行ログには、ドローンが飛び始めた位置、飛行中のルート、そして最終的に着地した場所、すなわち佐藤さん宅が記録されている。つまり、スタート地点は、このドローンの持ち主の住所と推定された。
ドローンの持ち主は近所に住む大学生だった。大学生に会いに行くとすぐに事実を認め、佐藤さんに謝罪し弁償するとのことで、キーホルダーも無事里奈ちゃんの手に戻った。
「ごめんなさいねえ・・・。茶丸ちゃん、セイちゃん、疑ったお詫びに今度チュール買ってきてあげるわね」
「ニャ、ニャ!」
猫たちは嬉しそうに走った。
「あらあら、言葉がわかるのかしらねえ」
「ええ、まあ、そうかもですね」
とにかく、案件はひとつ片付いた。
で、他の案件は何だっけ?何を考えなきゃいけなかったんだっけ??
もちろん、異星人と、異星人のせいで知性を持った喋る猫のことだが、それの何が問題なんだっけ?
ま、いっか。
チュールに喜ぶ2匹を見ながらそう思った。