
知性を与えられた猫たちは何を見る? 第16話
コタローのアップグレードそしてジョンとの通信があった日から数日後、私は会社の開発ルーム近くの喫煙室前にいた。
私はそこでポケットから取り出したものを、角度を変えてみたり、時には持ち上げて光に透かしてみたりして眺めていた。
と、その時、喫煙室の自動扉が開き三木が出てくるのが目に入った。
「おう」
三木はそう言って傍にある自動販売機に向かう。
「で、今日は何なんだ?またコタローか?何なら、ぬいぐるみモードを付け足そうか?」
私はコタローの耳の曲がった姿を思い出しプッと吹き出しそうになる。
「それは、また今度お願いするわ」
私たちは廊下を進み開発ルームのドアを開けた。
三木はドカッと自分の椅子に腰かけ、「ほらよ」と私に缶コーヒーを放り投げた。
「ありがと」
私は、礼を言ってそれを受け取り、部屋の中の様々な備品を見ながら言葉を探し、ちょっと迷ってから言った。
「ちょっと見てもらいたいものがあって」
「?」
「これなの。」
そう言って私はポケットの中から取り出した。
それは2センチくらいの金属片だった。鈍く光るそれは奇妙なパターンが刻まれており、何らかのデバイスのようにも見えた。
「何なんだぁ?これは?」
三木がそれを受け取り、さっき私がしていたように角度を変えたり持ち上げたりしてしげしげと見ている。
「私にもわからないんだけど、ちょっと気になって」
三木は複雑な表情をして
「これ、どこで見つけたんだ」
と聞いてきた。
私は缶コーヒーのプルタブを開けながら
「まあ・・・拾ったというか・・・。何かのデバイスに見えるんだけど、私もこんなの見たことないし、三木なら知ってるかと思ったんだけど・・・」
と返事した。
何かを言い返してくると思ったが、意外にも三木はそれを見ながら黙り込んでいる。
「ま、わからないならいいわ」
そう言って金属片を受け取って帰ろうとしたのだが、
「ちょっと、これ預かってもいいか」
思いもよらぬ返事が返ってきた。
「いいけど・・・。じゃあ・・・何かわかったら連絡してね」
「ああ。」
翌日。梅雨入りしたにもかかわらず、晴れた日曜日。
セイくんは窓辺の陽射しを浴びてゴロンと日光浴をし、茶丸はせっせとPCのユーチューブの画面で「猫 おもしろ動画」で検索をしている。
私が、引き出しの整理をしていると、興味深げに茶丸が寄ってきた。
「何それー。あ、これ律佳ちゃん?」
引き出しの中にあった写真に気付いて茶丸が言う。
「こんな時もあったんだねー」
茶丸はクンクンと匂いを確かめながら写真に見入る。
「この人は?」
「母と、母の父、つまり私のおじいさんよ」
「ふう~ん?」
写真の中に、まだ初老というには若い祖父と母、そして私の笑顔があった。
真夏なのだろう、向日葵の花が咲く中、私は虫取りカゴと網を持ってノースリーブのワンピースを着ている。傍には大きなつばの付いた帽子をかぶった母、そして大きな口を開けて笑っている祖父・・・。
思いに耽っていると、スマホがヴヴッと音を立てた。
見ると、スマホのAIがSNSのメッセージが入ったことを知らせてきた。AIは差出人についても説明をつけていた。
「あら?山崎君?何の用かしら?」
山崎は、以前にちょっとしたお手伝いをした会社の社員である。彼が子猫に餌をやっていた事が原因で犯人と疑われ、その事件解決の手助けしたのだが、その際に子猫の里親を探すためにSNSの使い方を教えた覚えがある。
確かその時に、アドレス交換をしたような記憶がある。以後、特に連絡をとることも無く、今、AIに教えられて、ようやくそれが誰であるかを思い出した。
傍にいたセイくんが
「山崎君って、あの、子猫に餌をあげてた人だよね?」
と聞いてくる。
「そうそう、そのせいで犯人と間違えられた人だよね―。何て書いてあるのー?」
茶丸が見せて見せてと前足を私の手に掛けてくる。
私は彼からのメッセージを開いた。
「うーんとね、あら!」
「何―?」
「子猫ちゃんが逃げちゃったんだって」