
知性を与えられた猫たちは何を見る? 第19話
コタローと一緒に向かったのは少し行ったところにある公園だった。
ちょうどそこに、山崎とまどかさんもやってきた。
「公園内カメラの映像では・・・あのあたりかな」
セイくんが示したのは池の傍だった。近くにはベンチとベンチの隣に高い木がある。
「トラオー!ト、ラ、オー!」
山崎が大声で呼ぶ。
「そんなに大声出したらびっくりして逃げちゃうわよ」
山崎はちょっと顔を赤くして、頭をかき、それでもまどかさんとベンチの下や茂みを必死になって探した。
その時、ミャー、と小さな声がした。
「あ、あそこ!!」
茶丸が示した方を見ると木の枝に子猫が必死になって捕まっている。
「どうしよう・・、あんなとこに・・・」
木は細く、下枝もなく登れそうにもない。かといって周りに枝に届くようなものも無く・・・。
「任せてください!」
コタローがまるで号令のように大きな声を発した。
私は心配そうに見守る。
「本当に登れるの?」
「もちろん。アップグレードされた僕にできないことはありません!」
コタローは胸を張った。
「任務開始!」
と元気よく言い、コタローはしっかりと足を踏みしめた。
「ちょっと、これで行けるの?」
私は心配になってきた。コタローは背中のメンテナンスパネルを少し開き、高出力エネルギーコイルを取り出した。私は目を見開いて叫んだ。
「ちょっと!何する気!?」
「問題ありません。これで一気に加速します!」
コタローは冷静に言い放ち、摩擦発電機能をフル稼働させ、足元の地面を踏みしめると、数秒でエネルギー蓄積を最大化させる。その瞬間、コタローの背中と足元から青白い光線が放たれ、私は思わず悲鳴を上げた。しかしその心配をよそにコタローはまるで反重力装置でも搭載しているかのように、瞬時に木の幹を駆け上がり始めた。
「え、登るんじゃなくて?駆け上がってる・・・これ、どう考えても普通じゃないわよ!」
私が唖然とする中、コタローは木の幹を垂直に登りながら、高出力バランス機能を駆使して一度も揺れることなく登り続けた。枝の先にいる子猫を目の前にし、コタローは一度立ち止まった。
その時突然、センサーが警告音を鳴らした。
「枝の耐久性が限界です」
コタローが言う。枝がミシミシと音を立て、いつ折れてもおかしくない状況に。
「あぶない!」
私が叫ぶと、コタローは一瞬だけ振り返り、
「これもアップグレード機能を試す良い機会です!」
と笑顔を見せた。
枝が折れる直前、コタローは胸部に搭載された拡張可能なクレーンアームを手動で展開した。そのアームが伸びると、コタローは自分の体の重心を完全に保ちながら、クレーンアームで子猫を軽々と引き寄せ、強化されたバランス機能をフル活用し、枝から枝へと飛び移るように移動した。
「これで完了です!」
コタローは余裕の表情で子猫を抱え上げ、そのままアームで安全に降下・・・と思いきや、次の瞬間。
突然、公園の外でクラクションが鳴り響いた。
パッパーッ!
その音に驚き、子猫がコタローの腕から飛び出し、子猫は池に落ちてしまった!
「トラオ!」
山崎は叫び、池の端で一瞬だけ立ち止まった。その顔には迷いと恐怖が浮かんでいる。 池では子猫がパシャパシャと水をかくが、このままでは溺れてしまうのは目に見えていた。
「どうしよう!」
まどかさんが焦りながら悲鳴を上げる。
山崎はぐっと拳を握りしめ、
「大丈夫です、任せてください!」
と、自分に言い聞かせるように言うと池に飛び込んだ。
冷たい水が全身を包む中、山崎は必死に子猫を探す。ついに小さな茶色い毛玉を見つけ、慎重に腕で包み込むように抱えた。
岸に戻ると、まどかさんが駆け寄り、
「山崎さん、本当にありがとう!」
と言いながら彼の手を取った。
山崎は恥ずかしそうに顔を赤らめつつ、
「当たり前のことをしただけです」
と照れて言った。
一方、私たちはコタローの傍に駆け寄る。
「ちょっと、まさかこんなにやるとは思わなかったわ!」
私は笑ってコタローの目を見る。
そして山崎の方を見ると、まどかさんは山崎の顔をハンカチでぬぐい、もう一方の手は山崎の手を握っているのが見えた。
その様子では、どうやらまどかさんとの距離はグッと縮まったようである。
「ま、このあとはお二人で・・・ね?さ、それじゃあ、帰りましょ」
私はコタローと2匹に声を掛けた。
「無事に救助完了です。次の任務に移ります!」
コタローは誇らしげに言い、摩擦発電機能で発生したエネルギーを一気に使い家までダッシュした。
その様子に私も2匹も笑い、「テストは合格のようね」と満足した。