
知性を与えられた猫たちは何を見る? 第8話
夜10時。
私は黒いパーカーに身を包んで、事務所の陰に身を潜めて待った。2匹はあたりを徘徊したり、時々追いかけあって遊んだりしている。
「茶丸が夜の散歩をしたかっただけじゃないのー?」
私は口を尖らせてつぶやいた。その時茶丸が声を上げた。
「あ、律佳ちゃん、見て!」
いよいよ来たか!と思うと
「ネズミ!」
「キャーッ!!!」
私は大慌てで立ち上がる。
「シッ!静かに!!!」
セイくんにたしなめられ
「もうやだ、帰ろうよー」
私は泣き言を言いだした。
そしてしばらくすると、また茶丸が
「律佳ちゃん!」
今度は私も声を上げないようにしながらも、ビクビクと身を縮こまらせて思わず目をつぶった。
ギュッと目をつぶって数秒後、静寂の中、遠くに足音が聞こえた。
「来たよ」
セイくんが耳を立てながら言う。
山崎とおぼしき人影が事務所の裏へと歩いていく。その後ろを茶丸とセイくん、そして私がついていった。
すると、山崎は倉庫とは反対側の資材置き場に向かった。
「何をするんだろう・・・」
暗がりの中、小さな声が聞こえてくる。
「ごめんよ。遅くなって。お腹空いたよね・・・」
山崎の声に交じって小さなミーミーという声が聞こえてきた。
その瞬間、私はつまずいてガサッと音を立ててしまい、山崎が振り返る。
「あ、猫のお姉さん!!」
山崎はポツリポツリと話し出した。
「ちょっと前にここで見つけたんです。母猫とはぐれたのか、お腹を空かしていて・・・僕のアパートでは猫は飼えないし、だからここで朝と昼休み、帰る前、そしてこの時間にミルクをやって・・・」
「そう言えば良かったのに」
「だって、怒られるかもしれないし、猫も保健所とかに連れていかれるかもしれないし・・・」
ふう、とため息をひとつついてから私は言った。
「何とかしてあげるから。本当のこと言いましょ」
山崎は小さくうなずいた。
山崎が帰った後、私も帰ろうと車のロックを開けたとき、セイくんが言った。
「それなら、倉庫の犯人は誰なんだろう?」
「変だよねぇ・・・・そうだ、律佳ちゃん!僕たちもう少しここにいちゃダメ?」
茶丸がはしゃいだ様子で言う。
少し悩んだが、ダメという理由もない。家までは車で5分もかからないし、彼らも自分たちで帰って来れる距離だし。
「んー、いいけど・・・大丈夫?」
「大丈夫だよ。猫はもともと夜行性だし」
「それに僕たち、普通の猫じゃないからね」
そう言われ、彼らを残して家に戻る。
すっかり遅くなってしまった。明日は土曜で休日だとは言え、お腹もすいた。食事をとった後、シャワーを浴びて、ベッドに潜りこむ。2匹は大丈夫かしら・・・そう思いながらもうつらうつらと眠りについた。
「律佳ちゃん!」
茶丸の声で起こされた。目を覚ますとあたりはまだ薄暗い。時計は4時をまわったところ。
「何?何?どうした?大丈夫?」
2匹に何かあったのではないかと心配して声を上げた。しかし、見回したが、辺りに2匹はいなかった。
「どこ?どこにいるの?」
「律佳ちゃん、慌てないで。わかったから。」
「わかったじゃないわよ、今どこにいるの?!」
「わかったんだよ!犯人が。今、まだ倉庫の前にいるんだ」
セイくんの声に驚く。
「とにかく、来て、来てよ!」
茶丸がはしゃいだ様子で言う。