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知性を与えられた猫たちは何を見る? 第17話

山崎からのメッセージは、里親に渡った子猫が逃げ出してしまい、里親の女性が困っているので何とか助けてもらえないかというものだった。

「うーーーん・・・」

困った。
協力できることが無いわけではないが、正直なところ、今、それどころじゃないというのが本音である。

先日、ジョンから、敵対する異星人がいるという話を聞かされた今、やるべき事、考えておかねばならない事が多すぎて、出来れば断りたい。

「律佳ちゃん、手伝ってあげようよー」

茶丸が無邪気にあどけない顔でそう言う。

「いや、そうは言っても・・・、ちょっと今、その余裕が無いというか・・・」

「手伝ってあげればいいじゃない」

部屋の奥でコタローと遊んでいたセイくんも言う。

「私も手伝います」

とコタロー。

コタローがそう言うのを聞いて、茶丸がいいこと考えた!とでもいうように声を上げた。

「ねえ?!コタローをアップグレードした結果を見るテストにしたらいいんじゃない?!コタロー一人でどこまで任務を果たせるか!ね?律佳ちゃん、どう?」

オレンジ色の目をキラキラさせてそう言う。

「それ、いいんじゃない?」

とセイくん。

「任せてください。責任を果たします」

とコタロー。

2匹と一体の意見についつい押されてしまったが・・・。

30分後、私たちは家の玄関前でコタローに注目していた。

「では、子猫を探すために情報収集を開始します!」

コタローが意気揚々とそう言って通りに出ようとする。

慌てて私はコタローを制して言った。

「ちょっと待って、本当にこの格好で行くの?」

「問題ありません。ぬいぐるみの外見は完璧です。誰にも怪しまれないでしょう。」

耳が少し変な方向を向いている犬のぬいぐるみが歩く。コタローは自信満々だ。

少し不安になったが、私は肩をすくめて、「まあ、なんとかなるか」と小声でつぶやいた。


最初に立ち寄ったのは、近所のパン屋だった。コタローが店のカウンターに向かって歩いていく。私たちはそれを物陰でこっそり窺う。

コタローが近づくとパン屋のおじさんが目を丸くした。

「お、おい…犬のぬいぐるみが動いてるじゃないか!」

「こんにちは、パン屋さん!」

コタローが礼儀正しく声をかけると、おじさんはさらに困惑した表情を浮かべた。

「しゃ、喋っただと…?これは…夢か?」

「すみません、私はロボットなんです。今、近所で行方不明になった子猫を探しているんですけど、何か心当たりはありませんか?」

「ロボット…?犬のぬいぐるみ…?」

「いえ、犬ではなく子猫です。子猫を探してます。ご存じないですか?」

「あ、ああ。子猫かどうかわからんが、昨日の夕方、うちの店の横で何か小さい影を見た気がするが・・・」

「貴重な情報、ありがとうございます!言われた場所、捜索してよろしいでしょうか?」

「・・ああ、いいけど・・・」

コタローが店の横にあった段ボールをガサゴソと探し始めると・・・そこから小さな影が飛び出す。

「キャーッ!ネズミー!」

店に入ろうとした女性が叫んだ。

おじさんは大慌てでネズミを追い払うべく出てくる。あっちに行ったりこっちに行ったりするネズミをようやく追い払い、汗をかいてるおじさんに

「ご協力感謝いたします」

コタローが深々と頭を下げると、パン屋のおじさんは半分呆然としながら答えた。

「いや…どういたしまして・・・」

パン屋のおじさんのため息が聞こえた。


次に立ち寄ったのは八百屋だ。

「すみませーん!」

コタローが元気に挨拶すると、八百屋のおじさんが振り返り、固まった。

「…犬のぬいぐるみが歩いてる…?」

「私はロボットです。」

「ロボットだと?何でそんな…犬の格好をしてるんだ?」

目を白黒させながらおじさんは言う。

「理由は長くなりますが、緊急を要する重要な任務を受けています。ご協力願えますか?」

「お、おう」

「行方不明者の捜索です!見ませんでしたか?」

コタローが力強く答える。

「行方不明者?!そいつは大変だな」

「はい。まだ生まれて1か月か2か月の・・・」

「何だと、赤ん坊じゃねえか!そいつは誘拐なのか?」

「その可能性もあります。特徴は茶色い毛、ブルーの目・・・」

「茶色い毛とブルーの目って・・・その赤ん坊はハーフかい?」

「そこまでは・・・・」

「個人情報ってやつかい。写真はねえのか?」

「あります。これです。」

「何だ、猫かよ」

「何だとは何です!重大な任務です!」

「…まあ、子猫かどうかはわからんが、昨日の夜、小さい影が店の裏手に向かって走っていくのは見たぞ。」

「大変貴重な情報を感謝します!」

コタローが胸を張って答え、大きなお辞儀をして店を出た。

「喋る犬が猫を探してるなんて変な時代だな。・・・」

ポソッとおじさんが呟いた。



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