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【最終話】知性を与えられた猫たちは何を見る? 第64話

数日後、私と三木は海岸に来ていた。もちろん2匹とコタローも一緒だ。
海岸は夏の喧騒にはまだ早く、人も少なかった。私は小さな花束を手にしていた。

「お葬式とか似合わない人だし、お墓だっていらないって言いそうな人だけど、どこか、けじめみたいなものをつけたいのよ。気休めなんだけど、その気休めが必要なの。」

私の提案に三木は、

「つまり、イベントがあればいいんだろ?やつの事を考える時間の。それなら、どっか、いい場所へ出向いて、花でも手向けてやったらいいんじゃないか?」

と答え、私たちはここに来たのだ。
花束を海に投げ入れて私達は手を合わした。

「秋月さん、たった一人で立ち向かっていたのね。」

「ああ、だから俺達と会えたこと、本当は嬉しかったんじゃねぇの?あんな顔だけどさ。」

「そうだといいけど。」
空には、夏を知らせる雲が浮かび、鳶が海の上で旋回していた。波がまぶしく光り、どこか懐かしい音を立てながら砂浜に寄せてくる。

サーッと波が引いていくなか、茶丸が何かを見つけ、前足でチョンチョンと突いていたかと思えば、慌てて、逃げ出している。蟹か何かを見つけたのだろう。セイくんはその傍で、そうっと茶丸の様子を見守っている。私はそんな彼らと今を過ごせることに幸せを感じた。

私は、海岸の石を触りながら、三木に言った。

「秋月さんの犠牲のおかげで、トラグネスからの侵略を逃れたというのに、世界では戦争がまた起こり始めたって、皮肉よね」

「ああ、まったく、人間てやつは・・・」

三木が苦虫を嚙み潰したような顔で答える。

「私ね、もしも、あの時、トラグネスを制圧出来て、ネオAIの管理下に置かれていたら、どうなってたのかなって。」

「・・・しかし、そうはならなかった。けど、もし、そうなっていたら、秋月さんはどうしたのかなぁ・・・ま、今さら考えてもどうしようもねぇけどな。進化的正義・・・て、深いよな。」

「うん。きっと、社会が決めたルールや教え、それよりももっと大きな、地球上の生命体として持っている正義感・・・ってことなのかしら?でも、ある意味、利己的でもあったわよね。秋月さん、『自分勝手で何が悪い』って言ったのよ?」

「ははっ、あの人らしいな。」

波が引いていく音が聞こえた。引いた後に、砂浜から泡がプツプツと壊れる音がする。
私は、秋月の言葉を思い出し、それを解釈しようと呟き、話を続けた。

「地球人は利他的行動を生物進化の上で獲得した・・・そしてその上に成り立った文化や社会を形成している・・・

私ね、また戦争を繰り返している人間って愚かだなって、情けなくなるんだけど、でも、人類という種は長い年月をかけて利他的行動を選んできたのよね。それを考えると、少しだけ希望が持てる気もするの。」

三木も隣でそれに答える。

「ああ・・・。何度も失敗したり、犠牲になったり、時には善意と善意の結果が最悪を生むことだってある。けれど、その都度、最善を模索して選択した人間がいる。

そうやって絡み合いながら進化してきたんだ・・・。人間の一生は短い。だけど、それを繋いで、繋いで・・・今があるんだ。」

かつて生命が誕生し、今見ている海もその姿を変えてきた。その都度、生命はその中で進化し、命を繋いできた。私達の選択の結果が正しいのか、どうなのか。それでも、進化は続くのだ。

遠くに見える水平線に、地球の存在を感じたとき、夏を知らせる風が吹いた。

風と共に、どこかで秋月の声が聞こえたような気がした。


「私が見たい未来を選ぶ、それだけのことだ。」

-----完-----



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