
知性を与えられた猫たちは何を見る? 第53話
円筒状の青い光の中にいると、その静寂のせいか、心が落ち着くのを感じる。静寂だけではない。きっと自分側にいる人間に囲まれている安堵感のせいだろう。
私が今まで考えてきたことは正しいのだろうか?私は彼らにこれを伝え、吐き出すことで答えと安心感を得たいと思った。
「確かに律佳が悩むのはわかる。」
「うん、何だか話を聞いているうちに、私のやろうとしていることは本当に正しいのかって思えてきてしまって・・・」
「カーッ!バカバカしい!じゃ、お前、自分の考えを操作されて平気なのかよ?俺は嫌だね。俺は誰かに用意されたものを選びながら都合のいいように操作されるなんてまっぴらだ!俺は、自分のことは自分で決めたい!」
「でも、それで、死ぬ人だっているのよ?」
「違う。それで死ぬのではなく、管理されたら死なないで済む人もいるってことだろ?俺のせいで誰かが死ぬわけではない!」
「同じ事じゃないの?管理されることが嫌だという人のために死ぬ人もいるってことでしょう?」
「そうやって管理された中に人間としての尊厳はあるのか!?人間の自由意思ってのはそんなに軽いものなのか!?全員が幸せになるなんてことはねぇよ!誰だって、自分の事情や都合の中で生きてるんだ。そして、その中で最善を探す。
その最善だってその人間なりの最善であって、それぞれ違うはずだ。正義を優先する者、自分の利益を優先する者、けど、それが積み重ねで人類はここまで来たんだ。誰かに決められた道を歩んできたわけじゃない!」
「でも利益を優先する者のために、正義が歪められることだってあるわ。それは許されていいことなの?」
「利益を優先する者だって、そいつの家族を守るためかもしれない。そこに病気の子供がいるかもしれない。それぞれ事情があるさ。それぞれが悩みながら自分の最善や正義を選択しているんだ!俺は俺が正しいと思ったことを選択する!そんなトロッコ問題に首を突っ込む気は無いね!」
「まあ、ちょっと落ち着け。管理と一言で言っても程度によるだろう。今の君たちの社会でも実際に完全な自由ではないはずだ。大勢の人の少しの不自由と引き換えに助けられる人もいる。
その不自由さを君たちは受け入れているだろう?そして、何百万件という犯罪歴の判例から決断をAIに任すということも現実に行われている。
果たしてこれが正しいのか、どうなのか、その問題に答えはない。だが、こうやって考えることは意義あることだ。」
ジョンはそこまで言って言葉を切った。私はそこで口を挟み、ジョンに聞いた。
「ねえ、ジョン。ジョンの世界ではどうなの?AIにどこまで任せているの?」
ジョンは少し考えてから答えた。
「それは、まだ君たちが知ることではない。知ったとしても、それは今後、君たちが選んでいくことだよ。」
私は少し恥ずかしくなって俯いた。
そして、ジョンは声の調子を少し変えて話し始めた。
「ただ、今、それよりも、直面しているのはトラグネスが人類の資源を略奪しようとしていること、これを阻止するのは君たちにとってもネオAIにとっても共通の課題だ。もちろん、これが罠である可能性だってある。その可能性も踏まえて今後の策を練ろうじゃないか。」
「それは、つまり敵の敵は味方ってこと?」
茶丸が前足を私の膝にかけて聞いてくる。
「まあ、そうとも言える。戦術としてはありだろう。わかった。とりあえず、今後の対策だ」
三木がコーヒーを一口すすりながら、私に変わって茶丸にそう返事する。
私はまだ、自分の中で納得しないものを感じながらも、同意した。
ジョンが話を続ける。
「まず、罠である可能性、これを確かめる必要がある。本当に略奪しようとしているのか。そして、ネオAIはそれを阻止しようとしているのか。ちょうど、私達の方で、トラグネスがレアメタルを搾取しようとしているという情報が入ってきている。」
「このタイミングを考えるとネオAIの言っていることの信ぴょう性は高くなるな。」
三木が言う。
「ただ、土壇場でネオAIが俺たちを裏切る可能性だってある。」
私は彼らに同意して答えた。
「そうね。それは常に意識していないといけない。ネオAIの計画を聞いて、彼が裏切る可能性を踏まえた上での計画が必要ね」