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田舎の猫 街に行く 第十話

田舎の猫 闘う

 私は前方の集団に向かって駆け出しながら、ふっと息を吐いた。私が使ったのは『ウインドブレス』 この程度の風魔法なら呪文も詠唱もいらない。吐息一つで充分だ。けれど、私の口から漏れた吐息は、前方の集団に無数のカマイタチとなって降り注いだ。
 
 「痛ってぇ~っ!」「なんじゃ、こりゃあ~っ!」
 取り囲んでる方の集団から悲鳴が上がった。取り囲まれてるのは4人。そっちの方にダメージはないようだ。目を凝らすと、中の4人はいずれも幼い感じの少女たちだった。対して取り囲んでるのは『ムサい おっさんズ』
 
 「見極めるまでもなかったわね……」
 見た瞬間にどっちに加勢するかなんて決まっている。世の中第一印象って大事なのよ。それに私の力が効くってことはそういう事だ。私はおっさんの群れを跳び越えて、4人の少女たちの元に走った。今の私は前の世界なら、オリンピックで金メダルの2、3個は余裕で取れるに違いない程の身体能力を有している。彼女たちの元にたどり着くのは一瞬の出来事だった。
 
 「なにもんだぁっ!てめぇ~っ」「どっから現れやがった!?」「ど畜生~っ!、ぶっ殺してやるっ!」
 盗賊(仮)達から一斉に声が上がる。まぁ、見極める目的故に一応ダメージは最小限にしてあったので、未だ彼等も元気である。
 
 「アンタ達に名乗る名なんてないわよっ!」
ありがとう。人生で言いたかった台詞が一つ言えたわ。私はおっさんズに感謝した。
 
 「名なんて聞いてねぇっ、この『どら猫』風情がっ!」
 
 かっち~ん!!その言葉を聞いた途端、私の最後のロックが弾け飛んだ。まるで『チキン』と言われた○ーティーのようにだ。『どら猫』? よろしい、ならば戦争だ。前の世界には『ドラまた』という二つ名を持つ少女もいた。それに比べれば『どら猫』なんて可愛いもんだ。上等だ。
 
 「誰に喧嘩を売ったか教えてあげるわっ!」先に喧嘩を売ったのはどっちなんだ? という質問は受け付けない。そんなの関係ない。
 
 私は身体強化のスキルを使ってヤツらの前に躍り出る。今の私は日没直後、バトルモード、身体強化のトリプル役満状態だ。当社比9倍の出力を誇るバーサーカーである。きっと彼等の目には私が何人も現れたかのように視えているだろう。
 
 一人、また一人とバリ掻いていく私。ちなみに、バリ掻くとは前の世界の方言で、「バリっと引っ掻く、バリバリ引っ掻く」という意味だ。ただの引っ掻くより数倍痛い攻撃であることがイメージできるだろう。
 
 もちろん別に物理で殴る必要はない。ただ戦闘を終わらせるだけならスリープでもスタンでもいくらでも手はある。でもヤツらは私を怒らせた。殴らねば気が済まない闘いがそこにある。
 
 「たった1人でこの数に勝てると思ってるのかぁっ? この『どら猫』がっ!」
 
 また言った……。これはもう手加減は必要ないよね? 私はね、数を頼りに力を振るうヤツが1番嫌いなのよっ!
 私のスピードが更に上がる。残像が走る。
 
 「なにぃっ!分身できると言うのかっ!?」
 
 「そこは『質量のある残像だとでも言うのかっ!?』でしょうがっ!」
 
 私は男が我武者羅に振り回す剣を余裕で交わし、ヤツの頭上に飛んだ。
 
 「なんとぉ~っ!……んっだらぁ~っ!!」
 およそ、乙女とは思えない雄叫びをあげながら、私の身体が宙に舞った。私の渾身のかかと落としが男の脳天に決まる……
 
 「殺しちゃダメェーーっ!」
 突然背後から聞こえた声で、私は咄嗟に攻撃目標を頭から右肩に切り替えた。「ガキンッ!」という鈍い音がして、男の右腕がダランと垂れ下がった。その手に握られていた剣は既にない。そして、男は膝をついた。決着はあっけなかった。
 周りを見回すと20人近くいた盗賊(仮)達は、全員が跪いていて降伏の意を表明していた。さっき倒した男がヤツらの親玉だったらしい。
 
 どうやら終わったようね。私は「リリース」と一言呟いてバトルモードを解除した。
 解除には恥ずかしい言葉を言わなくて済むのが救いなのよね。ロック解除にはパスワード入力が必要だけど、ロックするのには要らないのと同じ事で。
 
 さてっと……この後はどうしよう? 流れで闘ってしまったけど、戦後処理ってのはいつだって面倒なのよね。このままSayonaraするわけにはいかないかしらね。いかないんだろうなぁ……
 
 その時さっき聞いたのと同じ声が背後からした。
 「あのっ……」

 そこには天然の美少女が立っていた。 

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