うだつのあがらないアラフォーおじさん同士のサシキャンプは、“初老感”満載だった。
街中が賑わいをみせた
ゴールデンウィーク。
そんな活況の中、ボクは学生時代の友人と山奥で、ひっそりとサシキャンプをした。
コロナ前ぶりと久々ではあったが、
かれこれこのサシキャンは結婚前からの恒例行事で、数えあげると今回は通算10回目の記念大会であった。
彼と語らい合うキャンプファイヤーは、
火の世話をしながら互いが
“何モノにもなれなかった人生”を
自虐的に振り返り、十中八九グダグダに終わる。
が、
それでも付き合いをやめられないのは、
「あいつも頑張っているからオレも頑張る」というポジティブな感情からではなく、
互いに目クソ鼻クソ似た者同士が、
互いの現在地を確認しあって、後ろ向きに安心できるからだ。
ボクもツレも43才。
まだ出来るよ、もっとやれるはず、
そんな言葉を慰めにして
“明日から頑張ろう”
そう決意新たにする季節は、
もうとっくに過ぎ去った。
中年おっさんのうだつの上がらない現在地。
日の沈み始めた18時。
BBQコンロの網の上には、道の駅で買った海産物と農産物が所狭しと置かれた。
肉がまったくない。
じつは買い出し中、
ダイエットをしているためと、肉や油…ヘビーなものは出来るだけ避けている、との申し入れがあった。
初老の40代。
彼は最近、健康に気を遣っているようだった。昨年の健康診断で、脂肪肝と高血圧が指摘され、医師からは食生活の改善を勧められたと言うのだ。
ま、それならしゃあないか。
今回は我慢しよう。
たしかにボクだって30代のころとは体質が変わった。食の好みで言うならば、肉系のなかでも“牛”は積極的に食べたいとは思わなくなった。
若いころはアラフォーぐらいの先輩が
“いやあ、もう肉じゃなくて魚が美味しいよ”と言っていたのを聞くと
“何かちょっと肉を食べられないことを大人のステージにいるみたいに自慢しているんじゃないの?”
と感じていたが、今ならよくわかる。
焼肉屋に行っても
“タン”は食べるが、それ以降は食べたいと思わない。
アラフォーおじさん特有の身体の衰え。彼とは同じ時代を同じ年数歩んできている。
これも目クソ鼻クソ似た者同士なのだ。
◇
“脱コロナ、お久しぶりカンパ〜イ!”
ボクらは記念大会を祝し、
痰の絡んだダミ声で乾杯を済ませると、
料理が焼けるのを待つ間に、
うだつのあがらない互いの近況報告と、今後の見通しについての話をサッと終えた。
すると唐突に
会社の健康診断の結果や、余生へと話題はうつった。
悪玉コレステロールやら、
高血圧になるメカニズムやら、
糖尿病予備群やら、
ここまでで15分。
医者でもないのに、こいつ実に詳しい。
歳を重ねると、病気の話の比重が大きくなるというが、なぜくどくどと同じ話を繰り返すのか。
実につまらない。
今日の会合を
翌週のnoteネタにしようと目論んでいたボクにとって、これでは小ネタにすらならないと内心、危機感を覚えた。
困る。
細かい“あるあるネタ”を
記事にしたいボクは、
日常クソ話をどうにか引き出そうと
「緊急事態宣言下で、おまえの職場でおかれた立場ってのを聞かせてくれ」
と雑にぶん投げてみた。
すると意外や、意外。
これが少し深い話になった。
アフターコロナの世界は管理職の仕事が減る
彼は中小零細企業の部長代理。
若くして立派な“窓際の”管理職である。
彼は神妙なトーンでボクの質問に返した。
“平凡な管理職のオレは、きっと仕事がなくなる”
彼の真顔が、ボクから笑い顔を遠ざけた。
うまく神妙な顔ができているかな。
年齢も年齢。
クビにはならないとも言えない。
ビールが苦い。
彼の言葉がこれまでになく重く響いた。
目くそ鼻くそ似たもの同士。
武士の情けで問い詰めるのはヤメた。
サシのキャンプである。山奥のキャンプ上で切腹されたら後味の悪さで酒がまずくなるからだ。
しかし彼は自らの意志で話を続けた。
“自分に限らず、テレワークに移行した結果、管理職の数が少なくなる世の流れはきっと止められない”
と主張した。
あぁ、
その感覚はボクにもわかる。
もしかしたら、自分のことではなくとも職場でこれを実感している社会人は多いのではないだろうか。
我が社の営業部も
新型コロナをきっかけに直行直帰、絶賛テレワーク中である。
コロナ自粛を続けてみてわかった。
はっきりいってしまえば“管理”という仕事だけなら誰にでも、どこにいても出来る。
しかも実に楽に。
いまのボクの営業職でいうと
各種営業支援ソフト、クラウドソフトウェアを使ってしまえば、管理業務に過去の経験や能力はいらない。
サッと全員で情報を共有できて、プロジェクトの進捗状況や顧客の管理も余裕。
もちろん顔を合わせない不便さは、なきにしもあらずだけど、“管理”という点でみると、できないことは、ごくわずかしかない。
当初は、
「監視していないと社員がサボる」
との懸念が年配者に多く、テレワークへの反対勢力も多かったが、
直行直帰の取り組み以降、
時間の節約と成約率の向上で、
毎月、最高益更新というカタチで結果にあらわれたことで、すべての反対勢力を黙らせてしまった。
結局のところサボるやつは、オフィスだろうがテレワークだろうがサボるし、働くやつはどこでも働く。
出社の有無ではなく、成果こそが自身のキャリア、出世、そしてボーナスに影響することを知っているからだ。
◇
ボクが入社したての頃の部長職は、
一日中デスクに座ってずっとPCの画面を凝視していた。キーを叩く。マウスを動かす。そういったアクションはなく、
ただ画面を見つめていた。
あとは本を読んだり、
内線で他部署の社員と馴れ馴れしく話したり、ときどき部員を会議室に呼んで説教めいたことを話す以外は、何の仕事をしているのか、さっぱりわからない人が多かった。
居酒屋で
“昔はバリバリやっていた”という武勇伝はしっかりと聞かされてきたが、
それは“今バリバリやっていない”の証明でしかなかった。
告白しよう。
アホ部長をみてきた
ボクのような“FIRE思考の人間”は、
彼らのように実務から離れ、何もせずに給料をもらえるような人間になりたいと、そう願い、その将来を早く実現するために頑張ってきたところもある。
でもきっと、
“ボクが憧れたかつての理想”の管理職は近い将来、絶滅する。テレワークが導入されて、武勇伝や肩書や役職でごまかしてきた真の管理能力が浮き彫りになってしまったからだ。
部長席に座って管理をしているだけの管理職はもういらない。
真っ先に不要とされるのは、
ボクであって、キミ。
目くそ鼻くその似た者同士のキミとボク。
それを彼は言いたかったし、
それにボクも強く共感した。
ボクと彼の生きる道。それから…
これからの部長職は、きっと“管理”よりも新しい仕事や市場をどんどん開発していくクリエーターとしての役割が、強くなるのは間違いない。
片面が焦げたイカ串を
クルクルとまわしながら彼は、
「俺らのうだつのあがらない管理職になる“憧れ”や“夢”もそろそろ転換しなければならない時期がきたんじゃないか。」
と言った。
これからの管理職と言っても、求められるのは、特別な才能ではない。難しいこともない。
昨日と同じことをするなら昨日より容易に事が進むよう新しく生み出したり、改良をする管理職にならないと、
近い将来、
窓際ですら席がなくなる、と。
「どう思う?」彼が答えを求めてきたので、いいんじゃねーの、
と無責任な相槌を打った。
おっさんになったからかな。
今回は就寝まで珍しくくっさい言葉が飛び交ったな。
いやあ。
目クソ鼻クソの似た者同士が、
互いの現在地を確認して、
あーでもない、こーでもないと必死にもがいて考えてね。傍から見たら茶番なんだけど、とても楽しい1日だった。
めでたしめでたし。
…と、
今日はこれで終わりにしようと思ったが……
歳を重ねると、病気の話の比重が大きくなり、聞かされる方は実につまらない。
と書いた矢先にスマぬが、
実は、いま病院にきている。
こんな早朝から。
お腹空っぽにして。
また来週にでも事の顛末を、と、思っているが、
まあめんどうな事態だ。深刻というよりも、めんどうなのだ。
初老の40代。
身体に関して言えば、
ごめんね、ミスチル。
できれば壁は低いほうがいい。
低ければ低い壁のほうが越えるとき楽でいいに決まってる。
老若男女の皆さま、
ぜひ御身体をお大事に〜