ホンモノを求める旅。ちょいと‘’乳を絞り‘’に北の大地にやってきた
世の中には二種類の人間がいる。
銭湯で「その辺の牛乳」で満足する人間と、「本場の牛乳」にこだわる人間だ。
職場の後輩と一緒に銭湯に行くシーンを想像してみてほしい。
互いの陰茎をチラ見し合い、男としての地位を争ったあとの風呂上がりはやはり
「瓶入りの牛乳」
で、健闘をたたえ合うほかない。
それ以外あろうはずがない。
そんなとき、職場の後輩が、
‘’その辺思考のあなた‘’と
‘’ホンモノ思考のあなた‘’
どちらの先輩をリスペクトするであろうか。
火を見るよりも明らかである。
ホンモノをキレイに飲み干したところで、
‘’これは絶品やな‘’
‘’恐ろしくウマい牛乳、アカン、そろそろオレおかしくなっちゃうかも‘’
と一丁前にウナってみせる。
ただ、それだけでいい。
陰茎サイズで見下だされたあなたへの評価を返り討ちに出来る、数少ないチャンスがここに到来するのだ。
……と、おいおい……
今日はこっち方面にいかない…
冗談はさておき、である。
歳を重ねてくると、
お金にも余裕が生まれてきて、次第に思考はホンモノを欲するようになってくる。
服にも、靴にも、家具にも、カバンにも、ご飯にも、歳を重ねた風格をだして目利きぶりを若造にドヤって披露したくもなってくる。
ホンモノを知っておきたい。
酒を飲みながら産地の違いについて語っている人や、寿司を食べては気の効いたコメントをさらりと残せる人に、アラフォーになったボクは憧れを抱いているのだ。
そうだ、北海道に行こう。
北海道は、広大で美しい大自然と新鮮な食べ物で人々を惹きつける。
そしてここにはホンモノが数多くある。
旅行してよかったランキング、
魅力度ランキング…その手の都道府県ランキングではいつだって
総ナメナメの
だんとつの1位に君臨する北の大地。
もはや殿堂入りであろう。
つまるところ
ホンモノの分かる男になるためには、
定期的に「北海道」のエキスを体内に注入しておく必要があるのだ。
「ホンモノの分かるアラフォー」になれるかどうか。いや冗談抜きに、いま、自分は岐路に立たされている。若造たちと自分の境界線を決定付ける重要な局面にいるのだ。
今回の旅。
牧場で乳牛から絞ったばかりのホンモノの‘’生乳‘’を飲みたい。
希少なジャージー牛から絞った乳。
自分の手で搾り、栄養たっぷりの濃厚ミルクの味わいに感動したい。
あ、そうだ。
‘’乳搾りの感動‘’で思い出した。
社会人になってから、初めて先輩に連れて行ってもらった、オッパ………
いやいやいや。違うちがう。
CHI・GA・U。
今日は違う。
そっちへは話を展開しない。
銭湯上がりの最高の一杯。
本物の生乳を求めるのだ。
そう。これは‘’乳しぼり‘’をする旅であり、そして、「ホンモノ」を探すマジメな旅である。家族一丸、それを探し求めて躍起になって北海道へ出発しました。
ギュウ、ギュウと絞ってやる。
牛だけに。
ん!?
…はい。
マジメな旅なのだ。
ちょっと乳を絞りに、北の大地にやってきた。
片道2時間。距離はと言うと実に1650km。
5人家族で航空費7万円。
いや〜、すごい。早くて安い。
機内で、隣で口を開いて寝ていたおっさんの地鳴りのような不快なイビキを聞かされるサプライズ&アクシデントがあったものの、
こんなに安くて早ければもはや神戸と北海道は「近い」とすら言える。
近い近い。
たとえて言うならば、島根県から鳥取県に移動する距離ぐらいな錯覚を覚える。
ちゃんと伝わっただろうか。
ただ、気をつけなければならないのは、ボクは島根県にも鳥取県にも行ったこともなければ知見もない。あくまで漢字が似ているということで今日のところは先入観で言ってみたというところである。
さて、今回はマジメな旅。
旅レポ的なことをしていきたい。
北海道への旅行を考えている人のために注意点を伝えるならば、8月なのに鬼のように涼しい。快晴でも涼しい。湿気が少なく、過ごしやすいという、もう、この一点につきる。夜は半袖だと寒いくらいだ。
新千歳空港から予約していたレンタカーに乗った。そして目的地の北海道箱根牧場まで、おおよそ30分ほど。比較的近い。
窓の外には無限の草原と田園。草原に次ぐ田園。ここは日本じゃない、頭がどうかしているんじゃないかと思うほどに草原&田園である。
雰囲気を一言で言うなら、「一昔前のスイスのアルプスの草原」と言ったところだろうか。アルプスの少女ハイジが
‘’ヨーレロレッフィフィー♪‘’と歌っている感じがまさに漂ってくる。
ただ、問題はと言うと、ボクがスイスに行ったことがないのみならず、アルプスの草原に関しても一切の知見がないということだ。アルプスの少女ハイジだって時代が違うので見たことがない。
つまり、この「ヨーレロレッフィフィー♪な感じ」というのは極端にエゴイスティックな主観的なそれであり、半ば妄想の世界になってしまっている点に注意してほしい。
しかしそれでは、旅レポとして失格なので国内の雰囲気で例えることにするが、長野県のちょっとした平野部分といったところであろうか。
勿論、長野県に関しても行ったこともなければ知見もあろうはずがない。平野があることすらも知らない。
つまり、その点についてなにも例え話ができないということだ。
さてさて。
そんな妄想していると、あっというまに目的地まで着いてしまった。
平日だから人が少ない。ほぼ我が家の貸し切り状態である。北海道は近年インバウンドで活気が生まれ、コロナでそれが消失したというニュースを何度もみているが、もしかしたらその状態で影を落とし続けているのかもしれない。
牧場に入ると、数頭の牛を発見した。
遠路はるばる、ついに今自分は「ホンモノの牛乳」を入手しかけている。
そう思うと自身のニヤけを抑えることができずにいた。
しばらくすると乳搾りをご教示いただく担当のお姉さんがやってきた。
乳の絞り方を入念に説明いただきながらウンチクもいただいた。
‘’ジャージー種の乳は、乳脂肪分が5%前後と多くなっています。そのため、ジャージー種の牛乳は濃厚な味わいになるのです。‘’
ほぅ、なるほど。
銭湯に行ったときに、フルチンでボクはこの説明をそのまま後輩に発表しようと心に誓った。その時にボクは、‘’ホンモノの分かる男‘’になれる。そんな気がしたのだ。
ひととおりの説明を聞いたあと、乳搾りの体験を少しだけボクもギュウギュウやった後は、妻と次女にギュウギュウを任せ、ボクは長女と長男と一緒にソーセージ作りに向かった。
ソーセージ作りもこの箱根牧場の名物体験である。もうこの際、なにもかも体験しておきたかったのだ。
立派なソーセージが10本くらいできた。
体験を楽しく終え、
乳搾りチームと合流すると、先ほど絞った新鮮度マックスのものと思われる牛乳を片手に、次女が嬉しそうに飲んでいた。その姿を間近でニコやかな顔して見つめる二人。
妻と、乳搾りを教えてくれたお姉さん。
ボクは、その和やかな空気に癒やされつつ、その絞りたての希少なジャージー牛の乳をいまどうしても飲みたくなった。
いよいよホンモノに会えるんだ。
鼓動が高鳴った。
次女に、
‘’すまん、ちょいと一口飲ませて。‘’
そう言って次女からカップを手渡してもらうと、腰に手をあてて飲む銭湯スタイルの姿勢をスッとつくってグイーッと飲んだ。
その場でできうる最高のギャグをしたつもりだが、そこに一切の笑いはおきなかった。
‘’こ、これはうまい!牛乳じゃない。牛乳の概念を超えてる!いや〜、お姉さん、やっぱり絞った直後の乳は抜群ですわ!これはさすがに違いがわかるわ!ハッハハー‘’
そう、ニコニコしながら大きな声で叫ぶと
オレこそがホンモノをわかるオトコだ!と言わんばかりにドヤ顔をしながら周りを見渡した。
ライオンキングのシンバのような気分でいた。
しかし、妻が呆れたときにするいつものあの顔をしている。
あれ!?ちょっと調子に乗りすぎたのだろうか。
お姉さんが、気まずそうに苦笑いしながら言った。
‘’ま、まあ鮮度はいいんですけど……、いまお飲みになられているのは三日前のものでして……ハハハ、アハ…。さきほど、絞っていただいたものは、いったん殺菌させなければならないので、お召し上がりいただくことができないのです………な、なんかすみません。で、でも三日前でも鮮度よくて美味しいですよね!‘’
…(,,゚Д゚)!!
絞りたてじゃなかった。
次女が手にもってるのは、さっきまで自身が絞っていたものだろう、という謎の先入観による痛恨のミスだった。
うわぁ。
もう、ここにいたくない。
穴があったら今すぐに入りたい。
それも地下深くまで潜り込みたい。
恥ずかしい。
とくに気にならないよ、楽しく話しましょうね〜、というお姉さんの怒涛に重ねるフォローの言葉がボディーブローのように、ボクを軽やかに苦しめていった。
いやはやまだ、北海道の旅はスタートしたばかりじゃないか。
次の予定もてんこ盛りだ。
そうだ、次で挽回しよう。
ボクは、なんとも歯がゆい思いをしながら箱根牧場を後にした。
その夜。
旭川に着いて、
コテージに宿泊したボクらは
道の駅と地元スーパーで買い出しをし、バーベキューで北海道のありとあらゆる食材を思う存分堪能した。
じゃがバター、トウモロコシ、ジンギスカン、ソーセージ、ホタテ貝、サンマなどなどなど、それにしてもやっぱり北海道の食材はハズれがない。
本当になにを食べてもウマい。
これぞホンモノである。
これこそボクが北海道にハマる一番の理由である。箱根牧場の失態なんていうのは、大義でみれば小さなことである。
旅の恥はかき捨て、というじゃないか。
こんな美味しいものを食べていると、そんな小さな失敗はゴミのように思え、今日のことなのに遠い過去の話と思えるほどに北の大地で生まれた食材は美味であった。
なかでも久々に食べたサンマは最高だった。
ご存知のとおり北海道の根室のサンマは脂がのっていて美味いと超有名である。
これは間違いなく最高級のサンマだ。
うまい、うますぎる。
ボクは満を持して、まだ魚の旨さを知らないヒヨッコの子どもたちに教えようと
「いやあ、北海道産のサンマは違う。これこそホンモノのサンマ!段違いなんだわ」
と大きめの声でウナってみせた。
妻が呆れたときにするいつものあの顔をしている。
あれ!?
そっと、ゴミ袋から取り出してボクに見せた。
青森県沖のさんまだった。
青森県沖も北海道沖も実際は変わらない。
たぶん。
だけど背伸びしてホンモノを発言しようとするときまっていつもこうだ。墓穴をほってしまうのだ。
一日で2回もホンモノが分からないちんちくりんなオトコを家族の前で露呈してしまった。
こうして散々だった初日の旅の夜はふけていった。
と、こうやって4600文字も書いていて
一つわかったことは
ボクは旅レポ的なものは、恐ろしいほどに向いてない。テンポよく次から次へと読み手の知りたい情報を列挙できない。
すまぬ。
今日はすでに旅三日目。
昨日は、旭川動物園と富良野のメロンという子どもたちワイキャイイベントで綴りたいことが山ほどあったが、そこまでたどり着くことはまるっきりできずに散々ボロボロの旅レポとなり、ひどいものになってしまった。
いや、本当に旅レポというのは難しい。
とか言いながら来週、続きをやるかも…ネ