アラフォーの味覚音痴のおっさんが、高級路線の店からほぼ無傷で生還した奇跡の軌跡
昨晩23時過ぎ。
子ども達が寝静まった寝室に、ボクはなんとほぼ無傷で帰還した。
なぜダメージを負わずに、無傷で生還できたのか。それは一重に自分自身の集中力の賜物であり、そして何と言っても、自分が採用した奇策が想定以上の効果を発揮したからだ。
そんな壮絶な一夜の一部始終を今ここに報告しようか。
突然のお誘い
「ゆづおさん、‘’きんばん‘’なので、もし予定がなければグイっと行きませんか?」
昨日の昼食中、
20代部下からお酒のお誘いをうけた。
(ん?きんばん??菌がなんだって?バンってのは垢バンのバンと同じかな?コロナをバンした。‘’きんばん‘’ってのは、菌やウイルス対策をしているっていうワカモノ語であろうか?)
「お、おうぅ、き、きんばんよな。そうか、それは行こう。久々に行こうか……あはははは……」
「じゃぁ、一度も行ったことがないのですが、ゆづおさんと一緒に行きたかった和風の情緒あるお店を予約してもイイですか!?」
(おっ!...い、いけたな!? き、きんばんってやっぱり菌の対策を徹底したって、そういう意味だろう?? )
初めて聞いたフレーズではあったものの、このご時世を考えると「きん」は「菌」であろうと、そこは疑う余地もなかった。
「あぁ、店はどこでもいいけど、きんばんを徹底しているかどうかは大事だから、それだけは押さえとこ。アハ、アハハハ…」
「………………」
(あ、、やべ。)
「………え?徹底ですか?あぁ、きんばんって、、、、金曜日の晩ってことですケド…?あ……なんかすみません……」
「………お、おう………そ、そうか。ちょっと菌が頭から離れなくて……。聞き間違いだったわ。あは、、、、あは、、アハハハ」
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ボクたちの時代は「花の金曜日」を略した
「花金」
しかし、どうやら花金は今の若い子達からはもはや死語と言われているようで、
数年前よりそのワカモノ界隈では
「金晩」
が流行しているようだ。
意味は「花金」と同じで
「翌日は土曜日で休みだから金曜日の夜は遅くまで遊べる」
という嬉しい気持ちを含んだフレーズという。だったら‘’花金‘’でいいだろうと思うが、この世のものはすべて諸行無常であり、言葉もその例外ではない。
「‘’普通に‘’おいしい」
って言う日本語を今やまったく不自然に感じなくなったし
「お腹すいてますか?」と聞いて、
「‘’大丈夫‘’です」と言われたときに、
「あ、いらねーんだな」と、違和感なく意思疎通ができる。
いつの時代もワカモノを中心にコトバは生まれ、変化し、それが時代を象徴する流行語となりやがて定着する。
……おっと、、、と。
今日は、脱線話はここまでにして本筋に戻ろう。
つまるところ暇を持て余すボクは、
いささか躊躇することもなく満面の笑みでホイホイと部下からのお誘いに便乗したのだった。
(※利用店舗は兵庫県コロナ対策認証店、2名での会食、食事は2時間で終了)
予約したお店は、高級感のある「和」のテイストであった。
ワイワイガヤガヤの大衆居酒屋とは異なり、全席完全個室で、お琴の心地よい旋律が店内を静かに流れる。
ターゲットは少しリッチなサラリーマンと思われるが、お店の雰囲気はまさに料亭そのものであった。
「あぁ、これガチでヤバいやつ」
個室に入り、メニュー表をザッとみると産地が違うお米や多種の鮮魚、そして日本酒が豊富にずらりと並んでいる。
コース予約をするときにある程度聞いて把握はしていたものの、改めて目に入ってきた単品料理やアルコールの料金を見るとそりゃ普通の飲み屋に比べるとはるかに高い。
しかし、
ボクのような庶民でも少しばかり背伸びをすればまぁ消化できるレベルなので、久々であることを考慮に入れるとそのこと自体は取り立ててヤバくはない。
ヤバいのはこの空気感。
通された個室はおそらく本来は6~8人が利用する部屋であろう。
ただでさえ重苦しい空気の中、
2人でテーブルの隅っこに座ってみると、空間の無駄遣いをしているようで
「なんだか勿体ない」
という感情に襲われた。
だからといって、空間を目一杯に使って、対角線上に陣取る布陣は、会話に相当な声量が必要であり、いくらなんでも不自然である。
しかたがなく狭いところにポツンとポジショニングをした庶民派のボクらは、厳かを通り超えて玄妙であり、
その静けさに圧倒されて店員が入ってくるまでの数分間、自然と会話がよそよそしくなった。
「き、今日の天気は、どうだ。少し寒いくらいかな」
「コ、コロナ、このままいくとどうなるんですかね。社会的弱者、とくに高齢者が心配ですね。」
店に到着するまでのあいだ
「あの目の前に座っていたお姉さん、めっちゃ可愛かったっすね〜」
「いやぁ、オレは違うわ。タイプちゃうわぁ。」
電車内でチラ見したギャルに対する評価のすり合わせをしながら毒づいていた二人の姿はそこには跡形もなく、当たり障りなく且つ正義感の強い会話をしてしまうほどに硬直化してしまっていた。
やがて、いつもくだらない話しかしてこなかった二人からは出るコトバがついに途絶え、重苦しい空気を切り裂いてくれる第三者の介入を今か今かと待ちわびるようになった。
ほどなくして救世主、
和装姿の店員さんがやってきた。
髪の毛を頭頂で結い、手にはお盆。
足袋を履いた足で音を立てずにゆっくり静かに歩みを進める。
そしてボクらが細々とポジショニングする席にやってきて、静かに腰をおろしお茶とおしぼりを置くと穏やかな口調で話し始めた。
予約したコースやお通し品の紹介、
店内トイレの場所、
コロナ感染対策の徹底ぶり、
時間制限などなど。
一通りの説明を受けたボクらは、
その流れで一杯目の「生ビール」を注文した。
が、なんと最後に意外な説明を受けることになった。
追加の単品料理や、2杯目以降の飲みものについてはテーブルに設置された
「タッチパネル」
による注文をするようにと促されたのだった。
あぁ、それはそうなんだ。
ボクはなんとも表現しがたい違和感をおぼえた。
日本酒の味がわからない。
全く分からない。
「甘口辛口」「深い味わい」「コクがある」「樽の味わい」……
何一つとして感じることが出来ない。
どうやらボクの「味覚」は、5歳の頃から進化していないようだ。
生ビールを飲み干したボクらは
タッチパネルの注文へと移った。
二杯目はボクの地元の特徴的な銘酒
「獺祭」
さすがにこれは慣れ親しんだ味。
わかる。旨いぞ、うまい。
次は三杯目。
「ゆづおさんのお好きなものと同じモノにします。」
という部下のプレッシャーがボクを軽やかに追い詰めた。
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この奇跡の軌跡を4時間以上かけて綴って完成させてはみたものの
7000字に及ぶ過去イチの大作となってしまいました。たぶん、こうなると誰からも読まれない笑
一旦、3000文字のここで切ろう。それでも長いっすね。楽しんでここまで読み進めて頂けていた読者には申し訳ないです。
後編は、
・味覚音痴がピンチをきりぬけた奇策とは
・ボクたちは高級路線の店にいつも何を求めているか
・とある芸能人の「高級焼肉店」オープンについて思うこと
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