ラブホ街の端っこで愛を叫ぶ
少し時間があるんで、俺とお嫁さんの関係を話そうか。
つい、3週間前まで俺は嫁が大好きだった。
この世でずば抜けて大好きで、
この人が「別れたい」とかそういう主張をしたら、自分のお嫁さんへの気持ちを、あっさり手放せる自信があるほどだった。
俺とお嫁さんは、付き合ってから数えて5年目。
結婚してからは3年目だ。
お嫁さんはかなりサッパリしている。
というより、サイコパスもどきに近いのかもしれない。
お嫁さんから俺への愛情表現は、かぞえるほどしかない。
たとえば、お嫁さんが俺を好きと言ったことがあるのはこの4年で2回ぽっきり。
キスは毎回寝てる人にしてる感覚で、ちゃんと唇を意識できたのは3回だけ。
セックスは両指の数にも満たない。
おまけに冷凍マグロだ。
俺の名前を呼んだことがない。
だから、なぜ俺と結婚してくれたのかはわからない。
それでも俺は一緒にいてくれること、少しの仕草を拾っては「もしかして、俺のこと好きなんだろうな」と自力でテンションをあげていた。
一方、俺はこの4年間、大好きだったから愛情表現をできる限りした。
なにより明日死ぬかもしれないのに、「ちゃんと好きって伝えればよかった」と俺は後悔したくなかったのだ。
俺はお嫁さんと付き合う時と、プロポーズした時に、
お嫁さんに俺の気持ちを受け入れてもらった。
だから、いまがある。
幸せな事だと、本当に思っていた。
お嫁さんからのアプローチはなくても、
俺が好きでいることを受け入れてくれたのは間違いない。
それさえ「嫌だ」と言われない限りは一緒にいたいと思った。
ところが、普段の絶え間ない俺の愛情表現に対して、お嫁さんは無反応だったり、たまにうすくうっとうしそうだ。
俺は、それが冗談か本気かすぐには判断できなかったから、少しだけ確認してから、本気ならすぐにその場はやめていた。
それでも心は折れなかった。いままでは。
しかし、つい3週間前、折れたのだ。
「うっとうしい…」
たった、その一言だった。
たまーに言われていた、なんども乗り越えてきた言葉。
なぜかズバッと心に刺さってしまった。
そして、お嫁さんへの気持ちが、意志とは関係なくサーッとひいていくのがわかった。
こういう時、自分の気持ちを戻せないことは、もうわかる歳だ。
ずーっとこれからも目の前にいるのに、俺のお嫁さんは俺から居なくなってしまった。
「自粛も疲れたし、散歩でもしてこよっかな!」と元気よく外に出てから、
夜風の中、嗚咽混じりに泣いた。
本当に、終わってしまったのだ。
あれから3週間後の今日、俺はラブホ街にいる。
たまたま辿り着いただけで、
セックス目的ではないけど、
なんとなく落ちている愛を拾いに来たような気持ちで散歩をしている。
俺のかわいいお嫁さん。
なんで俺と結婚してくれたのかな。
俺を好きじゃなくてもいいから、
俺が君をずっと好きでいることを、
許してほしかったなあ。
あの日失って、戻ってこないと諦めた気持ちを思い出しては、
未だに涙が止まらないのは、なぜだろう。