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出かけるときは「サトキケ」や

父は、語呂合わせが好きだ。数字を覚えるのも、大切なことも語呂合わせで覚える。電話番号を人から聞いてもすぐに語呂合わせを考えて、記憶する。例えば、自分の電話番号が1623だと「俺に似つかわしく電話番号は色兄さんや」。私の3268-9314は「お前の番号は覚えやすい。『さぁ風呂や、臭いよ』って覚えたらええだけや」とくる。

今や携帯電話の電話帳機能のおかげで、家族の電話番号すら覚えなくなったが、父は長い間、電話帳機能を使わなかった。オンラインで近鉄のチケットを取るくらいだから、便利なことは好きなのだが、「そんなもん使ったら、記憶力が落ちるし、電源切れたときに他の電話からかけられんようになるやんか」という。ごもっともだ。

姪が生まれたときには、9月14日生まれだからと、名前を「こいし」にしようと言って家族中に反対された。会社の電話番号の下4桁が2828と聞くと、「これはツヤツヤか、ニヤニヤか」と嬉しくて仕方ない顔をしている。

そんな父がある日、ご機嫌で私に話してきた。
「俺、ええこと考えたんや。もうこれで大事なものは忘れへんようになる」
それは「サトキケ」と玄関で唱えるのだという。
サは財布、
トは時計、
キはキー(鍵)
ケは携帯。
「わざわざそんな覚え方せんでも、チャチャっとチェックすればいいだけやん」
私は鼻で笑った。

20年たってその頃の父の年に近づいてきたいま、私は忘れものが激しくなってきた。財布も携帯もしょっちゅう忘れる。
毎朝でがけに玄関で「さて、サトキケ、、、あっ携帯忘れた」
と、この語呂合わせのお世話になっている。

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