逃げることすらできなくなる?DV被害者語る共同親権認めた民法改正への不安 あいまいな条文や収入合算による経済問題も5/28(火) 11:52.無視される、子どもの恐怖…共同親権に「不安で眠れない」「父は私を虐待したのに」 シングルマザー「廃案になるまで声を出し続ける」5/6(月) 7:20.“モラ夫”から脱出したい妻のバイブル?…弁護士が書いた「モラハラ離婚のトリセツ」が話題にまいどなニュース まいどなニュースPDF魚拓




DVや虐待、ストーカー被害者にとっては「命を脅かす法改正」になりはしないか。5月17日に参議院本会議で可決・成立した共同親権を導入する民法の改正のことだ。 【画像】法案は成立したが反対の声は続いている 現在日本では、離婚後は父母のどちらかに親権を与える「単独親権」に限られている。これに対してこの法案は、父母が合意した場合は「共同親権」も選択可能とするものだ。 「離婚後、子どもに会わせてもらえない人が会えるようになるんでしょ?」「選択肢が増えるのだから良いことでは?」と、思う人も多いかもしれない。 しかし、そのような単純な話ではないようだ。内閣府の女性に対する暴力に関する専門調査会の委員を務めている筆者の元には、「誤解がある」との危機感をつのらせた声が寄せられ、DV被害者からは「子連れ避難を躊躇する」との指摘や、「離婚後も危険にさらされる」など切実な声が上がった。

「誤解があることにとても危機感を持っています」

内閣府の女性に対する暴力に関する専門調査会の委員を務めている筆者に、4月上旬、同調査会のメンバーである広島大学ハラスメント相談室の准教授で、NPO法人全国女性シェルターネット共同代表の北仲千里氏から連絡が入った。現在国会で議論されている家族法改正の問題について、「正しく伝わっていなかったり、誤解があることにとても危機感を持っています」というのだ。 北仲氏によると、「子どもに会える・会えないという点については、そもそも今の法律のままでも子どもを一緒に育てたり、共同監護したりすることもできるし、実際に協力し合って子育てをしている父母もたくさんいるので、今回の家族法改正とは関係がない」と話す。 では、何のための法改正なのか。「子の利益のため」と言うが、本当に子どもが幸せになる制度なのか、専門家や当事者に話を聞いてみた。

法改正の狙いは

そもそも、今回の法改正の目的は、夫婦が離婚しても、子どもの幸せのために子育てをする責任は父母双方にあることを明確にすることだという。 これまでは単独親権しか認められなかったため、親権を持たない親には、離婚後子どもに会いにくくなったり、進学など重要な決断に関われないとの不満もあった。 では、改めて親権とは何か?親権というのは、18歳未満の子どもについての重要事項を決定する権利のことだ。例えば、子どもの身の回りの世話や教育、財産の管理、転居などについてである。 私自身、子を持つ経験から、日々の生活の中には、「親の署名」が必要となる場面がたくさんある。病院や学校関係では特に多い。 共同親権が導入され、それを選択した場合、片方の親ではなく両親の承諾が必要となるのだが、その範囲があいまいなのだ。 そもそも離婚を考えている時点で、信頼関係が損なわれていたり、コミュニケーションがとりづらいケースが多い中、共同親権を選択するかどうかについて円滑な話し合いができるのだろうか。 厚生労働省によると、2020年の日本における離婚数は約19万3000件ある。そのうちの9割が協議離婚という日本では、親権は当事者で話し合って決めるケースが多い。しかし、双方の主張が合わない場合は裁判所が決定する。 ただ、家庭裁判所は今でも人的・物的資源が足りていない中、この離婚後共同親権が導入されると、これまで以上に申し立てが増えることが予想され、追いつかなくなると危惧する声が上がっている。
表に出づらいDVの実態

さて、冒頭で共同親権導入が「命を脅かす」と書いた理由は、DV=ドメスティック・バイオレンスの問題だ。 日本では結婚したことのある人の「4人に1人」が配偶者からDVを受けたことがあると回答している。[令和6年3月内閣府男女間における暴力に関する調査報告] また、警察庁によるとDV事案の相談等件数は増加傾向で、令和5年は8万8619件(前年比4123件増加)と2001年のDV防止法施行後最多だった。 「そんなに暴力が振るわれているの?」と驚く人もいるかもしれないが、バイオレンスというと、殴る、蹴る、物を投げつけるなどの身体的暴行を想像するが、それだけではない。 モラハラなど精神的攻撃や、生活費を渡さない、クレジットカードを取り上げるなど経済的な抑圧もドメスティック・バイオレンスにあたるのだ。 「だれのおかげで生活できていると思っているんだ!」 そんな人格を否定するような暴言だったり、人前でバカにするようなことを言ったり、「今、どこに誰といるの?」など、パートナーを束縛し、管理・支配下に置くような行動もDVに含まれる。 数年前、別居・離婚して今は子ども2人と暮らすAさんは、長年、元夫からDVを受けていたという。育児に協力せず、休日も一人で出かけてしまう。何か言うと怒鳴ったり家をでてしまって話い合いにならなかったそうだ。ある日、元夫が酔って激高した際、子どもの前でAさんに暴力をふるい、「このままでは子どもを守れない、殺されるかもしれない」と、子どもを連れて家を出たという。いわゆる「子連れ別居」というものだ。 今の日本のDV施策では、まず被害者は逃げる、それしかないのである。 実際、逃げ出したり、別居することで、子どもたちは両親の葛藤から解放され、平穏で安全な生活を取り戻せたという。 しかし、一般的にDV加害者は、「支配欲が強く、配偶者や子どもを所有物だと思っていて、手放すことはしたくない」ため、離婚が困難なケースが多いそうだ。 このAさんのケースでは、離婚後も苦しみが続いた。養育費が支払われないので調停の申し立てをしたが、調停委員が「暴力をふるうような人に見えない」など夫側を擁護するような言葉を発し、面会交流を強要されたという。しかも、子どもが「もう面会行きたくない」と泣いているのに、聞き入れてもらえなかったと語る。 共同親権が導入されると、DV被害者が子どもと一緒に逃げた場合、「連れ去りだ」と加害者から訴えられることが今より多くなることが予想され、被害者が「子連れ避難」を被害者が躊躇してしまうのではないか、と指摘する。 改正案が施行されたら、既に離婚が成立した父母でも、共同親権を求めて申し立てをすることが可能になるという。 つまり、「逃げることもできない、離婚後も再び危険にさらされる」不安が出てきている。  「急迫の事情」があれば単独親権にというが…

法案では、「急迫(きゅうはく)の事情」がある場合は単独で親権行使できることになっている。では「急迫の事情」とは一体どういうケースなのか。 辞書によると「急迫=物事が差し迫った状態になること」とある。 DVや虐待は命の危険をともなうため「急迫」だと思うが、その範囲を「誰が」「どういう基準で」判断するのか不明だ。 DVは、ただでさえ密室で起きているため証拠が残りにくい。約5割の人が誰にも相談していないことも調査結果でわかっている。 それ以外にも、「監護及び教育に関する日常の行為」については、一方の親による単独親権の行使を認める例外規定を設けるとしているが取材したBさんは、「何がそれにあたるのかはっきりしない」ことに不安を感じているという。 保育園の入園手続きは? 修学旅行のためのパスポート取得は? 予防接種は? 引っ越しは? 意見が対立し(あるいは嫌がらせで)サインしないケースや、相手に話すこと自体苦痛だったり、署名をもらうことの見返りに何かを要求されることが増えるのではないかと指摘する。 何より、一番影響が及ぶのは子どもだ。改めて「子の利益」がどう守られるのかが心配だ。 「子どもは本来両親のもとで育つべき」 一見正しいと思われるこのような主張も、親の不仲、DV・虐待下では決してそうではないことが分かった。

経済的な不安も

Bさんは所得の問題にも言及した。ひとり親家庭支援策、例えば子の養育に関連する税制、社会保障制度などがどうなるのか心配だという。文科省の答弁では、「共同親権を選択した場合には、親権者が2人となることから、親権者2人分の所得で判定を行う」そうだ。 生活拠点も別、養育費などももらっていなくても、合算された収入を基準に制度の適用がなされるとしたら、その影響は大きい。 言い出すときりがないが、この法改正は「家族のあり方」に関するもので、その影響はかなり広範囲に及ぶが、国会審議でそれらが十分に議論されたとは到底思えない。 法制審議会の家族法制の見直しに関する要綱案にはこのような記載がある。 「親権は、成年に達しない子について、その子の利益のために行使しなければならない。」 パブリックコメントには、国民からの反対意見も数多く寄せられ、法案に反対するデジタル署名は5月20日時点で24万人を超えている。 その中には、DV被害者という「見えない弱者」の声が数多く含まれている。この「声なき声」を置き去りにしてはならない。 このような状況に配慮し、真に子どもたちの利益にかなうものになるような制度設計をしてもらいたい。 弱い立場にいる人がさらに追い詰められるような事態にならないよう、切に願う。

木幡美子

逃げることすらできなくなる?DV被害者語る共同親権認めた民法改正への不安 あいまいな条文や収入合算による経済問題も

5/28(火) 11:52配信


離婚後も父親・母親の双方に親権を認める共同親権を含む民法改正案は親側だけでなく、当事者である子どもたちの心に暗い影を落としています。 【写真】おそろしい共同親権…リアルな声 自身も2人の子を育てるシングルマザーで、ひとり親をサポートする活動を行う【Single Parent 101(シングル ペアレント ワンオーワン)】の代表を務める田中志保さんのもとには、「共同親権のニュースを見聞きし、不安で眠れない」「可決されたら生きていけない」など子どもからのSOSが寄せられています。 今国会で可決されると、2年後の2026年までに施行となりますが、「共同親権の受益者である子どもが置き去りの法案は、子の利益にならない。なんとしても、法案可決を食い止めたい」と田中さん。子どもにとって不利益な点を聞きました。

子どもが意見を表明する機会を奪っている

法案反対の立場を表明している田中さんは、「子どもの人生を子ども自身のものとする機会を奪っています。子どもは親の付属物ではないのに、親が子どもの人生を支配する危険がある」。 2023年4月施行の子ども基本法では子どもの意見表明機会の確保・子どもの意見の尊重が基本理念として掲げられていますが、共同親権法案では、ここが明示されていません。 両親の意見が協議で整わない場合は、家庭裁判所が決めるという建付けなのです。これを知ったひとり親家庭の子どもは、「ひとり親家庭の子どもには基本的人権がないのか?これは憲法違反ではないか?」と声を震わせて田中さんに言ったと話します。また、「先日地元の大学の法学科に通うひとり親家庭のお子さんと会った際に“共同親権は別居親のための権利だと思う!”と言っていたのですが、本当にそうだと思います。子どもに寄り添っていません」。

命に関わる子や失踪を選ぶ子どもや内密出産が増えるのでは

衆院での可決を受け、大阪弁護士会、兵庫県弁護士会、広島弁護士会などをはじめとする専門家が慎重かつ十分な審議を求める声明を発表。「子どもにとって不利益な点」が指摘されています。 <子どもにとって不利益な点> ●未成年の子どもの保育園入園、小学校や中学、高校などへの進学、習いごと、手術やケガの治療など医療、アルバイト、引っ越しなどさまざまな局面で離れて暮らす親の同意を必要とする→同意がない場合、子どもの希望が叶えられない。ときには命の危険にもなる ●離婚しても、両親の収入を合算する→高校の無償化など就学支援の機会を奪われる 双方が協議すれば…と簡単に思えるかもしれませんが、広島弁護士会が「離婚を選択する父母は、一般的に関係が悪化していることが想定される。中には、協議をすることが難しい、会話すらできない父母も存在する」と現実的な関係性を指摘し、「子どもの進学、医療などに支障が出るおそれがある」としています。 実際、厚生労働省(2021年度)の調査では、離婚した父親からの養育費を受給できている母子世帯は28.1%、ほとんどの母子世帯は子どものために必要な養育費を受給できていない状況が伺えます。 また両親の協議が整わない場合について、大阪弁護士会は、「家庭裁判所に多くの判断が委ねられ、家庭裁判所が定めるべき事項が多く規定されているが、現状においても、増加する家事事件に対して、人員配置や設備の改善は追いついていない 」と、対応が追いつかないことを訴えます。 そんな状況で特に、田中さんが心を寄せるのが虐待やDVから逃れてきた親子。【Single Parent 101】では、離婚後の共同親権に関する子どもの意見を募集しており、不安を綴るコメントが数多く届いていると言います。 「父親の暴力を受けてきた子どもは父親に恐怖心しか持っていません。法案が可決されて、あんな奴の子どもとして生きていかなくちゃならないのなら…と自殺をほのめかす子、離婚したものの父親との面会交流によって自傷行為を行うようになり心療内科に通院するようになった子を持つお母さんからの声など、不安の声しかありません。共同親権法案は、そのような悩みや不安を抱える親子に寄り添った内容になっているのでしょうか」と問いかけます。 共同親権は、進学などの重要な局面でも問われ、すでに離婚している家庭も対象になります。そうなった時、ひとり親家庭の子どもは、両親の意見が整わない場合は常に家庭裁判所に人生の決定権を握られる生活が続き、子どもが自分が望む子ども時代を過ごすことなく大人にならざるを得ないのではないか?と話します。 実際に施行となったら、子どもたちはどうなるのか?の問いに「将来を悲観して、自らの生死さえも問う子が増えるのではないでしょうか。また、かつてDVを受けた相手から逃れるために、あえて失踪する親子も出てくるでしょう」と予測。 失踪の場合は、「転居届などを出せないまま行方をくらますので適切な教育や就労の機会が奪われる可能性もあることに加え、失踪を手助けした人や団体が片方の親から訴訟されるケースも出てくるのでは?」と言います。 また、日頃からDVに悩まされ、妊娠した女性が共同親権を恐れ、婚姻関係や親子関係の認知を望まず、秘密裡に子どもを産む“内密出産”の増加もあるかもしれないとのこと。子どもが相手との「鎖」になることを恐れ、中絶を選ぶケースの増加、そもそも「子どもを持つこと」を選択する人たちの減少もあるのではないか?とも考えています。 しかし、「おそらく、政府はこの法案が及ぼすさまざまな事例を想定していないでしょう。国会の法務委員会での法務大臣や法務省の答弁を聞いていても、「大丈夫だ」の一点張りで現実味がありません。具体的な運用を決めないまま、自治体や家庭裁判所など現場任せにしようとしているのです。現場は混乱し、しわ寄せは子どもに向かいます」。 「海外では既に共同親権を施行している国が多く、日本は遅れているとの声も聞こえます。しかし、海外の「共同親権」と呼ばれるものは、いま日本で議論されているものと概念が違い、親責任を分担するものなのです。またほとんどの国で子どもの監護者は同居親であり、現在の日本の単独親権制の運用と際立った差がありません。離婚後は、ほとんど同居親の下で過ごし、必要に応じて、別居親と交流しています。養育費の不払いは刑罰の対象になる国もあります。一方、日本の共同親権法案では子どもの監護者を定めていませんし、DV加害者でも親権申し立てが可能です。また、養育費の不払いも刑罰対象ではありません。日本がやろうとしているような共同親権を採用している国はないんです。それぐらい未知のものなのに、充分な議論がなされず、離婚後共同親権導入反対の署名22万筆を提出したにもかかわらず、その声を無視して法案成立をめざしているのがおかしいのです」と田中さん。 田中さんのもとには、ある女性からの声が届いています。 「小5の時に、両親が離婚。家庭裁判所で両親が親権を主張しましたが、母から妹への暴力が原因で、私たち姉妹の親権者は父になりました。離婚後、父は私たちを虐待したため、今は父から離れ、身を隠しています。大人になって、母は父から精神的暴力や身体的暴力を受けていたということがわかりました。父から母への暴力が妹に向かい、DVが連鎖していたのです。共同親権下だったら私たち姉妹が助かったとはとても思えません。共同親権は暴力や虐待を救えません。 反対の声があふれる中で法案成立を急ぐ人たちの主張だけを聞き入れる共同親権なんておかしいです。子どもたちの声をしっかり聞いて欲しいです」。 ◇ ◇ 【Single Parent 101(シングル ペアレント ワンオーワン)】では、離婚後共同親権に関する、こどもの意見を募集。当事者である子どもの立場からの声を集めています。 また、田中さんも参加する【『離婚後共同親権』から子どもを守る実行委員会】では、5月8日(水)18時~19時半まで国会正門前に集まり、デモを行います。このデモは遠方で現地参加できない人に向けてYouTubeでライブ配信。 ネット上で「#STOP共同親権 ~両親のハンコなしでは進学も治療も引越しもできない!実質的な離婚禁止制度~共同親権第2弾署名」と署名活動も続行しています。 (まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・宮前 晶子)

まいどなニュース

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5/6(月) 7:20配信