トランスジェンダーと女性性ばんたばんた2024年7月14日 11:20PDF魚拓



性同一性障害特例法

2003年以来、「性同一性障害特例法」によって、日本では以下の6つの要件を満たせば戸籍上の性別を変更することができます。2人以上の医師により、性同一性障害であることが診断されていること
18歳以上であること
現に婚姻をしていないこと
現に未成年の子がいないこと
生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること(生殖機能要件)
他の性別の性器の部分に近似する外観を備えていること(外観要件)


この内争点となっていたのは5(生殖機能要件)と6(外観要件)です。


現在に至るまでの流れ

2023年10月25日、最高裁判所は
「憲法が保障する意思に反して体を傷つけられない自由を制約しており、手術を受けるか、戸籍上の性別変更を断念するかという過酷な二者択一を迫っている」と生殖機能要件は無効だと判断し、外観要件に関しては高等裁判所で審理をやり直すよう命じました。

その後審理が続いていましたが、今月10日の決定で広島高等裁判所は、外観要件について「手術が常に必要ならば、当事者に対して手術を受けるか、性別変更を断念するかの二者択一を迫る過剰な制約を課すことになり、憲法違反の疑いがあると言わざるをえない」と結論付けましたが、「公衆浴場での混乱の回避などが目的だ」などとして正当性を認めています。

つまり、外観要件を維持した上で、これまで手術が必須とされてきた解釈を緩和し、申立人の個別状況に応じ性別変更の可否を判断する、という内容です。


生殖機能要件の違憲決定以来、トランス男性は、ホルモン投与で陰核が肥大していれば家裁が外観要件を満たすと判断する傾向にあるそうです。それ以来、手術を必要とするのは男性から女性への変更の申し立てのみとなっていました。

「手術無しで性別変更を認めてほしい」という申し立ては以前にもありましたが、2019年1月、最高裁判所は「変更前の性別の生殖機能によって子どもが生まれると、社会に混乱が生じかねない」として憲法に違反しないと判断していました。



考察

前提として女性と男性は多くの観点で対称ではないということを明記したいと思います。

性に関して最も顕著に問題になるのは性犯罪です。
人が被害者となった刑法犯における女性被害者が占める割合は25.9%ですが、そのうち強制性交等、わいせつでは女性被害者が占める割合は95.0%にのぼります。
警察庁 令和4年の犯罪 罪種別 被害者の年齢・性別 認知件数
同様に被疑者に関して、全刑法犯において女性が占める割合は21.9%、そのうち強制性交等では0.5%、1339人のうち7人です。
警察庁 令和4年の犯罪 年次別 犯行時の年齢・性別 検挙人員
性犯罪は男性が女性をターゲットにしたものが殆どを占めていることがわかると思います。
性暴力は被害者の人生を壊してしまうと言われています。その後何十年も日常生活に困難を抱える方もいらっしゃいます。
もし1対1で揉み合いになったとして、筋肉量1つとっても圧倒的に有利なのは男性です。女性のための場所で男性に見える人と遭遇した時の恐怖は、逆の場合とはまるで違うということも多くの方が主張される通りです。男性全体に対して恐怖を抱いている女性もいることでしょう。

またジェンダーギャップ指数でも指摘されている通り、特に政治経済分野では女性の参画は多くありません。そのため男性と比べると社会的な発言力は小さいのが現状です。性に関連したハラスメントを受けたり、結婚出産においてより大きな負担を強いられたりと、女性の権利が蔑ろにされていると感じることは日常生活でも多々あります。
こうした現状では、危険から逃れられるシェルターのような役割を女性専用スペースが果たしているところがあると思います。そう考えれば、今まで男性として扱われていた人がそういった場所に入ってくるということそれ自体に、女性の安全の基盤を奪われたように感じるのも無理はないでしょう。





トイレ、公衆浴場など

トランスジェンダーの方の暮らしに関して大きな議論を呼ぶのが、トイレ、公衆浴場などの問題です。ここでは他人に危害を加えないトランスジェンダーの方と、トランスジェンダーを名乗る犯罪者を区別して考えているということに留意してください。

そもそもこうした場を性で分けるのは、生殖機能要件の決定において最高裁も指摘したように、「己の意に反して異性の性器を見せられて羞恥心や恐怖心あるいは嫌悪感を抱かされることのない利益」を保護するためであると考えます。であれば、外観要件を満たすような方であればその利益を害することはないと考えてもいいのではないでしょうか。
また、公衆浴場や更衣室はその施設の管理下にあります。必ずしも戸籍の性に従う必要はなく、施設の側も他の利用者の利益を考えるとすれば、これからも体の性に基づいて区別がなされると考えていいと思います。利用者の側としては、そうしてほしいと主張し続けることも大切かもしれません。

しかし、咄嗟に犯罪者なのかどうか、通報するかどうかという迷いが生まれるのではないかと私も懸念しています。本人に声をかけたり、通報したりすることへの心理的抵抗も考慮しなければなりません。不審な人物がいないか常に警戒しなければならない状況に置かれること自体が権利を侵害しているといっていいでしょう。今後そのような施設の扱いについては注視したいです。男性に見える人が女性用スペースにいたら通報が必要だということの今後一層の周知を図るとともに、どんなに小さなことでも不審に感じたら通報していい、性犯罪は許さない、というメッセージを社会全体が示す必要があると思います。



これから何が起こるのか

実際の所、悪意のある犯罪者かどうかを他人が区別することは簡単ではないでしょう。トランスジェンダーの方が性自認に基づいてトイレを利用できるようになったら何が起こりうるか、海外の先例も挙げてみます。

2023年11月三重県の温泉施設で「心は女」と主張する男が女湯に侵入し逮捕された。
2023年7月、イギリス政府は新しく建設する公的な建物は男女別のトイレの設置を義務付けた。


カリフォルニア州で性自認に応じたトイレの使用が法的に認められる前より、男性が女性専用スペースに侵入するために女装したという過去の例はいくつかありました。しかし、そういった法が制定された後、そのような行為が増加したという記録はないと言われている。
マサチューセッツ州でも、性自認と合致するトイレや更衣室を使える地区と禁止されている地区で、のぞきや性犯罪などの頻度が変わらなかったという結果が報告された。



以上両方の立場から例を挙げてみましたが、今後新たに対応が求められるであろう場所はほかにも多くあります。医療や統計、スポーツ、刑務所、 など性で区別している場所での対応については特に慎重さを求めたいです。
アファーマティブ ・アクション(ポジティブ・アクション)や女子のみを受け入れている学校での対応では女性の権利が損なわれていないことを確認することが、同性介護、女性医師、性犯罪被害者に対応する女性なども個々に応じた柔軟な対応が求められるのではないでしょうか。



結論として

性犯罪が増える可能性はないと言うことはできません。しかし、トランスジェンダーの方を自認に基づいて区別することで性犯罪が増えるこもしれないというよりは、性犯罪者の言い訳のバリエーションが1つ増える可能性がある、と捉えるべきだと思います。
その言い訳が効力を発揮するに違いないと思い込む人間がいるとしても、その責任をトランスジェンダーの方に負わせて不利益を被らせることはできないのです
日本では毎年不同意性交で起訴される男性がいますが、それならあらかじめすべての男性を刑務所に閉じ込めておこうとはならないのと同じで、発生しうる不利益よりすでに発生している不利益が優先されるのはよりよい社会を目指すうえでは仕方のないことだと思います。

しかし、今の日本は女性を不当に危険にさらしているというのもまた事実です。これを早急に改善すべきだと思います。昨今のトランスジェンダーに対する逆風は、女性を取り巻く問題の対処において女性の意思が軽んじられているという不満が根底にあります。逆に言えば、これが解決されればトランスジェンダー問題はずっと単純になるでしょう。
女性であるというだけで不利益を被りやすい社会には終止符を打たなければなりません。性犯罪にも適切な処罰と被害者へのケア、そして周囲の理解が得られるようこれからも主張を続けて行きたいと思います。

生得的女性が生来背負わされてきた苦しみをトランスジェンダー女性の方が完全に理解することはできないとして、その逆もまた真であることを覚えておかなければなりません。全ての人間が互いを尊重し合える社会になることを切に願うばかりです。



参考ページまとめ

▼2024年、外観要件について
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240710/k10014507081000.html
▼2023年、生殖機能要件について
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231025/k10014236581000.html
▼トイレや更衣室の利用と性犯罪について
https://gendai.media/articles/-/113667

トランスジェンダーと女性性
ばんた

2024年7月14日 11:20

https://www.npa.go.jp/toukei/soubunkan/R04/pdf/R04_ALL.pdf


https://www.npa.go.jp/toukei/soubunkan/R04/pdf/R04_02.pdf

https://www.npa.go.jp/toukei/soubunkan/R04/pdf/R04_04_1.pdf







2023年11月、三重県桑名市の温泉施設で、女湯に侵入したとして男が逮捕されました。男は「心は女なのに、なぜいけないのか」と話したということです。性別と施設の利用について調べました。 【動画で見る】43歳男「心は女なのに…」温泉施設で女湯に侵入し現行犯逮捕 性別を巡る公衆浴場のルールと多様性への課題

■厚生労働省は「身体的特徴で判断」と通知

 桑名市の温泉施設で2023年11月17日、客が女湯で体を洗っていた男を発見し、従業員に伝えて通報し、無職の43歳の男が建造物侵入の現行犯で逮捕されました。 調べに対し男は「心は女なのに、なぜ入ったらいけないのか全く理解できません」と話していたということです。 警察によりますと、この施設では受付で客に更衣室のロッカーのカギを渡す形式で、従業員の女性は「女性の格好をしていた」ため「女性」と判断し、女湯のカギを渡しました。

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公衆浴場を管轄している厚生労働省では、生活衛生局の担当者によると「おおむね7歳以上の男女を混浴させない」と定めた指針があり、男女の区別については2023年6月、「身体的特徴で判断するもの」とする通知を出しています。 つまり「心や戸籍は関係なく」男性器があるなど、外見が男性の場合は男湯、外見が女性の場合は女湯に入るのが公衆浴場のルールで、ルールを破れば建造物侵入など罪に問われるということです。

ニュースONE

事件が起きた温泉施設では、この通知にのっとった対応だったということになります。 この事件では受付で「服装などから女性と判断」し、女性用のロッカーキーを渡したということですが、愛知県温泉協会は「差別になってしまう懸念から、実際に男性ですか、女性ですかという確認は難しい」と話しています。 また、全国1200の温泉施設などが登録している日本温泉協会は「今回のような事例は今まで報告されていないが、対応ができるよう全国でガイドラインを設けるべき」としています。

ニュースONE

今回の事件が起きた温泉施設でも、受付は口頭での確認は行っていなかったということです。

■個別施設や自治体が中心となり対応するところも

 身体の性と心の性が一致していない「トランスジェンダー」も施設を利用しにくいということで、対応しているところもあります。 石川県能美(のみ)市の温泉旅館「まつさき」は、ホームページに「トランスジェンダーのお客さまへ」として「トランスジェンダーの方で大浴場などのご利用に抵抗がある方は、貸切露天風呂がございますのでご利用ください」と、貸切露天風呂を案内しています(1組50分で3300円)。 2022年からホームページに掲載しているということです。利用客に確認はしていないため、実際の利用者数は把握していないということですが、客も安心して利用、店側も質問しないで済みます。
自治体を中心とした取り組みもあります。 温泉の名所、大分県別府市では市の観光課やトランスジェンダーの当事者など、約10の団体が集まり、誰でも利用しやすい方法などを話し合っています。

ニュースONE

2023年11月時点に取材した当時は案の段階として、入浴着をつくる、水着で入浴できる施設を作る、貸切風呂の情報の周知などがあがり、具体化を検討しているということでした。

■ジェンダー問題は温泉施設以外にも…ジェンダー先進国のイギリスは

 温泉施設ではこうした対策がされていますが、公衆浴場のほかにも起こっているといいます。 女性問題やトランスジェンダー問題に詳しい滝本太郎弁護士は、女湯が特に注目されているが、不特定多数のための女子トイレ、更衣室やプール、休憩室、シェルターや病室でも女性スペース全般に課題があると指摘しています。 海外では「女性を守る動き」が少しずつ出てきているといいます。 滝本弁護士によると、イギリスではなくなっていた高校の女子トイレを、改めて作るという動きになっているということです。 イギリスはジェンダー問題が進んでいるとされていて、2010年ごろから徐々にトイレの男女共用化が進みました。 しかし2023年7月、政府は「新しく建設する公的な建物は男女別のトイレを設けることを義務付ける」と発表しました。 「女性が安心できることはきわめて重要」「ジェンダートイレが増えることで不利益を被る女性がいること」が理由だということです。 男女共用のトイレは、誰でも使える日本の多目的トイレのような個室タイプから、手洗い場や待つ場所が、男女共有のスペースになっているものなどがあります。 従来女性のみだった閉鎖的なエリアにまで男性が入ってくることへの心配や、男女兼用ですべて個室のみになることで、より待ち時間が長くなるといった不満もあり、男女別のトイレを義務付けました。

ニュースONE

滝本弁護士は「女性を守るためには、女性スペースに関する法律を日本でもしっかり作らないといけない」と話しています。 2023年11月17日放送

43歳男「心は女なのに…」温泉施設で女湯に侵入し現行犯逮捕 性別を巡る公衆浴場のルールと多様性への課題

1/30(火) 21:30配信







イギリス政府の推定では国内の20万~50万人がトランスジェンダーに該当する。ある調査では41%が差別を受けた経験があり、否定的な反応を避けるため、67%がトランスであることを公表しない。見た目が男性でも心は女性(「トランス女性」)、あるいは逆に女性の姿をしていても自分は男性と認識している人(「トランス男性」)とどう付き合ったらいいのかについても定まった形があるわけではない。手探りの状態なのだ。

スコットランドでは2021年、トランスジェンダーの生徒を支援するための指導書を配布している。これによると、トランスの生徒は出生証明に書かれた性別(男性か女性か)と同一の専用トイレを利用する義務はない。

先駆的なスコットランド、中央政府と対決

イギリスでは、トランスの人はパスポートや運転免許証など法的手段に訴えることなく性や名前を変更できることが多いが、法的変更は「性認識法」(2004年)に基づいて、法的に性を変更することが可能だが、医師による診断書が必要になるなど、手続きはかなり煩雑だ。

こうした中、地方分権によって自治政府があるスコットランドでは、昨年末、性別変更手続きを簡素化する法案が自治議会で可決された。

これによると、最終判断をイギリス全体をカバーする性認識委員会に任せるのではなく、スコットランド内に委員会を置き、申請時には医師による診断書は必要とせずに、自己申告での変更が可能とするほか、申請時点で自認する性として生活した期間は2年間ではなく、3カ月に減少させる。

さらに、現状では申請者は成人(18歳以上)が対象となるが、これを16歳に下げる。ただし、16歳と17歳の場合は自認する性として生活した期間を6カ月にする。これにより、日本で言うと高校生入学時から、トランスジェンダーの人が心と体の性の不一致を少なくとも法的に解消できることになるわけだ。

スコットランド議会に法案が提出されると、性自認が改めて議論の的となった。
反対派は、法律で性の変更が簡単にできるようになると、男性として生まれた人物が「自称女性」としてこれまでは女性専用となっていた空間に入りやすくなり、違和感や脅威を感じる女性がいる、と主張する。小説ハリー・ポッターシリーズで著名な、スコットランド在住の作家JKローリングもこれを支持。女性の権利の擁護組織も反対を表明し、スコットランド民族党(SNP)による政権内では法案に賛同できないと辞任する議員が複数出た。

それでも、当時の自治政府首相ニコラ・スタージョン氏が強く推したこともあって、昨年12月、スコットランド議会は法案を可決。ヨーロッパではアイルランド、デンマーク、ノルウェー、ポルトガル、スイスなどで自己申告での性別変更手続きが可能なため、ヨーロッパ大陸並みになった、ともいえる。

ところが、今年1月中旬、中央政府が待ったをかけた。スコットランドの法律がイギリス全体の法律に抵触する場合、政府はその取り消しを求めることができる。そこで、スコットランドの性別変更の法的手続き簡易化法案の取り消しを求める決定を下したのである。中央政府によるこの権限が行使されるのは、今回が初めてだ。

4月21日、スコットランド政府は中央政府による法案取り消し決定の合法性について、民事控訴院(スコットランドの民事事件を扱う最高裁判所)に提訴し、戦う姿勢を崩していない。

女性刑務所に入れられた元男性

中央政府と自治政府の間で性別変更簡素化法案の是非について不協和音が響いていた1月末、元男性のトランス女性がスコットランド内で1つしかない女性専用刑務所から男性専用の刑務所に移送されたことが報道された。

2016年と2019年、スコットランドの第2の都市グラスゴーで女性らに性的暴行を働いたアダム・グラハムは、今年1月の裁判が始まるまでにホルモン治療などを受けて身体を女性に転換させた。子供時代から自分がトランスジェンダーであると認識してきたという。名前もアダム・グラハムからイスラ・ブライソンに変えた。
1月24日、ブライソンに有罪判決が下った。量刑が決まるまで男性刑務所に拘留されるはずだったが、トランス女性であることが考慮され、スコットランドで唯一の女性専用刑務所に送られた。しかし、女性受刑者の身の危険が脅かされるという声が高まり、最後は男性刑務所で受刑することになった。トランス女性が女性へのレイプ罪で有罪となるのは、スコットランドではこれが初だ。

トランス女性は男女どちらの刑務所に送られるべきだろうか。ブライソンの例では「元男性」「女性に対するレイプ罪で有罪」という特徴があったために、最終的に男性刑務所に送られた。スコットランドではトランスジェンダーで受刑中の人が少なく、トランス専用の刑務所は設置されていない。

イギリスで浮上する「平等法」の改正

一方、イギリス政府は、年齢、障がい、婚姻関係、人種、宗教、性などによる差別から国民を守る「平等法(2010年)」の中で定義される「性」を「出生時の性」と再定義するため、法律の改正に動きだした。「性についての解釈が揺らいでいる。平等法の下での定義について疑問を投げかけるのは理にかなっている」と政府閣僚は説明する。

議会での議論には時間がかかり、すぐに改正は実現しない見込みだが、もし改正があれば、トランスジェンダーである人は男女いずれか専用の空間(例えば病棟)への出入りが限定される可能性もありそうだ。

人間の基本的なニーズに対応するトイレ、あるいは男女それぞれで分けられることが多い病棟、刑務所などでトランスジェンダー対応が必須となってきた。

その一方で、例えば男性として生まれた人が女性であると自認し、法的にも女性としての認定を受けた後で、脱衣所など女性専用となってきた場所に出入りすることは認めるべきなのか、あるいは限定するべきなのか。限定するとしたら、差別にならないのか。イギリスでは、先の元男性・トランス女性の例をきっかけに、「立ち入りさせない」雰囲気が強くなっているが、まだまだ模索が続いている

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小林 恭子 在英ジャーナリスト

イギリスが「トイレは男女別」を義務付けた理由 活発化するトランスジェンダーをめぐる議論

小林 恭子 : 在英ジャーナリスト

2023/04/26 11:00





性同一性障害と診断され、手術を受けずに戸籍上の性別を男性から女性に変更するよう申し立てた当事者に対し、広島高等裁判所は変更を認める決定を出しました。これまで戸籍上の性別を変更するには外観を似せるための手術が必要だとされていましたが、裁判所は「手術が常に必要ならば憲法違反の疑いがある」と指摘しました。

目次注目
当事者「生きにくさから解放 うれしい」
手術要件の撤廃に反対派「強く抗議」


広島高裁「手術が常に必要ならば 憲法違反の疑い」

広島高等裁判所で性別の変更が認められたのは、性同一性障害と診断され、戸籍上は男性で、女性として社会生活を送る当事者です。

性同一性障害特例法では事実上、生殖機能をなくし、変更後の性別に似た性器の外観を備えるための手術をすることが要件の一つとされていました。

このうち生殖機能の手術については、この当事者の申し立てを受けて最高裁判所が去年10月、体を傷つけられない権利を保障する憲法に違反して無効だという判断を示しました。

一方、外観の手術については最高裁が審理をやり直すよう命じ、広島高等裁判所で審理が続いていました。

10日の決定で、広島高等裁判所の倉地真寿美裁判長は外観の要件について「公衆浴場での混乱の回避などが目的だ」などとして正当性を認めましたが、「手術が常に必要ならば、当事者に対して手術を受けるか、性別変更を断念するかの二者択一を迫る過剰な制約を課すことになり、憲法違反の疑いがあると言わざるをえない」と指摘しました。

そして「他者の目に触れたときに特段の疑問を感じない状態で足りると解釈するのが相当だ」と指摘し、手術なしでも外観の要件は満たされるという考え方を示しました。

その上で、当事者がホルモン治療で女性的な体になっていることなどから性別変更を認めました。

家事審判では争う相手がいないため、高裁の決定がこのまま確定しました。

弁護士や専門家によりますと、外観の手術は主に男性から女性への変更の要件とされ、手術無しで認められるのは極めて異例です。注目


当事者「生きにくさから解放 うれしい」

性別変更が認められた当事者は、弁護士を通じコメントを出しました。

当事者は「物心ついたときからの願いがやっとかないました。社会的に生きている性別と戸籍の性別のギャップによる生きにくさから解放されることを大変うれしく思います。これまで支えて下さったたくさんの方々に感謝したいと思います」としています。

代理人を務める南和行弁護士は、決定を伝えたときの当事者の様子について「ことばを詰まらせて電話の向こうで泣いている感じでした」と話し、「申し立てから5年近くかかったので、ようやく本人が安心して生活できるようになったことが何よりもうれしいです」と話していました。



代理人を務める南和行弁護士
「性別変更に必要な外観の要件について判断の枠組みを明確に示したので、各地の家庭裁判所での審判に影響がある。個別の事情から手術を受けられず、諦めていた人が申し立てをしやすくなると思う。

最高裁判所大法廷の決定以降、与野党ともに議論が始まったと聞いている。困っている人の生きづらさや不利益をできるだけ少なくするという視点で立法の議論をしてほしい」

手術要件の撤廃に反対派「強く抗議」

性別変更における手術要件の撤廃に反対している「女性スペースを守る会」は「女性ホルモンの影響で萎縮などしていても『男性器ある法的女性』であり、強く抗議する。ただ外観要件は維持されたので、何ら医療的な措置をしない男性が法的女性になる道はない。その点はよかった。何より重要なのは、特例法とは別に男性器がある限りは女性スペースの利用はできないとする法律を作ることだ」とコメントしています。

また、性同一性障害の当事者でつくる「性同一性障害特例法を守る会」は「私たちは心から手術を求め、それゆえに法的な性別の変更は世論から信頼されてきた。この判決の基準のあいまいさが社会的混乱を引き起こし、今後の特例法の改正論議に悪影響を及ぼしそうだ。すでに戸籍上の性別変更をした当事者の声を聞くべきだ」とコメントしました。注目


決定のポイントは

広島高等裁判所が出した決定のポイントです。

【外観要件は「比較的幅がある」】
今回の審理では、性同一性障害特例法で定められている、性別変更の5つの要件のうち「変更後の性別の性器に似た外観を備えていること」といういわゆる「外観要件」が議論になりました。

この要件について高裁は「自分の意思に反して異性の性器を見せられて羞恥心や恐怖心、嫌悪感を抱かされることのない利益を保護しようとしたものと考えられる」と指摘し、目的には正当性があるとしました。

一方、「要件は比較的幅のある文言を用いている。体の外性器にかかる部分に近い外見があるということで足りるとも解釈できる」との見解を示しました。
【手術を迫ることは「違憲の疑い」】
高裁は、特例法が制定された当時と現在の治療の変化に着目しました。

法律が制定された2003年当時、学会のガイドラインでは精神科での治療やホルモン治療などの身体的治療を行った上で、性別適合手術を行うという「段階的治療」が採用されていました。

しかし、2006年以降は医学的な検討を経た上で見直され、治療として手術が必要かどうかは人によって異なるとされました。こうした変化を踏まえ高裁は「手術を常に必要とするならば、当事者に体を傷つけられない権利を放棄して手術を受けるか、性自認に従った法的な扱いを受ける利益を放棄して性別変更を断念するかの二者択一を迫る過剰な制約を課している」と指摘し、「憲法違反の疑いがあると言わざるをえない」と判断しました。
【外観要件手術必要としない解釈】
その上で外観要件について「性別適合手術が行われた場合に限らず、他者の目に触れたときに特段の疑問を感じないような状態で足りると解釈するのが相当だ」とし、手術なしでも外観の要件は満たされるという考え方を示しました。

そして、今回の当事者はホルモン治療で女性的な体になっていることなどから、要件を満たしていると判断し、性別変更を認めました。

性別変更の要件をめぐる動き

2004年に施行された性同一性障害特例法では戸籍上の性別変更を認める要件として、専門的な知識を持つ2人以上の医師から性同一性障害の診断を受けていることに加え、18歳以上であること、現在、結婚していないこと、未成年の子どもがいないこと、生殖腺や生殖機能がないこと、変更後の性別の性器に似た外観を備えていることの5つを定めていて、すべてを満たしている必要があります。

このうち、生殖腺や生殖機能がないことと変更後の性別の性器に似た外観を備えていることの2つが事実上手術が必要とされていましたが、生殖機能の手術については最高裁判所大法廷が去年10月に違憲判断を示して以降、各地の家庭裁判所で手術を必要としない判断が示されています。

岡山県や岩手県、静岡県では女性から男性への性別変更が認められるケースが相次いで明らかになりました。

一方、外観に関する要件については最高裁が高等裁判所で審理をやり直すよう命じたため、憲法に違反するかどうかなどの統一的な判断は示されていません。

こうした状況について今回性別変更が認められた当事者側は「現状で外観の手術が問題になるのは男性から女性への変更の申し立てのみだ。生物学的な男女別で異なる取り扱いをするのは憲法が保障する法の下の平等に違反する」などと主張していました。

この要件については、さまざまな意見があります。

性的マイノリティーの当事者などで作る団体は「望んでいない人にまで手術を強いる形になっている今の法律は人権侵害だ」などと手術の要件の撤廃を求めています。

一方、要件の撤廃に反対する団体は「要件がなくなると手術を受けていなくても医療機関の診断で性別変更が可能になり、女性が不安を感じるほか、法的な秩序が混乱する」などと主張しています。

性別変更の要件については、法務省が最高裁大法廷の違憲判断を受けて法改正についての検討を続けているほか、公明党が手術の要件を見直す見解をまとめ、自民党にも呼びかけて秋の臨時国会を視野に法改正を目指すことにしています。注目


変更が認められるまでの経緯

当事者は5年前、2019年に手術無しでの性別変更を家庭裁判所に申し立てました。

社会生活上と戸籍上の性別が異なることで生きづらさを感じる一方、健康な体にメスを入れることの負担や、長期の入院などを強いられることなどから悩んだ末に性別適合手術は受けられないと判断したということです。

家庭裁判所と高等裁判所は変更を認めませんでしたが、最高裁大法廷は2023年10月、生殖能力をなくす手術の要件は憲法に違反して無効だと判断しました。

一方、変更後の性別に似た外観を備える手術の要件については審理を尽くしていないとして、高等裁判所で審理をやり直すよう命じました。

この判断について当事者は当時「予想外の結果で大変驚いています。今回はわたしの困りごとからなされたことで、大法廷でも性別変更がかなわず、先延ばしになってしまったことは非常に残念です」とコメントしていました。

高裁でのやり直しの審理で当事者側は、外観の手術についても体を傷つけられない権利を保障する憲法に違反しているなどと主張しました。

また、当事者の日常生活や長年のホルモン治療の結果などを総合的に見れば、性別を変更するための要件は満たしていると主張しました。


識者「画期的な判断 ほかの裁判所の判断にも影響」

性的マイノリティーの問題に詳しい早稲田大学の棚村政行名誉教授は今回の決定について「性別変更で必要とされた外観の要件を大幅に緩和し、手術をしなくても認めるという画期的な判断をした。体を傷つけることなく性自認に従って生きるという個人の尊厳や利益を真正面に捉え、当事者の救済に努めた。拘束力は無いが、ほかの裁判所の判断にも影響が出るだろう」と評価しました。

そのうえで「特例法で性別を変更するために設けられている要件がすべて合理的なのか、見直していく必要がある。個人の生き方を尊重しつつ、社会の不安を払拭するような環境整備の議論が必要だ。国会できちんと議論して法改正してほしい」と指摘しました。

林官房長官「引き続き適切に対応」

林官房長官は午前の記者会見で「国が当事者として関与しておらず、詳細を承知していないため、政府としてコメントは差し控える」と述べました。

その上で「関係省庁では去年10月の性同一性障害特例法に関する最高裁判所の違憲決定を踏まえて、実務的な課題や対応などについて検討している。立法府とも十分に連携し、引き続き適切に対応していきたい」と述べました。

男性から女性 戸籍上の性別変更 手術なしで認める決定 高裁

2024年7月10日 17時46分



性同一性障害の人が戸籍上の性別を変更するには生殖能力をなくす手術を受ける必要があるとする法律の要件について、最高裁判所大法廷は「意思に反して体を傷つけられない自由を制約しており、手術を受けるか、戸籍上の性別変更を断念するかという過酷な二者択一を迫っている」として憲法に違反して無効だと判断しました。
法律の規定を最高裁が憲法違反と判断するのは戦後12例目で、国会は法律の見直しを迫られることになります。

目次申し立てた当事者「先延ばしになり残念」
3人の裁判官 “ただちに性別変更認めるべき”


性同一性障害の人の戸籍上の性別について定めた特例法では、▽生殖機能がないことや▽変更後の性別に似た性器の外観を備えていることなど複数の要件を満たした場合に限って性別の変更を認めていて、事実上、手術が必要とされています。

この要件について戸籍上は男性で女性として社会生活を送る当事者は「手術の強制は重大な人権侵害で憲法違反だ」として、手術無しで性別の変更を認めるように家庭裁判所に申し立てましたが、家裁と高等裁判所は認めませんでした。

25日の決定で、最高裁判所大法廷の戸倉三郎 裁判長は、生殖機能をなくす手術を求める要件について「憲法が保障する意思に反して体を傷つけられない自由を制約しており、手術を受けるか、戸籍上の性別変更を断念するかという過酷な二者択一を迫っている」として憲法に違反して無効だと判断しました。

一方、そうした制約の必要があるかどうかについて、
▽子どもが生まれ、親子関係の問題が生じるのは極めてまれで解決も可能なこと、
▽特例法の施行から19年がたち、これまで1万人以上の性別変更が認められたこと、
▽性同一性障害への理解が広がり、環境整備が行われていること、
▽海外でも生殖機能がないことを性別変更の要件にしない国が増えていることなどを挙げて「社会の変化により制約の必要性は低減している」と指摘しました。

憲法違反の判断は、裁判官15人全員一致の意見です。法律の規定を最高裁が憲法違反と判断するのは戦後12例目で、国会は法律の見直しを迫られることになります。

一方、手術無しで性別の変更を認めるよう求めた当事者の申し立てについては、変更後の性別に似た性器の外観を備えているという別の要件について審理を尽くしていないとして、高等裁判所で審理をやり直すよう命じました。

申し立てた当事者「先延ばしになり残念」

最高裁判所大法廷の決定を受け、今回申し立てた当事者の代理人弁護士が都内で会見を開きました。南和行 弁護士は冒頭で申し立てた当事者のコメントを読みあげました。

「予想外の結果で大変驚いています。今回はわたしの困りごとからなされたことで、大法廷でも性別変更がかなわず、先延ばしになってしまったことは非常に残念です」としました。

一方、「今回の結果が良い方向に結びつくきっかけになるとうれしいです」としています。

南弁護士は「『法令違憲で無効だ』という判断は本当に数も少なく、法律家という意味ではとても意義がある。しかしやっと認めてもらえると思い、本人も勇気を振り絞って先月審問で裁判官に直接話したにもかかわらず、結局、大事なところは見てもらえなかった。本人が望む一番良い結論にたどりついていないことが悔しい」と述べました。

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2019年に「合憲」決定受けた当事者は

過去に手術無しでの性別変更の申し立てをして、2019年、最高裁判所で「憲法に違反しない」とする決定を受けた当事者は今回の決定について「当然だとは思っていたが、ほっとした」と話しています。

性同一性障害と診断され、戸籍上は女性で、男性として生活している岡山県新庄村の臼井崇来人さんは、手術要件が違憲だとして性別変更の申し立てを行い、最高裁判所まで審理されましたが、2019年の決定で「憲法に違反しない」とされました。10月25日、別の当事者の申し立てで違憲判断が出たことを受けて、オンラインで取材に応じ、「当然だとは思っていたがほっとした」と話しました。

最高裁の決定の影響については「当事者の人たちは性別変更をするためには手術をしなければいけないという強迫観念のようなものがあったと思う。今後はそこから1歩、距離を置いて自分はどうありたいのか、自分はどうしたいのかというのをしっかりと落ち着いて考えられるようになる」と話しました。

臼井さんは再び性別変更の申し立てを検討しているということで、「これまでは本人証明書を取りに行くときに自分自身の存在がそこにないような気がして嫌だった。パートナーとは、この決定で性別変更ができて、結婚できたらうれしいねと話をしました」と話しました。

今後予想される法律の議論について「トランスジェンダーに対する理解は徐々に進んでいるとは思うが、まだまだの部分もあるので当事者の話をしっかり聞いて、いい制度になるような法改正をしてほしい」と述べました。

3人の裁判官 “ただちに性別変更認めるべき”

決定では、15人の裁判官のうち3人が、審理をやり直すのではなく、ただちに男性から女性への性別変更を認めるべきだとする反対意見を述べました。

3人は、高等裁判所で審理を尽くすべきだとされた体の外観に関する要件について、目的や不利益などを詳しく検討しました。

検察官出身で2019年の別の人の申し立てでも審理を担当した三浦守 裁判官は、「要件を満たすには外性器を取り除く手術やホルモン療法を受けることが必要だ。手術は体を傷つけ、ホルモン療法も相当な危険や負担を伴う」と指摘し、この要件も憲法違反で無効であり当事者の性別の変更を認めるべきだとしました。

また、この要件が設けられた目的として「体の外観が法的な性別と異なると公衆浴場で問題が生じるなどの可能性を考慮したものだが、風紀の維持は事業者によって保たれており、要件がなかったとしても混乱が生じることは極めてまれだと考えられる」と述べました。

学者出身の宇賀克也 裁判官も「男性から女性への性別変更を求める人の場合には通常、手術が必要になり、意思に反して体を傷つけられる程度が大きくホルモン療法も重い副作用の危険がある」として外観に関する要件も憲法に違反すると述べました。

弁護士出身の草野耕一 裁判官は外観に関する要件について「意思に反して異性の性器を見せられて羞恥心や恐怖心などを抱かされることがない利益を保護することが目的だ」と述べました。

その上で、「この規定を憲法違反だとする社会の方が、合憲とする社会よりも善い社会といえる」と述べ、この要件も憲法に違反するとしました。

弁護士出身の岡正晶 裁判官は審理をやり直すよう命じた決定を補足する意見を述べました。

この中では「今後、国会が生殖能力をなくすための手術の要件を削除すると考えられる」とした上で、「より制限的ではない新たな要件を設けることや、削除によって生じる影響を考え、性別変更を求める人に対する社会一般の受け止め方との調整を図りながら特例法のそのほかの要件も含めた法改正を行うことは可能だ」と述べました。

特例法の要件と過去の判断

2004年に施行された性同一性障害特例法では、戸籍上の性別変更を認める要件として、専門的な知識を持つ2人以上の医師から性同一性障害の診断を受けていることに加え、▽18歳以上であること▽現在、結婚していないこと▽未成年の子どもがいないこと▽生殖腺や生殖機能がないこと▽変更後の性別の性器に似た外観を備えていることの5つを定めていて、すべてを満たしている必要があります。

このうち▽生殖腺や生殖機能がないことと▽変更後の性別の性器に似た外観を備えていることの2つが事実上手術が必要とされています。

司法統計によりますと、2022年までに全国の家庭裁判所で1万1919人の性別変更が認められました。

一方、「手術無しで性別変更を認めてほしい」という申し立てもあり、最高裁判所はその1つに対し、2019年1月、「変更前の性別の生殖機能によって子どもが生まれると、社会に混乱が生じかねない」として、4人の裁判官全員一致で憲法に違反しないと判断し、申し立てを退けました。

ただ、4人のうち2人は「手術は憲法で保障された身体を傷つけられない自由を制約する面があり、現時点では憲法に違反しないが、その疑いがあることは否定できない」という補足意見を述べました。

専門家「勇気がもらえる重要な決定」

性的マイノリティーの人権問題に詳しい青山学院大学の谷口洋幸教授は、最高裁判所が示した憲法違反の判断について、「当事者にとっては生きやすさが保障され、勇気がもらえる重要な決定だ。これまで法律上の性別を変更するために不本意に生殖腺を除去せざるをえなかった人が、自己決定に基づいて性別のあり方を決められるようになる」と指摘しました。

「変更後の性別に似た性器の外観を備えている」という別の要件のため高等裁判所での審理のやり直しが命じられた点については「外観の要件についても今回の違憲判断の論理をそのまま適用することが可能だ」と述べました。

一方、「女性が不安を感じるほか、法的な秩序が混乱する」などとして手術の要件の必要性を訴える意見については、次のように話しました。

谷口洋幸教授
「当事者たちの実際の生き方への理解が進めば十分解決できる問題だと思う。特例法が定めているのはあくまで戸籍の記載についてであり、すべての場面で変更後の性別で扱われるかという点については、別にルールを設けることもできるので、議論していくことになる」

性別適合手術 リスクや負担も

戸籍上の性別を変更するのに必要な性別適合手術とはどういうものなのか。性同一性障害学会の理事長を務め、医師として当事者の診療にあたっている岡山大学の中塚幹也教授に手術内容や患者の負担について聞きました。

中塚教授によりますと、性別適合手術とは精巣や卵巣などの生殖腺を取り除いて生殖能力を永久的に無くし、男性器や女性器に似た外観を備える手術のことを指します。女性から男性への手術の場合、あわせて乳房を取る手術を希望する人も多いということです。

手術は半日から1日かかり、輸血が必要になったり、合併症が起きたりするリスクはあるということです。また、高齢の人などはリスクが高まる傾向にあるということです。

費用は手術内容などによって異なり、自己負担の場合、数十万円から200万円以上かかるということです。手術自体に保険は適用されますが、手術の前に継続的にホルモン療法を受けていた場合、手術も含めて保険の適用にはなりません。

こうしたホルモン療法が保険適用外で、手術も含めて一連の治療とみなされるためです。このため実際は今も、高額の手術料を自費で負担している人が多いということです。

中塚幹也 教授
「合併症のリスクなど医学的な理由で手術ができない人がいるし、お金がなくて手術を受けたくても受けられない人もいる。手術をした人もできない人も、戸籍上の性別を変更できるようになることが重要だ。それが自分らしい人生を送ることにつながると思う」

25日の決定を受け、中塚教授は「時間はかかるかもしれないが、今回の決定をてこに法律の改正に向けて議論が深まればいいと思う。今後の立法府での議論に期待するとともに、性同一性障害の人たちへの正しい理解が広まることを期待したい。一方で手術を望む人もいるので、学会としても、ホルモン療法の保険適用などの実現に向けて努力したい」と話していました。

「撤廃」「必要」手術要件めぐり意見

性別変更の手術要件に関する最高裁判所の審理をめぐっては、要件を▽撤廃すべきだという団体と▽必要だとする団体の双方が要請活動を行うなど、さまざまな意見が出ていました。

「LGBT法連合会」のメンバーなどは10月5日、最高裁を訪れて違憲判断を求めました。団体では「体の負担が大きい手術をしなければ性別を変えられないのは人権侵害だ。戸籍上の性別が違う人たちの不利益を改善してほしい」などと主張しています。

一方、「女性スペースを守る会」などの団体も10月17日に最高裁を訪れ、憲法に違反しないとする判断を求めました。団体では「要件がなくなると手術を受けなくても医療機関の診断で性別変更が可能になり、女性が不安を感じるほか、法的な秩序が混乱する」と主張しています。

《政府や各党の反応》



政府「関係省庁で精査し対応」

森屋官房副長官は記者会見で「決定が出されたことは承知しているが、それ以上の詳細は現時点で掌握していない。今後、関係省庁で決定内容を精査の上、適切に対応していくものと考えている」と述べました。

各党の反応

立憲民主党の長妻政調会長は「性的マイノリティーの方々の権利を守るためのまずは第一歩を踏み出したということで当然の判断だ。判断を受け、わが党としても今国会の法案提出を目指して準備を加速させたい」と述べました。

日本維新の会の馬場代表は「きょうの結論も議論道半ばという感じだ。人間の体が関わる部分はそれぞれの倫理観や宗教観が複雑に絡み合い、政治の場で簡単に多数決で決める話ではない。司法も世論も議論を深めるべきで、もう少し時間をかけるべきだ。拙速に政治で結論を出すのはやめた方がいい」と述べました。

公明党の石井幹事長は「裁判官全員一致での憲法違反の判断なので、重く受け止める必要がある。公明党は手術を受ける必要があるとする法律の要件自体は人権の観点から見直すべきと従来から主張している」と述べました。

共産党の志位委員長は「自分の体のことは自分で決める当然の権利を認めた重要な判断だ。特例法を制定した当時は、国際的にも医学的疾患とされていたが、その後、本人の性自認のあり方を尊重するモデルへの移行が進み、そういう流れに沿った当然の判断だ。今回の最高裁の決定を踏まえ、法改正への責任を果たしていく」と述べました。

国民民主党の玉木代表は「極めて重要な判決で、トランスジェンダーの方にとって画期的だ。一方で、生まれながらに女性の方、生まれながらに男性の方が困惑しない、あるいはいろんなマイナスを受けないために最低限満たすべき新たな性別変更の要件が何になるのかよく分析した上で、周知徹底を図っていくことが必要ではないか。新たな立法措置を含め立法府の責任が問われるようになると思うので速やかに議論を深めていきたい」と述べました。

法務省「厳粛に受け止め適切に対応していきたい」

法務省は「厳粛に受け止め、決定内容を十分精査した上で適切に対応していきたい」としています。

法務省によりますと、今後、各地の家庭裁判所で、生殖機能をなくす手術を受けていなくても戸籍上の性別変更を認める判断が出されることも想定されるということで、手続きを行う市区町村が混乱しないように法務局に通知を出すなどして対応していきたいとしています。

また法務省は、性同一性障害の人の性別変更について定めた特例法が議員立法として提出されたことを踏まえ「法改正の議論を内閣が行うのか立法府が行うのか調整が必要だ」としていて、改正案の提出は早くても来年の通常国会になるとみています。

性別変更の手術要件めぐり 特例法の規定は憲法違反 最高裁

2023年10月25日 21時25分






トランスジェンダーの女性や男性はどっちのトイレを使うべきか論争

7月11日、経済産業省に勤める50代のトランスジェンダーの女性職員が、職場の女性用トイレの使用を制限されるのは不当だとして国を訴えた裁判で、最高裁判所は、全員一致の判決で、トイレの使用制限を認めた国の対応は違法だとする判決を言い渡しました。つまりは、トランスジェンダーの女性は女性トイレを使用していいという判決でした。

この判決の前に先月LGBTQ法案の議論において焦点になったのが、「性自認を偽る男性が女子トイレに入ってくるのではないか」という不安でした。「トランスジェンダーといえばトイレ」という自動認識ができてしまったくらい多くの人を恐怖に包むこの不安、実際はどうなのでしょうか? データを吟味して一緒に考えてみましょう。
性加害の対応が甘い日本

こういった不安が生じるのは、第一に、日本の女性が常に性加害の危険に曝されているという事実が原因と思われます。日本に来る外国人が驚く事実の一つが、日本の性の扱いの緩さだと聞きます。男女共同参画のHPにも「痴漢は重大な犯罪です」と明記されているにもかかわらず、痴漢が後を絶たず、お風呂や更衣室ののぞきが子どもの漫画にコミカルなシーンとして描かれています。女性が胸元をあらわにするようなグラビア写真が表紙の雑誌や広告がそこら中で目に入ります。そして芸能界での小児性加害も裁判が起きたにもかかわらず、問題視され始めたのはここ最近です。多くの他先進国では「ありえない」と思われることが「日常の一部」として扱われる日本の問題は大きいです。私自身も幼い頃に日本の満員電車で痴漢にあったことがありますし、未だに夜は一人で歩かないようにしたりと、女性として、危険を常に警戒しています。
6月に世界経済フォーラムから発表された、各国の男女格差を表すグローバルジェンダーギャップ・リポートで日本は146か国中125位で、過去最低位を再度更新しました。この順位に象徴されるように、女性として社会の様々な中での安全の基盤が保障されないことが、今回の「女子トイレ論争」の火種になっていることは間違いないでしょう。

性犯罪は「犯罪」なのです。そして性犯罪は絶対にダメなこと。性犯罪を予防する対策は国家レベルで真剣に取り組まなければなりません。「性自認を偽った男性が女子トイレに入ってくる」ことは性犯罪であり、その人は変質者であり、取り締まられるべきです。そしてトランスジェンダーの方の人権を大切にすることと、性犯罪者の取り締まりは切り離して考える必要があります

ただ、実際切り離して考えるのは難しいと思う人もいるでしょう。トランスジェンダーの方が自分の性自認に合う性別のトイレの使用を許可されることで、多くの人が不安に思っているような性犯罪は増えるのか。幸いこの問題に関しては、他の国のデータがあります。
逆に、民主党支持州であるニューヨークやカリフォルニア州は既に20年近くにわたり、幼稚園から高校までの学生が性自認に応じたトイレやロッカールームを使用する権利を認めてきました。これらの州で性自認に応じたトイレの使用が法的に認められる前より、男性が女性専用スペースにアクセスするために女装したという過去の例はいくつかありました。しかし、そういった法が制定された後、そのような行為が増加したという記録はないのです。

私が住むマサチューセッツ州でも、性自認と合致するトイレや更衣室を使える地区と禁止されている地区で、のぞきや性犯罪などの頻度が変わらなかったという結果が報告されました。

警察や学校関係者もLGBTQ差別禁止法施行によって、このような例の増加は見られていないと明言しています。

女性に対する暴力阻止に取り組む米国の主要組織であるThe National Task Force To End Sexual and Domestic Violence(性暴力と家庭内暴力を終わらすための米国国立タスクフォース)も、たびたび次のような声明を出しています。

「性自認に合致した性別のスペースに入って良いという法律ができると、男性が女性のスペースに入るという議論は、誤りです」
「私達は、すべての性被害やDVのサバイバーのニーズに応え、社会全体の性的暴行や家庭内暴力を減らすために日々活動している団体で、レイプ危機センターやシェルター、その他のサービスの提供者です。このように日々性加害を減らすために活動している私達の経験と専門知識に基づいて、これらの主張は誤りであると述べます」

この団体は、「女性を危険に晒すリスク」についての専門家の集団であり、また女性の危険に繋がる可能性のある法律には真っ先に反対する団体です。 更に声明の中では、「トランスジェンダーの人々への差別をすることで、自分の身体や安全のコントロールを増す人は誰もいない」(Discriminating against transgender people does not give anyone more control over their body or security. )という言葉も記しています。
更に、少し違う話ですが、世界的に安全が確認されて妊娠中の接種も推奨されている新型コロナワクチンに関しても、反ワクチン団体が発信した偽情報の中で最も蔓延したのが「ワクチンを打つと不妊になる」というものでした。

このように、扇動者が誤った情報を利用して『私たちは女性と子供たちの安全を守らなければならないから、彼らの権利を認めてはならない』という理論で多くの人の恐怖を生み出し、政治的なアジェンダを動かした例は今までにいくつもあるのです。「女、子どもを守る」は今までに、メキシコ移民や有色人種などの人種差別を正当化することに利用されました。

しかし、その過程で、実際に「女、子どもを守る」ための議論や政策は置いてきぼりになりました。 

トランスジェンダーの方々も恐怖を感じている

最初に申し上げた通り、この論争の何よりもの火種は、女性が性被害を恐れなければならない状況が実際にある、ということです。どこでも怖いと感じているのに、トイレというのは、更になすすべ無しの場所であり、女性や子供は一般的に暴行を恐れる正当な理由があるのです。

実はこの恐怖を感じなければならないのは、トランスジェンダーの方々も同様です。研究によると、トランスジェンダーの人々は性被害の被害者になるリスクが高いことがわかっています。
例えば、米国小児科学会誌に掲載された論文によると、3673人のトランスジェンダー、あるいはノンバイナリーの中高生を対象にした調査で、1年間で性被害にあったトランス男子は26.5%、トランス女子では18.5%でした。そして、性自認と合致しないトイレや更衣室を使わなければならなかった人の方が統計的に性被害に合った確率が高かったという結果でした。この数値は一般的に報告されているシスジェンダー(生まれた性と性自認が同じ)の女性よりも遥かに高い数値でした。

だからこそ、尚更、性犯罪防止のための法律の改善、また社会全体として性犯罪を軽く扱われてしまう文化からの脱却が必要なのです。

◇その脱却のためには、トランスジェンダーも含めた性の真の理解が重要です。後編「「男性役員が女の性自認になればいい」トランスジェンダーへの無理解発言、あまりの罪深さ」では、「性自認」ということがどういうことなのか根本的な理解を間違えている問題から、本当に人権を守るために大切なことをお伝えしていきます。
参考文献


性自認と合致するトイレを使うことで性犯罪は増えていないhttps://www.cnn.com/2017/03/07/health/transgender-bathroom-law-facts-myths/index.html

性自認に合うトイレ使用許可をしていない州をハイライトしたアメリカ地図
https://www.lgbtmap.org/equality-maps/nondiscrimination/bathroom_bans

性自認と合致するトイレや更衣室を使える地区と禁止されている地区で、のぞきや性犯罪などの頻度が変わらなかったというマサチューセッツ州の研究結果
https://link.springer.com/article/10.1007/s13178-018-0335-z

性暴力と家庭内暴力を終わらすための米国国立タスクフォースの声明
www.4vawa.org/ntf-action-alerts-and-news/2018/4/12/national-consensus-statement-of-anti-sexual-assault-and-domestic-violence-organizations-in-support-of-full-and-equal-access-for-the-transgender-community

トランプ元大統領の「メキシコ人移民は強姦者だ」発言
https://www.washingtonpost.com/news/the-fix/wp/2017/06/16/theyre-rapists-presidents-trump-campaign-launch-speech-two-years-later-annotated/

トランスジェンダーの人々が性被害の被害者になるリスク
https://publications.aap.org/pediatrics/article/143/6/e20182902/76816/School-Restroom-and-Locker-Room-Restrictions-and

後編「「男性役員が女の性自認になればいい」トランスジェンダーへの無理解発言、あまりの罪深さ」はこちら

性自認に合うトイレを使える国で、「トランスジェンダーのふり」する性犯罪は起きているのか

前編



内田 舞

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