石破茂氏「『在米日軍』設置で日米地位協定は改定できる」坪内隆彦 国を磨き、西洋近代を超える坪内隆彦 国を磨き、西洋近代を超える2024年9月27日 21:05PDF魚拓
5年前の令和元年6月、筆者は古巣の『月刊日本』で、新連載「不平等条約『地位協定』を抜本改正せよ!」を開始した。1年以上継続した連載の初回に登場していただいたのが、本日自民党総裁に就いた石破茂氏だ。以下、インタビュー記事を紹介する。これから地位協定の問題が日米関係を左右すると考えるからだ。キーワードは「在日米軍」、ではなく「在米日軍」の設置だ。
■防衛庁長官時代に地位協定改定の必要性を確信した
── 日米地位協定の問題をどのようにとらえていますか。
石破 日米地位協定は、国家主権の問題として考えなければなりません。「全土基地方式」という言葉に示されるように、日米地位協定は、実質的に「アメリカが欲するところ、欲するときに、どこでも基地を提供する」ことを許しています。地位協定は、アメリカに極めて有利な法的地位を与えているのです。
1951年9月のサンフランシスコ講和条約を前に、アメリカは日米安保体制によって全土基地方式を日本に認めさせようと考えていました。同年1月に、講和交渉のために来日したダレス国務省顧問は、「我々は日本に、我々が望むだけの軍隊を望む場所に望む期間だけ駐留させる権利を獲得できるであろうか? これが根本的な問題である」と述べていたのです。
── 地位協定は、日本側の捜査権や裁判権を著しく制限しています。
石破 私が小泉政権の防衛庁長官を務めていた2004年8月、米軍ヘリが沖縄国際大学に墜落する事件が発生しました。事故直後、米軍が現場を封鎖し、事故を起こした機体を搬出するまで日本の警察や消防は現場に立ち入れませんでした。放射能汚染の疑いも指摘されましたが、土壌や機体は全て米軍によって回収されてしまったため、解明することはできませんでした。
奇跡的に、日本人には死傷者はでませんでしたが、一歩間違えば大勢の犠牲者が出たかもしれません。その時から、私は地位協定のあり方そのものに疑問を持ち続けてきました。このまま地位協定を改定せず、さらに悲惨な事故が起これば、沖縄が反米の島と化し、日米安保体制を根幹から揺るがすことにもなりかねないと思ったからです。
沖縄県民に「日本政府はどっちの味方なの」という思いを抱かせるようなことがあってはいけません。沖縄県民には「日本政府は日本人の味方、沖縄の味方だ」と思ってもらえるように、政府は常に努力を続けなければならないのです。
── 広大な横田空域は、未だに米軍が管制しています。
石破 海の場合には無害通航権が認められていますが、空には無害飛行権といったものは存在しません。本来、領空主権は国家にとって領土に次ぐ絶対的なものだということです。
横田空域は、日本に航空管制の能力がなかった時代に、暫定的に設けられたものです。ところが、戦後70年以上経ってもなお、アメリカが管制権を持っています。私は、週に何度も西日本と東京を飛行機で行き来していますが、伊豆大島の辺りを通過し、千葉の房総半島上空まで迂回し、羽田に向かわなければなりません。横田空域の問題も、飛行時間の短縮や燃料の節約という問題以前に、まず国家主権の問題として改善すべきものです。
── 沖縄で米兵による事件や米軍機事故などが起きる度に、沖縄は地位協定改定を政府に要求してきましたが、政府は運用の改善で済ませてきました。
石破 今まで「運用の改善」で有利な条件を引き出してきた経緯があるのも事実です。ですから外務省は、地位協定そのものの改定に手をつけることで、これらの有利な条件をかえって失うのではないかとの危惧も持っているでしょうし、アメリカとの膨大な議論とそれに伴う膨大な事務作業が大きな負担になるとも考えているのでしょう。その根底には、特別の緊要性もないのにアメリカの機嫌を損ねたくないという意識もあるのだと思います。ある外務大臣経験者は、「地位協定の改定は外務省内では禁句だ」と言っておられたことがあります。
しかし、これらは全て強い政治的意思があれば前に進められることだと思います。地位協定を改定するには、日米安保条約自体を変えなければならないとの考え方もありますが、私は今は安保条約を改定しなくても地位協定は変えられると考えています。ただ、そのためには国家主権の重要性について国民の意識が高まることが絶対に必要です。明治期の日本の為政者は、国家の独立、主権の重要性を認識していました。私は日清戦争、日露戦争は日本の独立を守るための戦争だったと考えています。そして、安政期に列強と結んだ不平等条約の改正は、明治の日本人の悲願でした。しかし、太平洋戦争に敗れてから、日本人は国家主権をあまり考えないようになってしまいました。学校でも、国民主権についてはいやというほど教わりますが、国家主権についてはほとんど教わりません。
今は、国民全体として「地位協定は沖縄の問題でしょ」という感覚が強いのではないでしょうか。しかし、地位協定の問題は決して沖縄だけの問題ではなく、横須賀、三沢、岩国などの問題でもあり、日本全体の問題なのです。
■「在米日軍」設置による地位協定改定
── 保守派の多くは、中国や韓国に対しては主権を強く主張しても、アメリカには何も言いません。
石破 地位協定の問題を取り上げると、「お前は左翼か」「反米思想を唱え、中国を利するつもりか」などと批判されることがあります。しかし私は、そうした批判は保守として正しくないのではないかと思います。むしろ現実的な保守の側こそが、国民に向かって国家主権の問題としての地位協定の問題点を語りかけなくてはならないはずです。国家主権の問題は本来、イデオロギーとは何の関係もありません。
── 地位協定改定をアメリカに納得させるには何が必要ですか。
石破 私は、日米地位協定の問題は、他国がアメリカと結んでいる協定との比較ではなく、「アメリカにおいて日本の自衛隊が受ける法的地位と日本において米軍が受ける法的地位が同じかどうか」という視点で考えるべきだと考えています。
現在アメリカに自衛隊の恒常的な施設はないので、そうした議論にはなりません。しかし、自衛隊が米国内に恒常的な施設を置くというのは、非現実的なことではありません。
日本国内での自衛隊の訓練には様々な制約があります。そこで、今でも行っている日本の自衛隊の米国内における訓練を常態化し、アメリカに常設の訓練施設を置くことを、アメリカに提案するのです。日本を取り巻く非常に厳しい安全保障環境を考えた時、自衛隊の訓練体制を強化し、そのスキルを上げることは、日米同盟にとって大きなプラスになります。わが国が「在米日軍(自衛隊)」を置くことをアメリカに提案してはじめて、アメリカ側も地位協定の改定の必要性に気づくはずです。現状のままの一方的な地位協定であれば、アメリカから変えようとは言ってきません。日本側がアメリカを説得し、改定を要求しなければならないということです。
── 自民党内に地位協定を改定すべきという声は広がっているのでしょうか。
石破 少しずつ広がっていると思います。我々の政策グループ「水月会」でも、地位協定の勉強を進めています。先日も、『主権なき平和国家』(布施祐仁氏との共著)を著した伊勢崎賢治・東京外国語大学教授を招いて、地位協定の勉強会を開きました。地位協定の話は票にはならないかもしれません。しかし、国家主権の問題は最も重要な問題の一つです。地位協定改定についての議論をさらに広げていきたいと思っています。(聞き手・構成 坪内隆彦)
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