大麻を所持したとして大麻取締法違反(所持)罪で起訴され、「がん治療目的の使用だった。生存権の行使だ」として無罪を主張していた末期がん患者の元シェフ、山本正光被告(58)が25日、肝臓がんのため死去した。関係者によると、容体が急変したという。被告の死亡により、公訴は棄却される。次回は8月に論告求刑公判が開かれる予定だった。
山本氏の公判をめぐっては、産経ニュースが今年4月、「末期がん患者が最後にすがった大麻は違法か? 劇的改善の被告が『命守るため』と無罪主張 司法の判断は…」と題した記事を掲載。「医療用大麻」解禁の世界的風潮や日本での現状などを報じた。インターネット上で大きな議論を呼んだほか、傍聴者の増加で法廷も広い法廷へと変更されるなど注目された。
7月12日に東京地裁で行われた被告人質問に車いすで入廷した山本氏は「がん患者の気持ちはがん患者にしか分からない。最初は『治るだろう』と思う。しかし治らず、徐々に絶望感と焦燥感に襲われる」「ネットで大麻ががんに効く可能性を知ったが、入手ルートもなく、お金もそれまでの治療で使い切っていたので、自分で種を手に入れて栽培した。使用したら痛みが緩和し、食事を口から取れるようになり、がんマーカーの数値が下がった。抗がん剤を使うと自殺したい気持ちになっていたが、それもなくなった」などと述べた。
その上で「現実に苦しみ、何とか生きようとしている人の希望を、誰がどんな権利で奪えるのか。いい治療法があれば大麻は捨てるが、私にはなかった。患者の選択肢の一つとして医療用大麻を使えるようにしてほしい」などと訴えた。
山本氏は公判で「他のがん患者のためにも、判決を見届けるまで死ねない」と述べていたが、かなわなかった。